第十六話 ムト、仲裁します
二人で居室を出て、吹き抜けにある
手すりもあるし、階段幅も2メートルくらいあるけど、そっと中央の吹き抜けの下を覗くと、かすかに床面が見え、ゾッとする。
たぶん、わたしの感覚で10階分くらいの高さだ。
ソリアの説明によると、塔の形をした大聖堂は全部で5層に分けられ、一番下が礼拝堂など一般の人たちが
第二層は、聖堂を管理するひとたちが仕事をしてる。
第三層は、書庫や倉庫、警備の
第四層は、
第五層は、ソリアの
防衛隊の居場所は第三層、いくつかある警備用の部屋に住んでる。
部屋といっても、ソリアの部屋ほどではないけど、内部は居間や台所、小さな寝室などがあり、それぞれ八人ほどが暮らせるそうだ。
今回の騒動は、三層にある訓練室で、防衛隊が訓練しているところにシルジン王たちが現れ、なにかしらの
「大聖堂の中で許可なく武器を所持するとこは禁止されていて、有事でもなければ
最上層から三層まで、わたしの感覚で四階分の高さを降りながらソリアは言う。
折春おじさんがいない時を狙って、シルジン王は防衛隊にちょっかいを出した。
わたしのことも含め、ソリアの責任を
だからこそ、わたしはソリアと一緒にそこに行く。
三層は多くの人がいて騒がしかったけど、降りてくるソリアを見た人たちは、頭を下げ、静まり、道を開ける。
気のせいじゃなければ、わたしもチラチラと見られてる。
黒髪、
三層の
広さで言えばソリアの居室の居間くらい、ざっと学校の教室くらいの窓の無い部屋の中に、手前側と奥側、合わせて10人の人がいた。
手前側は昨日も見た、シルジン王と親衛隊だ。
奥にいる五人が聖都防衛隊みたいだ。
大きな男性と大人っぽい女性が前に立ち、後ろの少年を両脇から男女二人が抑えている。
「ふん、やっと来たか責任者……おい、得体の知れない者を連れてくるとは何事だ!」
シルジン王はわたしを見て怒ったように声を上げる。
でも、わたしの左手を握っているソリアの手が暖かく、昨日よりは怖く感じない。
落ち着いてみると、シルジン王も本気で怒ってるというよりは、なんとなくわざとそんな言い方をしてるように感じた。
「何事ですか?」
ソリアは冷静だ。
立場的に、防衛隊が剣を抜いたことで不利になっているから、自分のペースに持ち込もうとしてるんだと感じる。
「ああ、何事だとも! 事もあろうに聖堂内で、オレの親衛隊に
テレビで見た不良少年みたいな言い方。
ソリアと同じ青い短髪、
「ゴレイラ、説明を」
ソリアは静かに奥に向き直り、大男に声をかける。
身長は190センチくらいあり、筋肉がすごい。茶色の短髪の下は岩みたいな顔に線のような目だけど、あれで見えるのだろうか。
「はっ! 我々がこの訓練室でいつもの訓練を行っていたところ、シルジン
「ガキって言ったんだ!」
ゴレイラが言い終わる前に後ろの少年が声を上げる。
少年にしては高い声、ゴレイラと同じ髪色で短髪。
確か、15歳だっけ? 名前は、そうだ、ピヴォ。
「お前は黙ってろ!」
ピヴォを抑えている金髪のイケメン青年が低い声でピヴォに吐き捨てる。
「兄様、ゴレイラの
「ああ、正直な報告で感心するな。さあソリスキュア、
「その前に、ガキと言ったのは事実ですか?
そんなことをスラスラと言い切るソリアに圧倒される。
頭がいいとか、
「な! ガ、ガキなど、そんな……」
「いいや言った! 俺のことをチビとも女みたいだとも!」
「だからあんたは黙んなさい!」
シルジン王がしどろもどろになり、ピヴォが文句を重ね、ピヴォを抑える金髪の美形な女性が、言いながら彼の頭を叩く。
「事実なのですね? では
「なっ!」
「お言葉ですがソリスキュア様! シルジン様は日課である
シルジン王が
「ならば地下の祈りの間、一層までの立ち入りは許可しますが、二層より上層への立ち入りは禁止です」
「シルジン様、痛み分けです」
ソリアの
「クソっ、ならば
ただでは帰らないぞ、といった顔でシルジンがピヴォをにらむ。
「ふんっ! 俺に勝てそうもないからって、腰抜けが!」
ピヴォのそんな言葉は、国王に対して言っちゃいけない言葉だって、わたしでもわかる。
シルジン王の顔から表情が消え、スッと前に出る。
手に持っている棒を振り上げたかと思うと素早い動きで一気にピヴォに向かう。
誰もが
小型の盾でシルジンが振り下ろした棒を受ける。
ギィィィィン!!
金属同士がぶつかりあう音は衝撃となってわたしの耳を襲った。
するとソリアがわたしの手を離しピヴォの元へ駆けだす。
シルジン王は、はじかれた棒と体をすぐに立て直しもう一度、上段から振り下ろすように棒を振るう。
ゴレイラがそれに盾を向けると、シルジン王の棒は
わたしはそれを横目で見ながらソリアを追う。
ソリアは身を
シルジンは怒りに任せ棒を振り上げる。
わたしはソリアとシルジンの間に駆け込む。
あれに当たったら痛いだろうなとも思わず、心はたった一つの言葉を願う。
突き出した右手は巾着袋を握りしめている。
金色の光が輝き、振り下ろされた棒と共にシルジンは弾き飛ばされた。
しばらく誰も動かず、何も言わない。
「き、貴様ぁぁぁ!」
吹き飛ばされ転がったシルジンは、よろよろと起き上がりながら声を出す。
本気で怒らせてしまったかもしれない。
わたしが顔を青くすると、入口から懐かしい声が聞こえる。
「武器を
折春おじさんがそこにいた。
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