ティータイムは星の花を添えて

りつか

prologue

竜と導きの花

 むかしむかし、あるところに若い竜が住んでいました。

 湖に城をかまえた竜はぐるぐる泳いでうずを作ってみたり、しっぽで水面をたたいて魚をぱしゃぱしゃ飛び上がらせたり、毎日楽しく遊んでいました。


 大雨を降らせるのは得意中の得意です。雨の中でダンスをするとウロコがしゃらしゃら素敵な音楽を奏でました。虹がかかれば何度もくぐり、全身を七色にきらめかせます。


 あるとき竜は川をせき止める遊びを覚えました。積み上げた石を一気に崩すと水はごうごうと大きな音を立てて流れていきました。面白くて楽しくて、竜はご機嫌で雨を降らせ続けました。




 困ったのは人間たちです。大雨のたびに橋は流され、街は水に浸かってしまうのです。

 人間はたくさんの宝物を用意し、これ以上暴れるのはやめてほしいとお願いに行きました。

 でも竜は言うことを聞いてくれません。

 それどころか美しい姫をさらってきて城に閉じこもってしまいました。




 隣国の王子が竜退治に立ち上がりました。

 嵐の中、命からがら湖にたどり着いた王子でしたが竜の城のまわりには不思議な霧が立ちこめています。

 近づけずに困っていると森の精霊が現れました。身勝手な竜には精霊もほとほと手を焼いていたのでした。


 精霊は白い花をつんで空へかかげました。小さな星が落ちてきて花をランプに変えました。

 ランプの灯りの導きで王子は城に入ることができました。




 大広間では竜が気持ちよさそうに寝ていました。

 これは好都合です。このまま封じてしまえばもう困らされることはありません。


 王子は竜を起こさないよう気をつけながら、魔法石の粉をそうっとそうっとまわりにまいていきました。始まりと終わりをきっちり結んで円にすると最後に火をつけました。

 立ちのぼった陽炎はあっという間に大きなドームとなって、竜をおおってしまいました。




 次は姫です。城の中を探すと姫はすぐに見つかりました。

 だれも寄せつけない霧を見事にぬけてきた王子に姫はたいそう驚いていましたが、竜を封じたことを聞くと悲しそうな顔になりました。


 ふたりが大広間に戻ってみると竜がうおーんうおーんと泣いていました。

 眠りから覚め、閉じこめられていることに気づいた竜はびっくり。大あわてでドームをこわそうとしました。けれどどんなに暴れても陽炎の壁はびくともしません。

 そのうちに長い体が絡まって、竜は身動きが取れなくなってしまったのでした。



 なんでも言うことを聞く。宝物も返す。

 だからここから出してほしい。



 泣きながら懇願する竜のことが姫はかわいそうになってしまいました。

 竜はただ遊び相手が欲しかっただけでした。それで姫を丁重にもてなし、決してひどいことはしなかったのです。



 どうか竜をここから出してあげてほしい。



 姫も一緒になってお願いしました。

 困ったのは王子です。封印の解き方なんて知りません。

 陽炎の壁は王子の剣でも斬れません。




 どうしたものか考えこんでいると再び森の精霊が現れました。

 精霊は竜に問いかけます。困っているのに助けてもらえないのはどんな気分だ。おまえは人間たちの願いに少しでも耳を傾けようとしたか、と。

 竜は心から反省し、もう二度と迷惑をかけないと約束しました。


 精霊は白い花を取り出して再びランプを作り出しました。

 王子がランプをかかげるとあたりにまばゆい光があふれ、陽炎の壁はすっかり消えてなくなってしまいました。

 外に出られた竜は王子に謝罪を、姫には感謝の言葉を述べました。

 こうして王子はたくさんの宝物をお土産に、姫を無事連れ帰ることができました。




 その後、竜は城を捨てて湖の奥深くに移り住み、人間の暮らしをひっそりと見守るようになったということです。






           〈『ロヒガルム地方に伝わる民話』より抜粋〉

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