第9話 エヘッ! 9

「やって来ました! レスターの街!」

 おみっちゃんたちは他民族都市レスターにやって来た。

「エドワード第3王子がいます!」

 王位継承権争いのシャーロットのチャールズ派と対立する相手である。

「江戸! おお! 遂に私は江戸にたどり着いたんですね! エヘッ!」

 おみっちゃんの夢は、江戸で歌姫になることです。

「それはエド違いだよ。」

 江戸に強い思い入れがあるおみっちゃん。

「早速会いに行ってみよう!」

「おお!」

 おみっちゃんたちはエドワードに会いに行く。

「エドワードのおじ様は奥さんがゾフィー叔母様と娘さんが二人、ベアトリスとユージェニーがいます。」

 エドワードは4人家族。

「エドワードとゾフィーは年寄だから王位は要らないだろうけど、二人の娘のために王位を狙う可能性はあるね。」

 女将さんの鋭い読み。

「やめてください! 女将さん! 江戸に悪い人はいません!」

 あくまでエドの方を持つおみっちゃん。

「だから江戸違いだって。」

「エヘッ!」

 おみっちゃん江戸に近づく。

「江戸に着いたら歌いますよ! 生きとし生けるものに私の歌声を聞かせてあげます! エヘッ!」

 江戸が近づくと思うとおみっちゃんの胸が高鳴る。

(そんなことをしたら江戸が滅んじゃうよ。)

 今までおみっちゃんが江戸にたどり着けなかったのは、女将さんが邪魔をしておみっちゃんの江戸への侵入を防いでいたからである。

「待ってろ! 江戸! もうすぐ私が上陸するぞ! エヘッ!」

 まさに大怪獣おみっちゃん。


「ここがエドワードおじい様の家です。」

 おみっちゃんたちはエドワードの家にたどり着いた。

「あれ? 私が行きたい江戸と何かが違うんですが?」

 おみっちゃんの江戸とエドワード家は何かイメージが違っていた。

「当たり前だよ。」

「ええー!? ショック。私はいつになったら江戸に着けるのやら・・・・・・。」

 いじけるエヘ幽霊。

「さあ、おみっちゃんは放っておいて、玄関のベルを鳴らそう。」

 シャーロットは玄関のベルを鳴らす。

「すいません。シャーロットですけど。どうぞ。中にお入りください。ありがとうございます。それじゃあ遠慮なく。失礼します。入っていいそうですよ。」

 シャーロットはおみっちゃんの真似をする。

「あんた、おみっちゃんに似てきたね。」

「やったー! できました! 私にも忍法! アハッ!」

 自分もおみっちゃんみたいに忍法が使えたとシャーロットは大喜び。

「ただの不法侵入だよ。私はあんたがイギリス女王になった時のイギリスが心配だよ。」

 女将さんはイギリスの将来を心配する。

「私も忍法を使いたいな。」

 ダイアナも忍法に憧れる。

「お邪魔します。」

 おみっちゃんたちはエドワードの家に入っていく。


「よく来た! シャーロット!」

 エドワードが威風堂々とシャーロットを出迎える。

「エドワードおじ様! お久しぶりです!」

「生きていたんだね! 無事でよかった!」

 エドワードはシャーロットの無事を紳士に心配していた。

「なんだい? エドワードは良い人みたいじゃないかい。」

「そうですね。エドワードは良い人です。悪の組織パパラッチとは無関係みたいですね。」

 女将さんとダイアナは安心した。

「さあ! エドワードさん! 江戸詐欺罪で逮捕しますよ! 私の夢を返してください!」

 おみっちゃんはエドワードに食って掛かる!

「だから江戸違いだって言ってるだろうが!」

 女将さんがおみっちゃんを止める。

「なら私の刀とあなたの鋼! どちらが強いか勝負です!」

 懲りないエヘ幽霊。

「それもエド違いだよ!」

 鋼の錬金術師のエドと勘違いしているおみっちゃん。

「まったくおみっちゃんは話をややこしくする!」

「エヘッ!」

 女将さんはエヘ幽霊を止めるのに苦労する。

「でも、何か殺気の様なものを感じるね?」

「そうですね。私も感じます。」

 妖怪、幽霊の女将さんやダイアナはエドワードの家の中に異様な殺気を感じるのだった。

「私は何も感じませんよ?」

 しかし幽霊のおみっちゃんは何も感じなかった。

「あんたは江戸しか頭の中に無いからね。」

「はい! その通りです! エヘッ!」

 笑っているだけなら可愛いエヘ幽霊。


「悪の組織パパラッチ? 私は無関係だよ。だって隠居の身だもの。後は死ぬまで平和に暮らせればいいのだよ。ワッハッハー!」

 エドワードは黒の組織パパラッチとは無関係だった。

「これでアンおばあ様とエドワードおじい様はパパラッチとは関係ないと。」

 黒の組織パパラッチの正体は謎である。

(シャーロット!)

 その時、殺気を放っていた者が動き始める。

(ここでシャーロットを亡き者にすれば、私の可愛い娘たちがイギリスの女王になる日が近づくというもの! 絶対に生かして帰すものか!)

 殺意を出していたのはエドワードの奥さんのゾフィーであった。娘たちのために邪魔者シャーロットを殺すつもりである。

「まあ! シャーロット! あなたはシャーロットね!」

「ゾフィーおばあ様!」

 そこにゾフィーが現れる。

「あなたが死んだというニュースがイギリス中を飛び交っているけど、私はあなたが生きていると信じていたわ!」

「ありがとうございます。ゾフィーおばあ様。はい、私はこの通りピンピンと生きてます。」

 シャーロットとゾフィーは再会を喜ぶ。

(既にシャーロットは死んだとイギリスの人々は思っているわ。私がシャーロットを葬っても誰にも気づかれない! まさに完全犯罪だわ!)

 ゾフィーの本音の心の声。

「さあ、シャーロット。お茶を入れたわ。長旅で疲れてるでしょう。飲んで。」

(毒入りだけどね!)

 ゾフィーは毒入りのお茶をシャーロットに差し出す。

「ありがとうございます。さっそくいただきます。」

 シャーロットはお茶を飲もうとする。

「ゴックン! ああ~! 美味しい!」

 しかしおみっちゃんが横取りしてお茶を飲んだ。

「おみっちゃん!? やめなさい!? はしたない!?」

 シャーロットはおみっちゃんを攻める。

「失礼しました。おばあ様。」

 ゾフィーに謝るシャーロット。

「い、いいえ。いいのよ。あはははは。」

 愛想笑いのゾフィー。

「遂出来心で。エヘッ!」

 笑えば済まされるエヘ幽霊。

(おかしい!? あのシャーロットの侍女は確かに毒入りのお茶を飲んだはず!? なぜ苦しまない!? なぜ死なないのだ!?)

 ゾフィーには謎である。

「私、もう死んでいる。エヘッ!」

 おみっちゃんは幽霊なので既に死んでいるので毒を飲んで死ぬことはない。

「シャーロット。今夜は泊って行って。」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて。」

 シャーロットたちはエドワードの家に泊まることになった。

「やったー! 野宿じゃないぞ! わ~い!」

 大喜びのおみっちゃん。

「あんた幽霊なんだから温かい布団は関係ないだろうが。」

「幽霊にも人権はありますよ! 憲法改正だ! エヘッ!」

 人間らしい暮らしに憧れているエヘ幽霊。

(フッ。これでシャーロットは私の手中にいるも同然。明日の朝までに殺してやる!)

 新たにシャーロット暗殺を決意するゾフィー。

(まずは定番のシャンデリア落としだ。シャーロットが止まる部屋に移動する時に頭上に落として息の根を止めてやる! 全ては可愛い娘たちのために!) 

 ゾフィーも子を思う母親であった。

「それではお部屋に行きますね。」

 シャーロットが移動を始める。

「どうぞ。ゆっくり休んでね。」

 ゾフィーは笑顔で見送る。

(死ね! シャーロット! おまえの最後だ!)

 ゾフィーの心の中は表とは違っていた。

「わ~い! お部屋! お部屋! エヘッ!」

 その時、野宿ではないことに喜んだおみっちゃんがシャーロットの先を駆けて行く。

パキーン!

 天井からシャンデリアが落下してくる。

「キャアアアアアアー!? おみっちゃん!?」

 そしてシャンデリアはおみっちゃんに衝突する。

「はい。私がおみっちゃんです。夢は江戸で歌姫になることです。エヘッ!」

 しかしシャンデリアが直撃したおみっちゃんは平然と振り返る。

「ああ~シャンデリアが可哀そう。しっかり受け止めなよ。おみっちゃん。」

「それはさすがの私でも無理です。エヘッ!」

 何事もなかったように笑うエヘ幽霊。

(なんなんだ!? アイツは!? なぜ死なない!? なぜ笑っている!?)

 ゾフィーからするとおみっちゃんは得体の知れない存在であった。


「シャーロット。お風呂の準備ができたわよ。」

 ゾフィーはお風呂が沸いたとシャーロットに笑顔で伝える。

(ただし入ったら全身火傷で即死の熱湯風呂だけどね。イッヒッヒー!)

 あくまでもゾフィーはシャーロットを殺すつもりだ。

「やったー! お風呂だ! わ~い!」

 おみっちゃんはシャーロットよりも先にお風呂に向かう。

(ああ~!? いつも! いつも! 私の計画の邪魔をして!? あの侍女は何なのよ!?)

 ゾフィーにもおみっちゃんが邪魔な存在に見えてきた。

「おみっちゃんには常識が通用しないから諦めておくれ。」

 女将さんがゾフィーに気を使う。

「ごめんなさい。ゾフィーおばあ様。あの子、頭のネジが2、3本抜けているのよ。」

 悲しい表情で悪気はないと訴えるおみっちゃん。

「そ、そうなの。オッホッホ・・・・・・。」

 愛想笑いするゾフィー。

「いい湯だな~! エヘッ!」

 おみっちゃんは熱湯風呂に入っている。

「私も入れますよ! アハッ!」

 ダイアナもおみっちゃん同様幽霊なので熱湯風呂も熱くない。

「良かったね。お風呂気分が味わえて。」

 女将さんはおみっちゃんとダイアナを見て呆れる。

「でも、この湯気沸かし過ぎだよね。もし私やシャーロットが入っていたら茹蛸になって死んでるかもしれないよ。」

「そうね。少し不可解なことが多くて不気味ですね。もしかして幽霊でもいるんじゃないですか?」

 女将さんとシャーロットはエドワードの家に疑問を持ち始める。

(クソッ!? シャーロットを殺すには、あのおかしな侍女を先に殺さないとダメみたいね!)

 ゾフィーのターゲットがシャーロットからおみっちゃんに変わる。


「よいですか。まずはシャーロットの侍女の狂った女から殺すのです。そして最後にシャーロットを殺しなさい。」

「はい。かしこまりました。」

 ゾフィーがお金で殺し屋たちを雇って、おみっちゃんたちを殺そうとしていた。

「美味しい! こんな美味しい朝ごはんは初めてです! エヘッ!」

 おみっちゃんはイギリスに着いて初めてご飯らしいご飯を食べた。

「なんだい? このスコーンっていうのは石か岩みたいだね。」

 スコーンは女将さんの口には合わなかった。

「私たちは石や岩を食べていたのね?」

 疑心暗鬼になるシャーロット。

「久しぶりの母国の朝食だわ! ウルルン。」

 感激する死に戻りのダイアナ。

「あの、ちょっと。」

 ゾフィーがおみっちゃんにひっそりと声をかける。

「はい? 何か?」

「あっちに甘くて美味しいケーキもありますよ。良かったらいかがですか? あなただけですよ。」

 ゾフィーの甘い誘惑。

「ケーキ!? 食べてみたいです! エヘッ!」

 食いしん坊なエヘ幽霊。

「どうぞ、どうぞ。あっちです。」

「は~い! ケーキ! ケーキ! ケーキ!」

 おみっちゃんはケーキの方へ笑顔で歩いていった。

(なんて単純な子なの!? これで邪魔者はいなくなった! あとはシャーロットを殺すだけね! イヒッ!)

 ゾフィーは勝利を確信していた。


「ケーキ! ケーキ! 甘くておいしいケーキ!」

 おみっちゃんはケーキが食べれると思いケーキの歌を口ずさんでいた。

「ギャアアアアアアー! やられた!?」

 ゾフィーの用意した伏兵の刺客たちはおみっちゃんの歌声を聞いて全滅した。

「ケーキ! ケーキ! エヘッ!」

 伏兵がいたことにも気づかないで前に笑顔で進んでいくエヘ幽霊。

「あ! ケーキだ!」

 おみっちゃんはケーキを発見する。

「いただきます!」

 そしてトリカブトの毒の入ったケーキを美味しそうに食べるおみっちゃん。

「美味しい! エヘッ!」

 さらにおみっちゃんは幽霊なのをいいことに毒が全く効かないのであった。

「今度、茶店でケーキでも作って出してみるかな? エヘッ!」

 おみっちゃんの趣味は和菓子と洋菓子を作ること。食いしん坊なだけに。


「さあ! これで邪魔者はいなくなった! シャーロット! あなたを殺して、娘たちをイギリスの女王にするのだ!」

 ゾフィーは本性を現し、シャーロットを襲おうとする。

「やめて! お母様!」

 そこにベアトリスとユージェニーのゾフィーの二人の娘が現れる。

「ベアトリス!? ユージェニー!? 止めないで! これもあなたたちの将来のためなのよ!」

 抵抗するゾフィー。

「お母さん! 私たちはイギリスの女王になんかなりたくない!」

「そうよ! 平凡に幸せに暮らせていければそれでいいんだから!」

 意外とゾフィーの娘にしては良識的な娘たちであった。

「あなたたち・・・・・・。」

 ゾフィーも娘の訴えが心に響き大人しくなる。

「もういいじゃないか。」

「あなた。」

 そこに旦那のエドワードも現れる。

「イギリスの女王に娘をしたところで、パパラッチに追いかけられて、見ず知らずの他人に好き勝手に言われて苦しいだけだ。それより私たち4人でひっそりと静かに笑って生きる方がいいじゃないか。」

 もっともなことを言うエドワード。

「そうね。あなたの言う通りだわ。いったい私は何のために必死になっていたんだか・・・・・・。」

 遂にゾフィーはシャーロットへの殺意を放棄した。

「これから私たち家族で平和に暮らしていきましょう!」

「お母さん!」

 エドワードの家族は4人でしっかり抱き合って幸せを噛み締めた。


「どうもお世話になりました。」

 翌日、シャーロットたちは新しい旅に出ることにした。

「シャーロット体に気を付けてね。」

 エドワードやゾフィーも心からシャーロットの無事を祈っていた。

「お礼に未来の歌姫が歌を歌いたいと言っているので聞いてもらってもいいですか?」

「いいんですか?」

「いいんだよ。」

「やったー! 私、歌います! エヘッ!」

 歌を歌って良いとなると上機嫌なエヘ幽霊。

「それじゃあ、聞かせてもらおうかな。」

「そうですね。あなた。」

 エドワードの家族4人はおみっちゃんの歌声を聞くことになった。

「耳栓用意!」

 女将さん、シャーロット、ダイアナは耳栓をする。

「1番! おみっちゃん歌います! 曲は、裏切者には死を!」

 おみっちゃんが歌を歌い始めた。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「ギャアアアアアアー!」

「なに!? 地震!?」

「頭が割れる!?」

「助けて!? お母さん!?」

 エドワードの家族はおみっちゃんの歌声を聞いて苦しみだした。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 気持ち良く歌い続けるおみっちゃん。

「助けて! シャーロット! 歌をやめさせて!」

 命乞いするゾフィー。

「散々、私を殺そうとして助かると思ったんですか?」

 冷たく言い放つシャーロット。

「な、なに!?」

 この時、ゾフィーはシャーロットが暗殺計画に気づいていたと初めて知る。

「謀ったな!? シャーロット!?」

 逆上するゾフィー。

「あなたがいけないんですよ。イギリスの王位継承権争いは命がけです。」

 シャーロットは笑ってゾフィーに引導を渡す。

「ギャアアアアアアー!」

「アベシ!」

「ヒデブ!」

「ホギャア!」

 エドワードの家族はおみっちゃんの歌を聞きすぎて体内爆発を起こして死んでしまった。

「ご清聴ありがとうございました!」

 おみっちゃんは歌を歌い終えた。

「あれ? 誰もいない? みんなはケーキを食べに行ったのかな?」

 おみっちゃんの歌を歌った後には誰も残らない。

「おみっちゃん、早くしな。置いてくよ。」

 女将さんたちは既に玄関にいた。

「待ってくださいよ! 人を信楽焼のタヌキみたいにおいていかないで下さい! 私、カワイイんですから! エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。


「シャーロット。あんた強くなったね。」

 女将さんはシャーロットがたくましくなったと感じる。

「それはそうですよ。これだけ命を狙われれば人間誰でも強くなりますよ。それに気軽の相手を殺せると自分のことを偉いと思っている人が悪いんですよ。どうして頭の弱い人は相手の方が強いと思わないんでしょうね。ニヤッ。」

 未来のイギリスの女王の風格が備わってきたシャーロットであった。

 つづく。

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