第20話:政府マーちゃん解禁令。この、隠れマーちゃニストどもが!

次の日の朝、学校に行ったら、地鳴ぢなりのように校舎がガナリ立てていた。

どこもかしこもズワンズワンマーちゃんの噂で揺れ響いている。

なんちゅう狭い町やねん……とツッコむ余裕もなく私は噂の対応に追われた。

女子生徒みんな、散歩に連れてってもらえる犬のように目をキラキラさせて

「時岡くんの話、マジ!?」

と私にせまってきた。

無口で口下手なマーちゃん……、

私は「時岡くん本人に聞いてよ」と放り投げることはできず、

石川翔と沢田唯人と相談して、

スカウトされたのは事実だけど、それ以上は何も知らない、とだけ言った。

あとは流れに任せて出来るだけマーちゃんをフォローすることにした。

朝、遅れてマーちゃんが現れると、

女子生徒野郎どもみんな、

ライヴ前のアイドル歌手を待ち受ける熱狂的なファンのように雄叫びを上げた。

マーちゃんは一夜にしてアカデミー主演男優のように祭り上げられた。

結局、これが事実上の「マーちゃんのイケメン解禁日」となった。

今まで認めたいけど認められないジレンマに苦しめられていたマーちゃんの美貌をこれからは正々堂々とあがめたてまつることができるのである。

だったら初めっから好きって言えよってツッコみたくはなるけど、

校内一の不良だもんね……。

なかなか言いにくいよね……。

まあ、とにかく、その「校内マーちゃん禁止令」が見事にけたわだ。

おめでたいんだか哀れなのか、

とにかく女子生徒がマーちゃん目がけて視線を集中させ、

溜まりに溜まった欲求をぶつけている。

それで、当のマーちゃんはというと、普段と変わらず無愛想で完全に女子の好意は無視している。

「綺麗すぎて迷惑だから視界に入らないでくださーいッ!」

なんてジョークでウッと不意をつかれるときもあるけど基本的に無視である。

写真を撮らせてくれとか握手してくれなんかのしつこいアグレッシブなアプローチになると

「いい加減にしろよッ!」

と一喝してねずみを追い払う。

ここはヤンキーの本領発揮か。

これをやられて喜んでるドM子さんたちもいるけど、

マーちゃんはまったく相手にしてない。

女子は基本的にのれんに腕押し状態。

男子はというと、マーちゃんが真剣に不器用に女子の熱い視線を無視しているのでやっかむ者はいない。

「硬派だなあ……」

と感心していて、だいたい好意的な反応だった。

中には「俺だったら速攻デビューするのにな」と馬鹿にしてる者もいた。

でも、こちらもマーちゃんは無視。

とにかく、普段と変わらないいつもの一匹狼のマーちゃんである。

あ、それとちょっと書き加えると、森岡真貴子である……。

落ち込んでたなあ、森岡真貴子。

あいつが一番熱狂的なマーちゃんファン「マーちゃニスト」だったからね。

口には出さないけど、女子生徒が邪魔で

今までのように独占的にマーちゃんにアプローチすることができなくなってしまった。

気の毒な話である。

でも、まだ、森岡真貴子には追試が残っている。

これで夏休みの補習に持ち込んでマーちゃんを独占したいんだろうなあ。

まあ、しかし、そうはさせないよ。

私はマーちゃんの試験勉強を手伝い続けることにした。

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