第9話:想像処女喪失って?、それを言うなら想像妊娠。

授業が終わるまで私はトイレで暇をつぶし、10分休みのドサクサに教室へ戻った。

戻ってまずマーちゃんを見た。

私を気に掛けるだろうか?。

「よーう、延塚、ゲリなおったか!」

と男子生徒がからかってきてみんな私に注目した。

でも、マーちゃんは相変わらずクールに教科書を読んでいた。

私は何となくガッカリしたような安心したような……。

私の助け舟というかアプローチはつまり極めてどうでもいいことだったのか?……。

何だか泣ける。

でも、マーちゃんが廊下で私を助けて、今度は私が授業で助けたという、

何と言うか、ある心理的なつながりができたのは事実だ。

次にこれをどう発展させるのか?。

とにかく私はマーちゃんの追試を助けたい。

そこまでの関係に持っていければ……。

悩むなあ……。

どうなの?、こんな悩み、誰も知らないんだろうな。私とマーちゃんの関係なんて。

校内一のヤンキーとガリ勉。

みんな私たちの関係を知ったらどう思うだろうね?。

私たちだけの関係。

暗黙のツーカーとでも言えばいいのか?。

でも、ツーカーだけに、次の新しい斬新ざんしんな手が出てこない。

そんなこんなでめ手に困っていると浅野多久美が次の模試の宣戦布告をしてきた。

「どうよ?、自信は?」

うるさいなあ……とやりすごしつつ、

そうなんだよな、私はマーちゃんのことばかり考えてられないんだ、

と改めて気付かされる。

マーちゃんの追試とほぼ同時期に行われる次の実力模擬試験になんとしてでもこの浅野多久美に勝たなくてはならないのだ。

前回は浅野多久美に1位を奪われたので今回はどうしても返り咲きたい。

と言うより浅野多久美に勝ちたい。

前回負けたときに「後塵こうじんはいす」なんて難しい言葉を覚えた。「赤貧」以来だ。

模試はとにかく毎回我慢比べで試験範囲も広く気を抜けない。

ちょっと油断すると2位どころかベストテンからもすべり落ちてしまう。

浅野多久美に負けたくないなあ……。

だいたい私は浅野多久美をそんなに意識してなかったのだ。

それが、中学に入って急に浅野多久美が私をライバル視するようになった。

原因は浅野多久美の理数系コンプレックス。

もともと「元祖学年一秀才」は浅野多久美だった。

暗記モノは浅野多久美の独壇場なのだが、それが理科・数学になると絶対に私に勝てない。

そこから、あからさまに

「数学なんて要領なんだよ。汗をかくのは暗記モノなんだ」

などと私に面と向かって悪たれをついてくる。

そんな買いもしないケンカを無理やり売りつけられて私も珍しく熱くなってしまって、

今ではもう引き返せない意地の張り合いになっている。

今度の模試は最後の勝負。

全クラスの生徒も注目している。

徹底的に勝負してやろうと思っている。

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