第三話 欠陥

「空は、青いな」


 カケルは姉妹を助け、道端で仰向けに倒れている。


「あの、大丈夫ですか?」


 姉である少女がカケルの顔を覗き込むように尋ねる。


「あぁ、大丈…「大丈夫だよ」」


 だがその問に答えたのはカケルではない。

 長い黒髪の美少女ヒトミだ。


 ヒトミは、カケルの顔を覗く。


「ほら、ここで寝転がってると危ないから起きて」


 一見真面目そうにヒトミは言うが、その口元は僅かにニヤついている。


「…ヒトミ、お前分かって言ってるだろ?」


「ふふ、まぁね。」


 ヒトミは、「冗談はさておき」と、カケルの腕を掴んで起こす。


 そんなやり取りを見て呆然としている双子の少女。


「あの、あなたは?」


 姉である少女は、ヒトミを見る。


「私は、千里瞳。こっちは、最上カケル。で、今日から高校生2年。制服から見ると、二人と同じ高校だね」


 ヒトミは、「そちらは?」と、姉妹にたずね、姉が答える。


「先輩だったんですね。あ、私は双葉美念ふたばみねで、新高校一年生です。こっちは双子の妹の、」


 美念の後ろから、妹が顔をのぞかせる。


双葉美話ふたばみわ…です。あの、最上さんは大丈夫なんですか?」


 美話は、カケルと腕を組んでいるヒトミを見る。



「大丈夫だ。これは、俺の特異体質…みたいなものだから」


 カケルは、少しよろけながらもヒトミの腕を離す。


「そう…なんですか?」


 美念は、心配そうにカケルを見る。

 突然倒れるような特異体質なんて、聞いたことがないだろうから当然だ。


 そんな美念を見て、カケルは説明をする。


「えっとだな、さっき俺があの男たちの拳を簡単に受け止めただろ?」


「はい。それも最初は指だけで」


「それは、俺の特異体質で、自分の能力を上げたからできたんだ」


 美念と美話驚いてカケルを見る。


「自分の能力を強化なんて。すごい特異体質を持っているんですね!」


「う〜ん。まぁそこまで便利なものじゃないし。そもそも正確に言うと強化じゃないんだ」


 双子の視線はどう言うことだと、カケルに尋ねる。


「人間は本来セーフティみたいなのがあって、自分の力の何割かしか出せていない。っていう話は知ってるか?」


 だが、たまに本来の力を出すときがある。

 俗に言う、火事場の馬鹿力とか言うやつだ。


「えぇ、聞いたことはありますけど……」


「俺は自分の意思でその、セーフティを外して、本来の力っていうのを引き出すことができるんだ」


「なるほど、だから強化では無い、と」


 美念は理解をしたらしくカケルを見るが、美話は疑問を持っているかのようにカケルを見る。


「でも、…それって、危険じゃないですか?そのセーフティって、自分を守るためにあるんですよね」


「そう、だから今こんな状態なんだ」


 カケルは、壁に体を預ける。


「っと、まぁ今の状態の説明はこんな感じだ」


 他に質問は?と、カケルは、視線で問いかけるが特にはないらしい。


「本当に、助けていただいてありがとうございました」


「いや、気にしないでくれ。じゃあ気をつけてな」


 二人は何度も感謝をしながら、去っていった。


「さて、俺たちも行く……っと」


 カケルは体を壁から離し動こうとするが、体をふらつかせる。


「もう、だから無理しないの。セーフティなんて外したら身体が耐えきれなくて、全身がすごく痛いんでしょ?」


 ヒトミは、カケルに腕を貸す。


「別に、痛みは感じないから平気だ」


 カケルは、ヒトミの腕を取らず歩こうとする。

 だが、


「おっ…と」


 カケルは倒れる寸前で、何とか体制を保つ。


「ほら、全然だめじゃん。それに、痛みを感じないんじゃなくて、痛みを感じにくいだけでしょ」


 ヒトミはカケルに手を出し、カケルはその手を取る。 


「まぁ、そうだな。けど、実際に痛みはほとんど感じないんだよ」


 痛みを感じにくい、それも『制限解除リミット・オフ』と同じくカケルの特異体質だ。

 名付けるなら、『痛覚無視ペイン・キャンセル』と言ったとこだろうか。


「本当にカケル君は、すごい能力持ってるよね」


「お前まじでわざと言ってるだろ。こんな、欠陥だらけの能力」


『制限解除』は、使ったあと身体が思うように動かなくなる。


『痛覚無視』は、一見便利だが本当にかすり傷程度だと、怪我してるのに気づかないから、そこから菌が入ってくる可能性がある。


 それともう一つ、


「『無感情ポーカー・フェイス』感情が無い人間なんて気味が悪いだけだろ?」


『無感情』カケルの持ってる特異体質の一つであり、感情が表情に出にくいという特異体質だ。


 カケルは、この癖の強い3つの特異体質を持っている。


「そんなことはないよ。別に感情がないんじゃなくて、感情が表に出ないだけ。さっきの双子の子たちを助けてあげたいっていう思いがちゃんとあったんだよ」


 ヒトミはカケルの手を強く握る。


 そんなヒトミを見て、カケルは呆れたように、だが少し楽しげに、


「まったく。こんな人間として、欠陥だらけな俺のどこがいいんだか」


 そう呟くのだった。














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