第16話 エヘッ! 16

「やって来ました! ブラッドフォード!」

 おみっちゃんたちは繊維都市ブラッドフォードにやって来た。

「ここにも王族はいませんよ。」

 ダイアナの下調べである。イギリスの王族もエリザベス女王とアン王女とシャーロットの3人しか

生き残っていない。

「さあ! 茶店で銭をガッチリ儲けるよ!」

「おお!」

 女将さんたちは普段通りに茶店を始める。

「いらっしゃいませ! ありがとうございます! お茶とお団子! 喜んで!」

 いつも通り茶店は大繁盛。

「ここが噂の茶店か。」

 そこに一人の男がやって来た。

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

 おみっちゃんが接客する。

「一人で悪いか! 別に友達がいないからじゃないぞ!」

 男は一人で店にいるのが恥ずかしくて逆ギレした。

「失礼しました。お客様はお友達がいないんですね。」

 おみっちゃんの辞書に礼儀はない。

「その通りだ! ・・・・・・うるさい! 早く席に案内しろ! 7時間も待たせやがって!」

 文句は多いが茶店が好きなようだった。

「はい! 特等席にどうぞ! ここなら女将さんがお団子を作る姿とダイアナがお皿を洗う姿が見れますよ!」

 おみっちゃんの接客は独特である。

「どんな接客をしているんだか?」

 困惑する女将さん。

「別にお皿を洗っている姿なんて見られたくないわよ!」

 恥ずかしがるダイアナ。

「何になさいますか?」

 おみっちゃんが男から注文を取る。

「何があるんだい?」

 男はメニューを尋ねてみた。

「お茶とお団子しかありません。」

 茶店のメニューはこれだけである。

「なら聞くなよ。お茶とお団子を頼む。」

 ごもっともな男の意見と注文。

「そうなりますよね! エヘッ!」

 可愛い子ぶる看板娘のエヘ幽霊。

「はい! ありがとうございます! 女将さん! お茶とお団子をお願いします!」

 おみっちゃんは注文を女将さんに伝える。

「あいよ。」

 女将さんは注文を聞いたと返事する。

「おお! おまえはベルゼブブではないか!」

 そこに新しいお客さんがやって来た。

「おお! アスモデウス! 久しぶり!」

 新しいお客さんの名前はアスモデウス。

「お客さん!? お友達がいたんですね!?」

 おみっちゃんは意外なので驚く。

「いて悪かったな!」

 怒るベルゼブブ。

「お嬢さん。こいつは元々はハエだから気にしない方がいいよ。ニコッ!」

 アスモデウスは女性には優しかった。

「そうですね。エヘッ!」

 微笑みに微笑みを返すエヘ幽霊。

「納得しあうな!」

 やっぱり起こるベルゼブブ。

「私にもお茶とお団子をお願いします。ニコッ!」

「はい! 喜んで!」

 優しく接するアスモデウスとおみっちゃんは心が通じ合う。

「なんかムカつく。」

 ベルゼブブだけは納得がいかなかった。


「それはそうとうちの組織はどうだい?」

「全くの尻すぼみだ。悪役として登場したのに、イギリス皇室を優先に切り替えられたら、俺たちの出番がなくなった。」

 ベルゼブブとアスモデウスは自分たちの組織について話を始めた。

「まずキャラクターネームがリヴァイアサンならリヴァイアサンでもいいいと思うんだ。」

「そうだな。リヴァイアサンを略したらリヴァイ兵長だしな。」

 要するに新しい名前を考えるのが面倒臭いのである。

「レヴィアタンなら、レヴィ? レヴィア? レヴィたん?」

「なんか可愛くなってない?」

「それでいくとリヴァイアサンを略すとリヴァさん!? なんか普通の人間の名前だ!?」

「難しく考えなくて良いということだろうな。」

 その通り。

「バハムートも略してバハムト? バハさん? バッハさん!? バッツ!?」

「なんか、そんな主人公もいた様な・・・・・・。」

「名前なんか個体を識別する名称でしかない。おまけだよ。おまけ。」

 足なんかおまけですの世界。

「なら俺はベルだ。ベルたんでもいいぞ。」

「それなら私はアスモデウスはアスモ? アスモス? なんか可愛くない・・・・・・。」

「次を考えようか?」

「そうだな。」

 名前の次に進むらしい。

「次に字を考えよう。リヴァイアサンなら海竜。バハムートなら黒竜? 破壊竜? 暗黒竜?」

「ブラック・ドラゴン? デストラクション・ドラゴン? ダーク・ドラゴン?」

「なんかしっくりいかないな。」

「関羽、張飛、趙雲の様な感じにならないな。」

「織田信長? 上杉謙信? 武田信玄? 伊達政宗?」

「甲斐の虎? 越後の竜? これが字かな。」

 何かしっくりいかない。

「剣はあってもいいが、魔法はダメ。魔法はダメだけど忍術は良い。これ現代ファンタジーよね。」

「異世界ファンタジーでなく、現代ファンタジー?」

「野球、サッカー、百人一首、けいおん、吹奏楽などの部活動を変えただけで青春モノの内容は同じ作品をアニメーション制作会社のプロが量産している。」

「またはガンダムだろうが、ラブライブだろうが、1個目が売れたら二匹目のドジョウばっかりのタイトルを変えて同じ内容の繰り返し。」

「まあ、それを支えちゃうお金持ちのファンが一番悪いんだろうけど。」

 そのため、タイトルの名前を変えて、キャラクターの名前を変えて、小手先の変化だけで苦労しないでガンダムなんか40年間も丸儲け。

「なんとか、そういう風な作品に我々はならないだろうか?」

 所詮この世は金次第か・・・・・・。

「面白い物がない。」

「何か面白い物語をつくろう。」

 これがコンセプトである。

「剣と刀。人間と人間だがいまいち? なんだ? 世界観が悪かったのか?」

「やはり天下統一という大義名分が盛り上がりにはいるのか?」

「今回のイギリス王位継承権争いも悪くはないのだが・・・・・・。」

「王位継承権争いこそ、剣と魔法の異世界ファンタジーではないか?」

「なぜエヘ幽霊で話を進めてしまったんだか?」

「でも元になるキャラクターがいて、物語の世界だけを変えて延命するという手法は他の作品でもよく使われている。例えば海賊だけどワンピースで時代劇をやっているみたいな。」

 ということはおみっちゃんでイギリスの王位継承権争いをやっても間違いではないということになる。


「さっきからあの人たちは何を話しているんでしょうね?」

 変なお客さんを不審に思うおみっちゃん。

「何でもいんだよ。客商売は。銭さえ落としてくれればね。イヒッ!」

 女将さんはお金しか興味はない。


「人間の世界で魔物が天下を統一するというのはどうだろう?」

「三国志、信長の野望、キングダム的な?」

「それらはどれも人間が主だな。」

「魔物が天下を統一する物語はないのか? 魔界統一で検索すると幽遊白書が出てくる時点で世も末だな。」

「魔界で検索すると魔界村が出てくる・・・・・・。世も末だな。」

「ということは、ここ2、30年間で新しい魔界ものがなかった証拠だな。」

 プロ作家さんがサボって新しい作品を創作しなかった証拠だ。世に新しい魔界が出てこなかった。

「魔界版の三国志をやるか?」

 まあ、新しい発想ではある。置き換えではあるが。

「魔界に天使が攻めてきた。」

「魔界に人間が攻めてきた。」

 のちのちは使えるだろう。

「雑魚の足軽、雑魚の兵士はスライムでいいのか?」

「主人公は人間が魔界に迷い込んだでいいのか?」

 多々思い浮かんでくる疑問点。

「結局は人間って戦い好きだな。」

「まあ、戦闘シーンのアニメのDVDが売れないしな。」

 後はアイドルのライブシーンか?

「一般大衆は正義貫徹が好き。」

「なのに、どうして今の日本のアニメやドラマは正義が曖昧なのだろう?」

 製作サイドの偉い人が金塗れなのだろう。

「魔界を統一する主人公を一から創作するか?」

「それともおみっちゃんでごり押しするか?」

 今度はおみっちゃんは魔界に流れ着いた。

「三国志の冒頭は国が乱れ、賊が暴れている。それを憂い劉備が立ち上がる。」

「そこに関羽と張飛がいてラッキー。」

「蜀を建国!」

 ここで疑問がうかぶ。

「それって今回の王位継承権争いで最初におみちゃんがシャーロットに出会う。イギリスの王位にシャーロットをつける。」 

「ほぼほぼ一緒よね。物語の流れわ。」

「イギリスを統一するというエピソードが無いのが悪いのか?」

「シャーロットが私はイギリスの女王になる! というセリフが無いのが悪いのか?」

「その原因はエヘ幽霊を主人公にしたことだろう。」

「もし主人公がシャーロットであれば、今時の物語になっていたはずだ。」

 まあ、なんの面白みもないですが。

「ということはおみちゃんが要らなかったのか?」

「つまり、そういうこと。」

 ベルゼブブとアスモデウスは結論に達した。


「あの女将さん。」

 おみっちゃんは女将さんを呼ぶ。

「なんだ? おみちゃん。」

 振り向く女将さん。

「あそこのオッサンども、私たちのことが要らないって言ってますけど?」

 客の会話をチクるおみっちゃん。

「へ~え。そうか。おみっちゃん。歌でも聞かせてやりな。」

 女将さんのキラーパス。

「いいんですか? 歌いますよ? 本当にいいんですか?」

 何度も確認するおみっちゃん。

「いいよ。思いっきり歌ってやりな。」

 許可を出す女将さん。

「やったー! 歌いまくりますよ! エヘッ!」

 エヘ幽霊の夢は江戸で歌姫になることです。

「1番! おみっちゃん歌います! 曲は口は禍の元!」

 おみっちゃんが歌を歌い始める。

「耳栓用意!」

 女将さん、ダイアナ、シャーロットは耳栓をする。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主だった。

「なんだ!? なにが起こったんだ!?」

「耳が!? 耳が腐る!?」

 ベルゼブブとアスモデウスは怪奇現象に苦しむ。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 そんなことは構わずに気持ち良く歌を歌い続けるエヘ幽霊。

「ギャアアアアアアー!」

「助けて! お母さん! ウギャアアアアアー!」

 ベルゼブブとアスモデウスは塵となって消えた。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった!」

 おみっちゃんは歌を歌い終えた。

「あれ? 誰もいない? 忘れものでも取りに行ったのかな? エヘッ!」

 自分が何をしたのか気づかないエヘ幽霊。

「おみっちゃん! 次の街へ行くよ!」

「は~い!」

 おみっちゃんの冒険はつづく。

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