06 クリスは時には甘い言葉に騙されたい

「っとに儲かるんでしょうね」

「違いないっ! …………たぶん。いや…………大丈夫だろう」


 ジャンは歩きながらそういうと、汗を拭きながら前を歩く。

 周りの、ミラとクルも「儲かる儲かる」や「儲かるんじゃなかろうかー」と相槌を打ってくる。


 まったく……あの時……。

 金を貸してくれ。そう言われてミラクルジャンの三人ズは土下座をしてきた。

 流石に注目浴びるのでたたせて席に着かせると、ダンジョンの儲け話は本当で、でも過去に散々飲み食いしたツケがあり動けないと。


 ってか、私は酒をおごるからって着いてきたんだけど。

 どうも私の【酒代】は三人の僅かなお金から奢るけど、食べた分は奢らないらしい。

 私が来てから綺麗になったお皿二十二枚。


 豪傑に食ったな。とか言われたようなきがする。

 残すのは勿体無いし美味しかったんだもの……それに注意されなくて食べるって楽しかったし。


 でも、そんなに食べた覚えはないっ!

 無いはずだっ!

 無いはずよね…………。


 結局三人の酒代+私の食べた代金、合わせて金貨四枚が無くなった。

 これで私の全財産は残りは金貨一枚である。

 おそらく安い宿を二日も泊まれば無くなるはずだ。


 結局、ジャンはギルドで金を貸してくれそうな人を探していたとかなんとか。

 そこで、「剣も握った事もなさそうな、綺麗で美人な女性が女神に見えた」と私に声をかけたらしい。


 最初は私の食べた分だけ払って出ようかとも思ったけど、 前半はともかく後半の言葉に騙されたというか。

 乙女は優しい言葉に騙されたいのよ。


 そこからは徒歩でダンジョンへと向かっている。

 馬車や馬はお金がないので使えない、歩くのは健康にいいから好きだから私は問題はない。



 私はね。



「おい、クルっ……目的地はまだなのか?」

「まだ街をでてすぐだぞ、まだまだじゃ」

「たっく年っよりっはっ……おれも酒さえ飲まなければ屁でもっ……うっぷ、あがってきた」



 ジャンが突然走り出して茂みにしゃがむ。

 聞こえてくる音はあまり聞きたくない口から出るオロロロロロンの音だ。



「しかし、嬢ちゃんよ。街で待っていてもよかったんじゃよ。あのマスターも引き止めていただろうに」



 この三人のツケを許していた酒場のマスターは、私が代金を立て替えると、見るに見かねて部屋を格安で提供してくれた。

 この三人が戻ってこなくてもF級のクエストをしていれば一月、すなわち三十日はそれでいい。と、まで言ってくれたのだ。



「こっちのほうが面白そうだし。それに……」

「それに?」

「なんでもない」



 偽名のジョンって男にまた会えるかも。と思って口に出さなかった。

 口元を布で拭きすっきりした顔のジャンが戻ってきた。



「よし! いくぞ! ……どうした?」

「なんでもないわよ?」



 ジョンとジャン。見比べるのも悪いけど思わず鼻で笑いそうになった。



 ◇◇◇



 途中で大きな山に入り、道も段々と細くなっていく。

 自然に口数が減って行き、日が暮れ始めた頃、クルが先ほどまで見ていた地図を閉まった。



「ついたの?」

「ほれ」



 クルが指をさすと、遠くに灯りが見えた。

 よく見ると、大きな洞窟があり何人かの人間が動いているのがかろうじて見える。



「帝国調査団だろうな」

「なるほど」



 とりあえず知ったかぶりをする。

 調査団って言うから調査するのよね、昨日あった集団と思う。



「仲悪いの?」

「悪くも無いが良くも無い、たまにギルドを通して合同クエストがあったりするぐらいじゃのう」



 クルとの会話にジャンが入ってくる。



「ねーちゃん、一応静かにしてくれよ。あっちは魔法使いも回復専門のヒーラーもいる」

「こっちにもいるでしょっ……」



 私はミラとクルを見るも、二人とも首を振る。



「こっちはC級としたら、あっちはA級ぐらいの差だな」

「かっかっか」

「…………その、よくわかんないんですけど階級でいってもたったの二個の差でしょ。半日しか一緒にいないけど……三人とも凄いと思うわよ」



 この三人、ちゃらんぽらんに見えて荷物は三人でちゃんともつし、私をさりげなく安全なほうの道に譲ったりしてくきてた。



「「「…………」」」



 三人が突然黙る。



「いや、黙られると怖いんですけど」

「悪い、そうだよな。たった二個しかちがわねえ」

「そうじゃのう、まだまだ若造には負けん」

「確かに酒飲みでは負けない」



 ジャンがそういうと、ミラとクルも笑顔になっていく。

 


「で、どこから入るわけ?」



 入り口は調査団が占拠して私達が気軽に行けそうな空気ではない。



「なーに、こういうダンジョンには裏口ってのがあってだな」



 神官ミラが地面に絵を描いていく。



「ここが正面口として、ダンジョンには魔力を外に出す穴があるはず。新しく出来たとすれば、その穴もまだ大きい。これまでの経験で行けば、この道を下った所にあるでしょう!」

「え、すごい」



 私が褒めると、横にいたジャンが嬉しそうな声をだす。



「ミラは教会出身だからな」

「はっはっは、クビになりましたけどね」



 なんだろう、この三人面白い。

 年齢も上でぜんぜん弱そうなのに面白い。

 やっぱ貴族やってるより楽しい。



「ねーちゃん、この状況で笑うとか、キモだけは座ってるな」

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