第16話 君の側で


 僕は、階段を駆け上がっていた。屋上までは五階ぶんの階段を登らなくてはいけなくて、太ももが翌日筋肉痛にでもなりそうな勢いだ。


「も、もう……だめ」


「しっかりしてください、あんな」


 背後からダイナの眷属である双子の片割れ—あんなが、ヘロヘロになってへばっている声が聞こえる。楓の方が体力がある、いや、きっと使命感もあるんだろう。ダイナの元へ早く行こうという。


「おにーさん。あっちのおねーさんがへばってるよ」


 リルが、僕の横で涼しい顔をして階段を軽やかに上がりながら後ろへ指を向ける。自分のことで精いっぱいの僕は、なんでそんなに元気なんだと言いたくなった。


「かえで、先、行っててください……」


 ぜぇぜぇと嫌な呼吸音だった。


「——っ。むり、です。置いてくなんてできません」


「で、でも……」


 あああ、もう!!

 僕は足を止めて、階下にいる双子の元へ。


「え?あ、あの?ひゃあ!!?」


「いや、ほら、置いてくとかできないし。はやく屋上に着きたいんだろ!?悪いけど僕もだから!」


 僕はあんなを抱き上げて、真っ赤な顔でアワアワする少女と凄い勢いで睨みつけてくる少女に向けて早口で弁明。ついでに余計なことも口走りそうになった口をシャットダウン。「さっすが、おにーさん。かっこいー!」とリルにはやし立てられれば、ちょっぴり恥ずかしくなってきてしまう。


「と、とにかく!!早くいこう!」


 こほん。一度咳払いをして、僕はまた階段を駆け上がった。以外にも、楓は何も言わない。あ、待って待って。楓、やめて。射殺しそうな目はやめてください……。僕の首に腕を回し、ぎゅうと身を寄せてくるアンナ。頬が熱くなる僕へ、鬼の形相が迫っていた。


「え、えっと。楓は大丈夫なのか?」


「は?なにがですか?全然平気ですし。ていうか、あんなのこと、落としたりやましい気持ちがあったりしたら、ぶん殴りますから」


「わー!おねーさん、本気の目だあ!」


 ケラケラと楽し気に笑うリル。笑いごとじゃないんだけど!?


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