第三十四話 ムト、聖獣と戦います

「フィクソア、アランエスケルとゴレイラを回収して!」


 遠目に見える鳥形の聖獣は羽ばたきながら宙空にとどまってる。

 お供の幻獣を一瞬で全滅させたこちらを警戒してる?

 とにかく今のうちに二人の魔道具を解放させたい。


「アランエスケル、ゴレイラ、合流して!」


 『聖なる声』で声を届ける。


《なんでアヤ様が?》


《承知しました!》


 驚くアラン妹と、さすが冷静な盾役のゴレイラ、反応がいい。

 外壁から少し離れた位置で迎撃していたアランエスケルを先に拾う。


「アヤ様! それに、これは? さっきの攻撃は?」


「アランエスケル、まず南の聖獣を倒したい」


 ゴレイラに向かう『ドウロン』の上で、彼女の目を見て言う。

 南を優先したのは、空を飛ぶ聖獣や幻獣が街の脅威になっているからだ。

 そのためにゴレイラだってこっちに来てたんだろう。


「はい、幻獣に手こずっていた私が言えることじゃありませんが、倒したいです!」


 その真剣な顔に頷く。


「ゴレイラ回収します!」


 フィクソアの声に、速度を落とした『ドウロン』にジャンプで乗り込むゴレイラ。


「アヤ様、ご指示を」


「フィクソア、外壁より上、聖獣と対面に」


 すばやく移動する『ドウロン』

 聖獣の位置は変わらない。

 距離は500メートルくらい。


「アランエスケル、ゴレイラ、あなたたちの魔道具は、あなたたちの願いでもっと強くなる。わたしがそれを教えてあげる」


 それぞれの魔道具に触れながら、その力の方向を見定める。


「まずはこの子たちを信じて、そして、その力を使って何をしたいのか願って」


「願い……」


「俺の願いは決まっている」


 まず、ゴレイラの『エスクド』が金色に輝く、光が分離して収まった先に、同じ形状の実体の盾が右腕にも備わっていた。

 続いてアラン妹の『セキケン』が金に染まる。

 形状が変化したかと思うと、右手に剣を持ち、左手に銃を持っていた。


「使い方は、わかるよね? この子たちは想いに応えるよ」


「聖獣、来ます!」


 大きな存在感が膨れ上がり、猛烈な熱が近付く。

 視界の先に、大きく羽ばたく赤い鳥。

 羽ばたいた羽の先は、無数の赤い槍となって『ドウロン』に襲い掛かる。

 大気操作じゃはじききれない!


「お任せを!」


 ゴレイラが前に立ち両腕の『エスクド』を構える。

 その全面に金色の六角形が無数に出現し繋がる。

 まるで蜂の巣のような模様は、全ての赤い槍を防ぎきる大きさと強さだった。

 

「次は私!」


 アランエスケルは左手の銃を構える。

 反応したゴレイラが浮遊盾を解除し横にずれる。

 おもむろに引き金を引いた銃の先から、ドンッっという発射音と共に赤い光がひらめく。

 聖獣の右の羽がバラバラに吹き飛び、地面に落下する。


 ドオォォォォォンという衝撃音が聞こえ、地表で燃えながらもがき動く聖獣。

 体からまき散らす炎は周囲の草原を焼き、その熱はこっちまで届く。


「フィクソア、降ろして! 後は任せて! みんなは他のところへ!」


 アランエスケルの確信に満ちた声を聞き、フィクソアにうなずきを返す。

 地表に降りながら『ホルスの目』で東と西をる。

 東は、青い竜。西は、白い獅子……虎か。

 どちらも幻獣とやりあっているけど、アランジレイトが劣勢に見える。


「ゴレイラも降りて! 終わったら西、ピヴォの援護を!」


「わかった!」


 わたしなんかが指示する立場じゃないけど、御使みつかいって立場を利用する。

 今のところ、判断に間違ってない確信はある。

 まだ、結界だって張る段階じゃない。

 大丈夫、行ける。


 アランエスケルとゴレイラが飛び降り、フィクソアはすぐに進路を東に向ける。

 わたしは『ドウロン』の後方から南の戦況せんきょうを見つめる。

 片羽を失い暴れまわる聖獣に、アランエスケルの『セキケン』が振り下ろされる。

 赤熱と赤熱のぶつかり合いは大きな被害を生むと思った。

 だから守るため、ゴレイラを残した。

 でも、圧倒的な力の差、熱量の差は、灼熱の体を持つ、不死鳥のような燃える聖獣そのものを一瞬で蒸発させていた。


 これが、本来の力?

 オリバーさん、お父さん、やりすぎだよ……。


「アヤ様、そろそろです!」


 フィクソアの声に、手すりを伝わり移動しながら進路に向く。

 長い蛇のような体。

 絵本や空想の物語でしか見たことのない竜だ。

 他の聖獣と同じく後方に控え、外壁の外、草原では無数の青い空飛ぶ蛇? が舞っている。

 その中心にアランジレイトと精霊魔法を使う親衛隊の姿。

 その数に翻弄ほんろうされているように見える。


「アレには電撃が通りません!」


 遠目から撃った電撃は、蛇型幻獣をよろめかした程度だった。

 水でできている?

 霧になって消えない以上、数は減らない。


 これまでの動きから、聖獣自体は幻獣が全滅すると侵攻を開始するみたいだ。

 じゃあ幻獣を全滅させることができなければ?

 あれだけの数なんだ。

 幻獣だけで、聖都は滅ぶのだろう。

 あれは一体だって、人の何倍も強いし、今のところ有効な攻撃方法が浮かばない。


「アランジレイト!」


 フィクソアは、接近しながら、広範囲の電撃と大気操作で突風を生み出し幻獣を引きがす。

 彼らの眼前『ドウロン』は立ちふさがる。


 わたしは飛び降りて、アランエスケルの『セイケン』に触れる。


「アヤ様、どうして!」


「いいから聞いて! 南の赤い聖獣はアランエスケルが倒したよ。次はこっちの番、あなただってできる。そのために、この子を信じて」


「で、でもヤツらも水の精霊だから、同じ属性の『セイケン』が効かないんだ!」


 幻獣は、実体化の魔法だったよね。

 倒せば霧になって消える。

 水を使って実体化してる。

 水の精霊魔法は、水の操作で、水を生み出すことはできない。


 精霊より強く、水をうまく使えばどうか?


「信じて! あなたは誰よりも『セイケン』をうまく使える! そして『セイケン』は何よりもうまく水を扱える! 精霊よりも神よりも!」


「神、より?」


神威しんいより強い、あなたの想いを願って!」


 戸惑とまどいの顔が、一瞬で真剣な顔に変わる。

 目を閉じた彼から、その金髪と同じ金色の光が『セイケン』をおおう。


「俺は、聖都を、みんなを護る! そのためにここにいる!」


 妹と同じ変形を果たした『セイケン』

 左利きの彼は利き手に剣を持つ。

 右手の銃は、浮遊する、無数の蛇型の幻獣をとらえる。


 彼は素早く『ドウロン』の前に飛び出し、銃を連射する。

 一つ一つの幻獣が実体を保てず霧状に四散する。

 アランジレイトはすぐさま剣を振るう。

 四散し、霧状になった水分が剣によって集められる。

 銃を撃ち、剣を振るう。

 その度に銃は威力を増し、剣は伸びる。

 水の精霊よりも強引に、貪欲に集められた水は、青く青く澄んだ刃になった。

 いつしか幻獣は一つ残らず『セイケン』にたくわえられ、アランジレイトは銃と剣をもう一度合体させた。


 青い竜は、ようやく動き出す。

 彼が力をたくわえたのを見届けて、その力が自らと競うにふさわしいか確かめるように。


 思えば、これが試練の本質なのかもしれない。

 お前たちの護りたい想いを見せて見ろ! と。


 だからアランジレイトは応える。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 全身全霊を込めた願いと共に、青い剣を振り下ろす。

 青い聖獣の体を越るほどの長さの剣は、聖獣を両断し、青い霧に変えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る