第十二話 トップレベルの鍛治士
時は進み、JFO内にて俺はとある人物と会っていた。
「よぉ?元気にしてたか?」
俺がその人物に声をかけると、作業を中断して顔を上げた。
「ん?なんだ、てめぇか。お前の顔を見るのも久しぶりだな」
「確かにそうかもしれないな」
「それで、ここに来たのは雑談するためじゃないんだろ?」
白のタックトップを着た髭面のおっさんが顎に手をやりながらこちらを見上げる。片手にはそこそこ大きめのハンマーを携えている。そう、このおっさんことギランはこのJFOで鍛治師を営んでいるのだ。このJFOは基本的に自由にプレイできて、やろうと思えばギルドの受付嬢や街の警備兵、商人なんてのもなれる。もはやここはゲームではなく、地球とは違う異世界と考えてもらった方が理解しやすいと思う。
そしてこのギランはJFO内でも名のある鍛治師なのだ。工房は小さく、路地裏にちょこんとあり、隣には工房とは別に自分で打って作った武器が並ぶ武器屋がある。名のある鍛治師が打っているだけあって、その武器の値段はそう簡単に払えるようなものではない。
「それで?今回はなんのようだ?また武器の依頼か?」
ギランはハンマーを地面に置き、肩を回す。そんな仕草がより熟練の鍛治士っぽく見える。
「いや、武器の依頼じゃないんだ。アクセサリーの依頼だ。これを頼めるのはギランしかいないと思ってな」
「はぁ?アクセサリー?」
ギランは目を細めて怪訝そうな表情でこちらを見る。
「カインはアクセサリーを作るのにアクセサリーショップじゃなくて武器屋を選ぶのか?何を考えている?」
「本来ならアクセサリーショップに頼むに越したことはないんだけどな。素材がちょっとそこいらのアクセサリーショップには任せらんなくてさ」
ギランはニヤリと笑って「ほぉ」っと興味津々に声を上げる。
「その素材というものを見せてみろ。ていうか、お前さん装備を変えたか?なんかめちゃくちゃすごそうな外套を着てるが。もしやそれに関係が?」
「まあな、てか運営の通知見てないのか?」
ギランは「通知?何か来てたか?」と言ってからゲームウィンドウを開いた。
「ん?お前、新大陸の
「話が早くて助かる。これを使って欲しいんだけど」
俺はゲームウィンドウを開いき、持ち物を選択してそれを取り出す。それをみたギランはこれでもかと目を見開いた。
「お前さんの言いたいことはわかった。確かにこれはその辺のアクセサリーショップじゃ加工をしてくれないだろうよ。いや、加工してくれないんじゃないな。できないだろうよ。この素材は相当鍛治レベルの上がっている職人にしか加工できそうにないな」
俺はそれ、神龍の宝玉をギランに手渡す。
「それで、これを何に加工して欲しいんだ?」
「あぁ、それをできたら二つの指輪に加工して欲しいんだが。できるか?」
ギランはガッハッハと大きな声で笑い声を上げる。
「誰にものを言っているんだ。俺に加工できないものなんてない」
「それが聞けて安心した。それで、報酬なんだけど、どれくらい払えばいい?」
ギランは手に持っている神龍の宝玉を自分のゲームウィンドウを開いてからしまい、顎に手を当てて唸り声を上げる。
「ふーむ、そうだな。正直なところ、今はそれほど金には困っていないんだ」
「ふーん、金には、ね」
「そうだ、金には困っていないんだ。これでも鍛治師の中ではトップレベルの実力があると自負しているからな」
「で、俺は何をすればいい?」
ギランは『話が早くて助かる』と言ってから、ゲームウィンドウでJFO内のマップを広げる。
「お前さんには素材を取ってきて欲しいんだ」
「素材?」
「あぁ、そうだ。現在地が中央にあるダイヤモンド大陸のカラテットって街だろ?そこから南へ行ったところの大陸、ルビー大陸にあるルビニアって街の付近に出没するカメの素材を取ってきて欲しいんだ」
ギランはトントンッとルビニアの街を指先でタップする。
「ルビニアの街付近に出るカメって言ったら背中に小さいルビーを背負ってるルビータートルだろ?あんなの俺じゃなくても良くないか?」
俺は目を細め、ギランを見る。ギランはやれやれと言った表情で首を横に振る。
「どうやらお前さんはまだ知らないらしいな」
「なにがだ?」
ギランは一度ゴホンッと咳払いしてから説明を始める。
「ルビニアの街付近にカメ型の魔物のレアエネミーが出没するようになったらしい。俺は鍛治に集中してたからそっちには行けてないんだが」
「そうなのか?その情報は信じてもいいのか?」
「あぁ、それに関しては問題無い。だが、厄介なことにカメ型のレアエネミーってなだけあってスピードが遅く、初心者でも見つけたら討伐できるんだ。その魔物の戦闘力は少し時間をかければ初心者でも銅の剣で倒せるくらいだな。まあ隠れてるから見つけるのにも下手すれば一週間はかかるかもしれないとのことだがな」
「それがなんで厄介なんだ?」
ギランは俺の耳元に顔を近づける。
「出るんだとさ」
「何が出るんだよ、幽霊か?宇宙人か?」
「だったらよかったんだがな。初心者の集まるところにPKギルド
「またあいつらか。懲りない奴らだな」
俺はため息を吐いてから奴らのことを思い出す。
PKギルド黒狼。JFO内にはPKギルドというものが複数存在するが、その中でも特に大きなPKギルドが黒狼なのだ。奴らとは何度か接触したことがあるが、色々と厄介なやつだ。魔物相手ではなく、人を殺すことに特化して居るから、普段の戦いとはまるで違う。PKをすると頭の上に表示されて居る名前が赤に変わる。だが、相手から襲ってきて返り討ちにした場合はPK判定にはならない。そこのところが曖昧だからなんとも言えない。
「それで、素材は取ってきてくれるのか?」
俺は大きく頷いてから立ち上がる。
「当たり前だ。じゃなきゃアクセサリー作ってくれないんだろ?」
「そりゃもちろん。わかったならとっとと行ってこい。まあお前さんなら大丈夫だとは思うが、奴らには気をつけろよ」
俺は右手をあげてそれに反応すると、目的地ルビニアへ向けて歩き始めた。
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