第4話 エヘッ! 4
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・疲れた。」
「ここまでくれば大丈夫だろう。」
おみっちゃんたちは必死にポッタリーズから走って逃げてきた。
「で、ここはどこだい?」
女将さんにはイギリスの土地感はない。
「ここはキングストン・アポン・ハルです。」
おみっちゃんたちは港町ハルにたどり着いた。
「わ~い! 輝く海! 綺麗な花畑! 私が歌を歌うステージにピッタリだわ! エヘッ!」
港町ハルの綺麗な街並みにおみっちゃんが目を付けた。
「やめな! 目立つ行動は! シャーロットが危険な目に合うだろ!」
女将さんはおみっちゃんの歌を阻止する。
「はい。チッ。」
悔しくて舌打ちするエヘ幽霊。
「これから私たちはどうするの?」
「困った時は市長を尋ねるんじゃないの?」
「残念。ここの市長は知り合いじゃないのよね。」
悔しがるシャーロット王女。
「イギリス王室も大変なのよ。色々な人たちがいるから。」
「詳しいことは私が説明します。」
頼りになるおばあちゃんのダイアナ。
「まずイギリス王室はエリザベス女王がトップです。」
エリザベス・アレクサンドラ・メアリー・ウィンザーが正式な名前。
「そしてエリザベス女王には4人の子供がいます。子供といっても既に70才位ですが。」
エリザベス女王には4人の子供がいる。
「私の元義父のチャールズ。後はアン、アンドルー、エドワードの4人の子供たちです。」
若い頃は頑張ったエリザベス女王。
「その4人で王位の座を争そっているのね。」
「はい。ですが、王位継承権はエリザベス女王の長男で、私の元夫の浮気者チャールズの家族が優先になります。
ダイアナの元夫チャールズは浮気者で、現在の妻カミラとダイアナと結婚中も浮気していた。
「はあ・・・・・・。おじいちゃんが浮気者だとは悲しい・・・・・・。」
ショックを受けるシャーロット。
「そしてチャールズとの私には2人の息子がいます。ウイリアムとヘンリーです。」
「え!? ダイアナ、子供を産んでたの!? 見えない! 若々しくて綺麗です!」
「ありがとう。嬉しいわ。」
若く見られて嬉しいダイアナ。
「ちなみにウイリアムは私のお父さんです。お母さんの名前はキャサリンです。」
シャーロットはウイリアムの娘になる。
「私には暗殺された兄のジョージ。そして弟のルイがいます。」
三人兄弟のシャーロット。
「それからウイリアムの弟がヘンリー。この子も父親同様女癖が悪くて変な女に引っかかってしまって、さあ大変。王室から見放されたから放っておきましょう。」
それでもヘンリーには王位継承権順位番号はある。
「どこの偉い人も女が好きなのね。」
「日本の将軍様も大奥や遊郭がお好きだもんね。」
「女の敵です! 不潔です! エヘッ!」
日本の金持ちもイギリスの金持ちもお金で奴隷の女性を買うことには変わりない。
「でも少なくても同じチャールズの血を継ぐ一派として、まだ信用しても大丈夫でしょう。」
性善説のダイアナ。
「問題は他の一族よ。」
エリザベス女王の残りの3人の子供たちである。
「アンドルー、エドワード、アンの三人の子供たちです。」
シャーロットは他のイギリス王室の一族と王位継承権争いを繰り広げている。
「アンドルーにはベアトリスとユージェニーという二人の娘がいます。」
アンドルー家は3人。
「エドワードには妻ゾフィーとの間にジェームズとルイーズの一男一女の子供がいます。」
エドワード家は4人。
「幸いにアンは結婚していないので家族はいません。」
アン家は一人。
「やっぱり、これだけ見てもシャーロットの所が一番家族が多いわね。」
「それに王位継承権順位も上位になるから他の一族から命を狙われてるのも納得だわ。」
おみっちゃんと女将さんはイギリス王室の事情を把握した。
「そうなんです。私、小さい頃から命ばかり狙われて大変なんです。」
悲惨な人生を送っているシャーロット。
「私なんか殺されましたしね。」
シャーロットのおばあちゃんのダイアナは悪の組織パパラッチに暗殺された。
「この中の誰かが黒の組織パパラッチを使って、王女様を狙っているんだね。」
女将さんの鋭い読み。
「大丈夫よ! シャーロット! あなたなら女王になれるわ!」
その時、おみっちゃんが明るく切り出す。
「おみっちゃん! ありがとう!」
おみっちゃんの言葉に心が温かくなるシャーロット。
「あなたの女王就任式で私が歌を歌ってあげるわ!」
おみっちゃんはシャーロットが女王になる時に歌を歌うつもりである。
「え?」
一瞬、時が止まるシャーロット。
(おみっちゃんに歌を歌われたらイギリス王国が人がいなくなる!? いや!? イギリスそのものが砕け散り海の藻屑になっちゃうわ!? そんなことになったら大変だわ!?)
岩を砕くおみっちゃんの極度の音痴でデスボイス。
「あ、ありがとう! 是非お願いね!」
愛想笑いをするシャーロット。
「そうと決まったら、今からボイストレーニングしなくっちゃ!」
歌のトレーニングを始めようとするおみっちゃん。
「なに!?」
その発言に恐怖するシャーロット、ダイアナ、女将さんは即座に耳栓をする。
「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」
おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主。その歌声は限界を知らずに黒海まで響き渡る。
ドカーン!
その時、黒海沖で爆発音が響いた。
「あれ? 海の方から爆発音が聞こえる? 何かしら? エヘッ!」
気持ち良く歌を歌っていたおみっちゃんには何の爆発か分からない。
(おいおい!? 今度は何をやらかしたんだ!?)
シャーロット、ダイアナ、女将さんは戦々恐々である。
「大変だ! 大変だ!」
その時、ハルの一般市民が慌てた表情で駆けてくる。
「どうしたんですか? エヘッ!」
おみっちゃん可愛く尋ねてみた。
「黒海沖のドッガーバンクでロシアの軍艦が沈んだってよ! 大変だ! 大変だ!」
これが有名なドッガーバンク事件である。
(やりやがったな!? おみっちゃん!?)
おみっちゃんの極度の音痴でデスボイスは軍艦さえも撃沈する。
(これでロシアと外交問題だわ・・・・・・。)
頭を抱えるシャーロット。
「大変ですね。乗組員の人達は大丈夫かしら? エヘッ!」
自分が原因だとは気づかないおみっちゃん。
「おまえが原因だよ!?」
「え? どうして? 私ですか?」
他人事のおみっちゃん。
「とにかく港へ行ってみよう!」
おみっちゃんたちは港に向かった。
「なんだ!? 今の歌声は!? ここは魔の海域か!? それともセイレーンの死の歌か!?」
ロシア軍バルチック艦隊のロジェストヴェンスキー提督である。
「まさか!? イギリス軍の秘密兵器か!?」
いいえ。おみっちゃんの歌声である。おみっちゃんの歌声はバルチック艦隊を殲滅した。
「大丈夫か!? 直ぐに救助するぞ!」
側にいたイギリス漁船が海に投げ出されたロシア軍の兵士に浮き輪を投げて助ける。
「ありがとう! この恩は一生忘れない!」
ロジェストヴェンスキー提督はロシア軍を代表してお礼を述べる。
「よいしょ! よいしょ!」
イギリス漁船のロシア軍の救助活動が必死に行われる。
「救助したら港に戻るぞ!」
イギリス漁船はハル港に戻り始める。
「スゴイ人だかりだな。」
おみっちゃんたちが港に着くと、軍艦が沈没したという話を聞いた人々が野次馬のように集まっていた。
「おみっちゃん、儲かりそうだから茶店を開くよ!」
「はい! 女将さん!」
早速、茶店の準備に取り掛かるおみっちゃんと女将さん。
「ああ~! これだけの人々に知られたし、ロシアとの外交問題に発展するんだわ!?」
悲観的なシャーロット。おみっちゃんの歌声で沈没したロシア軍艦からの兵士をイギリス漁船が助けた美談だということをシャーロットは知らなかった。
ポー! ポッポー!
その時、汽笛が鳴った。
「イギリス漁船が帰ってきたぞ!」
イギリス漁船が帰ってくる。
「んん? なんだか様子がおかしいぞ?」
しかしイギリス漁船の様子がおかしかった。
「あれは!? ロシア兵だ! ロシア兵が漁船に大漁だ!」
ロシア兵士を救助したイギリス漁船にはロシア兵士が大量に乗っていた。
「ロシアが攻めて来るぞ! 漁船が奪われたんだ!」
誰かが言った。イギリス漁船はロシア兵士に襲われて乗っ取られたと。
「なんですと!?」
おみっちゃんたちにも衝撃が走る。
「こうなったら私が刀と忍法で命尽きるまで戦い抜きます! エヘッ!」
意外と正義感が強いエヘ幽霊。
「ああ~! もうダメだ!? イギリスとロシアの戦争の始まりだ!?」
シャーロットは王女として頭を抱え込んでしまう。
「シャーロット。私にいいアイデアがあるよ。」
「女将さん。」
女将さんはシャーロットに呟く。
「おみっちゃんに歌を歌わせるのさ。」
女将さんの提案はおみっちゃんに歌を歌わせることだった。
「そんなことをしたら!?」
ハルの街の人々は確実に死んでしまう。
「でも、ロシア軍艦の沈没の原因を警察が調べて、おみっちゃんのデスボイスが原因だと分かったら、一緒にいたシャーロット、あんたも共犯だよ。それでもいいのかい?」
おみっちゃんとお友達のシャーロット。
「共犯!? そうなったら私の王位継承権が取り上げられてしまう!? イギリス王室からも追放されてしまう!? そうなったら私の人生は終わりじゃないか!? お友達を選ばなかった私の罪・・・・・・。もう私の手は汚れているのか!?」
シャーロットは自責の念にかられる。
「・・・・・・分かりました。おみっちゃんに歌ってもらいましょう。」
覚悟を決めたシャーロット。
「いいんですか? こんなきれいな港町で歌わしてもらって。」
「いいのよ。王女の私が許可します。」
「やったー! 歌いまくるぞ! わ~い!」
大喜びのおみっちゃん。
「耳栓用意!」
耳栓をしたシャーロットの号令で耳栓をするダイアナと女将さん。
「一番! おみっちゃん! 歌います! 曲は世界平和!」
遂に茶店の歌姫が歌い出す。
「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」
おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。
「ギャアアアアアアー!?」
「なんだ!? これは!?」
ハルの人々がおみっちゃんのデスボイスを聞いて頭を抱えて苦しみ始めた。
「提督!? これは何なのですか!?」
「きっとイギリスはロシア人が足を踏み入れてはいけない魔の島だったんだ!? ギャアアアアアアー!」
バルチック艦隊のロジェストヴェンスキー提督はイギリスは呪われていると最後に言って破裂した。
「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」
おみっちゃん自身は気持ち良く歌を歌い続ける。
「ギャアアアアアアー!」
「助けてくれ!?」
「ヒデブ!?」
「アベシ!?」
「トコロテン!?」
ハルの人々、ロシア兵士たちは次々とおみっちゃんの歌声に耐え切れないで体内爆発を起こして跡形もなく粉々に消えていった。
「ご清聴ありがとうございました!」
おみっちゃんは歌を歌え終えた。
「ああ~! 気持ち良かった!」
ご満悦の茶店の歌姫。
「あれ? 誰もいない? おかしいな? 家の鍵でも閉めたか占めてないか確かめに行ったのかな?」
そして誰もいなくなった。
「よし! 目撃者はいなくなった! 証拠隠滅完成だ!」
シャーロットは勝利宣言をする。
「これで私の王位継承権は安泰だ!」
誰しも自分の利益は守りたい。
「良かったよ! おみっちゃん! 良い歌声だ!」
おみっちゃんを褒めたたえるシャーロット。
「ありがとう! シャーロット! 我が友よ! 絶対に私は江戸で歌姫になってみせる!」
おみっちゃんの夢は歌姫になることである。
「はいはい! 注目!」
そこに女将さんが手を叩く。
「ここも騒ぎを聞きつけて悪の組織パパラッチがやって来るかもしれないから、さっさと離れるよ。」
女将さんの先読みは鋭かった。
「ええー!? 私、もう一曲歌いたいんですけど?」
抵抗するおみっちゃん。
「いいよ。」
あっさり許可する女将さん。
「いいんですか!? やったー! エヘッ!」
喜ぶエヘ幽霊。
「その代わり茶店の片づけをサボったとして給料は減らすけどね。」
地獄の女将さん。
「鬼! 悪魔! 女将さん!」
新しいフレーズができた。
「どうするんだい?」
詰める女将さん。
「だからお給料を下げるのだけは勘弁してください! ウエ~ンエンエン!」
泣きついて白旗をあげるおみっちゃん。
「分かったから、さっさと茶店を片付けておいで。」
「はい! おみっちゃん! 行きます!」
おみっちゃんは茶店を片付けに駆けて行った。
「それじゃあ、ダイアナ、シャーロット。私たちは私たちの仕事をしようか。」
「はい!」
「宜しくお願い致します!」
女将さんとダイアナ、シャーロットは別行動である。
「さあ、ハルの人間はお宝を持っているかね?」
いつものようにおみっちゃんの歌で死んでいった人々の金品財宝を探す女将さん。
「こんなことをしてもいいんでしょうか?」
初参戦のダイアナ。
「いいんだよ。これも供養だ。大切な軍資金だからね。お金も使われないよりは使ってもらった方が幸せなのさ。」
守銭奴の女将さんのお金に対する哲学的論理。
「そういうもんなんですね。日本の文化は奥深いですね。」
ダイアナは女将さんの価値観を日本人の価値観だと錯覚する。
「私、これでも王女なんですけど。」
死体の金品やアイテムを探すことにシャーロットも王女として抵抗がある。
「昔っから若い頃には苦労しろっていうだろ。あんたが王女になった時に小さな出来事には動じない強い心を育てるためにやらしてるんだよ。」
女将さんの嘘方便。
「女将さん! 私が王女になった時のことを考えて、この試練を与えてるんですね! そんな女将さんの深い心に気づかなかった自分が情けない! やります! 怪盗ルパンになったつもりで!」
ルパンもイギリスの大泥棒。
「さようなら! 純粋な私!」
この時、シャーロットは純情を捨てた。
「だって私はイギリスの女王になるのだから!」
正にマリーアントワネット思想のシャーロット。
「さあ! 次の街へ行くよ!」
「おお!」
おみっちゃんたちは次の街に去って行った。
つづく。
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