第11話:最後まで「純」でいく。アホだけどこれしか出来ないんだから!

真っ黒い公営住宅にたどりつく……。

コンクリートが、カビだかススだかで薄汚れてる……。

ホントに鼻がひん曲げられるほどっさ~だ。

でも、こんな公営住宅でも入居を順番待ちしている人は山のようにいる。

家賃が安いからだ。

母は超低所得と乳児を抱えているってことで抽選に通った。

今でも

「あのとき落ちてたら今ごろ破産してたね」

とシャレにならない口調で言う。

そんな寝床ねどこに私は帰る。

帰ったらまず夕食を作る。

残業で疲れて帰ってくる母の分もだ。

ほとんどが中華料理の炒め物。

手っ取り早くて覚えやすいから。

たまに澄ちゃんが煮物を持ってきてくれる。

これはホントにレパートリーの少ない私にとってはありがたい。

でも、それは母のために取っておく。

私は淋しい中華を作って独りで食べる。

蛍光灯のわびしい音がブーンと頭の中を旋回せんかいして鳴る。

それだけ……。

あとは勉強。

勉強……。

それしかやることがない……。

冴えないよねえ、勉強って……。

でも、それは、つまり自由時間があるってことだ。

マーちゃんも石川翔も沢田唯人もみんなこの時間は家の手伝いをしている。

私は勉強だけど自由なんだ。

やっぱり恵まれていると思う。

マーちゃん……。

私はなんとかマーちゃんの追試を助けたいと思う。

恵まれた環境にいるんなら、それは……それは……、何て言うの?、

難しいけど上手い言葉あったよね、

カーネギーとかいうアメリカの実業家が……、

何だったかな……、そうそう!、「還元!」。

還元しないとなあ……。

私が得た幸せをマーちゃんたちに回さないと……。

澄ちゃんがときどき母に「景気悪い」となげくことがある。

その話の枝葉えだはから、マーちゃんが文句も言わずに店の手伝いをしていることも伝わってくる。

澄ちゃんは、マーちゃんに申し訳ないって気持ちと、なんとか楽をさせてやりたいって気持ちをなげいていた。

黙々と働くマーちゃんの姿を見るのがつらいらしい。

「黙々」ってのがこたえるらしい。

でも、無口はマーちゃんのキャラなんだけどね。

でも、マーちゃんの手を借りないと正直しんどいのも厳しい現実だと重く語っていた。

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