ヘルメースと鬱病患者

星空ゆめ

ヘルメースと鬱病患者

ある時、1人の若い鬱病患者がおりました。


「あぁ鬱だ…死のう死のう…この森で首を吊って死のう…もう絶対死のう…」


「いや今度こそはマジ。絶対。ツイキャスで自殺配信までする。縄をかけるところから配信開始する。いや、助けにきてほしいとかそういうんじゃなくて、こうやって死ぬんだぞって見せつけるっていうか…とにかく助けとか同情がほしいんじゃなくてほんとに」


若い鬱病患者は一人でぶつぶつと小言を漏らしながら手頃な枝を探します。


「『今から死にます。配信もします』っと………はぁ!?『嘘乙』、『どうせ死なない定期』、『死ぬなら勝手に死ね』、『ちくわ大明神』ん〜!!!???なんだこいつらクッソー!」


リプライに怒った鬱病患者はありったけの病みツイを書いてタイムラインに流そうとしました。ところが


「あっ!」


手から滑り落ちたiPhone8plusが病みツイを載せてそのまま泉へと落っこちてしまったのです。


「俺のiPhone8plusが!!!」


「どーすんだよこれじゃ配信できないじゃん…はーもう死ぬのやめよっかなぁでもこのまま生き残ると『やっぱりな(レ)』、『こいついつも死なねえよな』、『もう誰も相手にしてねえよ』とか言われるし………また垢転生するしか………」


するとなんと!泉の中からぶくぶくと泡が湧き出たかと思えば、泉の精霊が鬱病患者の頭上よりもさらに高いところにまで現れたではありませんか!


「あなたが落としたのはこの『安楽死用の薬』ですか?それともこの『現ナマ2億円』ですか?」


「げ、現ナマで2億!?」


鬱病患者は驚きます。


(な、なんで現ナマが。ていうかここはiPhoneX256GBとiPhone 12 Pro MAX512GBが出てくるところじゃないのか!?)


(そうかわかったぞ!泉に落ちたのは俺の『病みツイ』なんだ!だから病みツイの解決策として『安楽死用の薬』と『現ナマ2億円』が用意されたんだ!)


(こんなんもちろん現ナマ2億円を貰って残りの人生を底辺労働者煽りに費やすに決まってる!でもここで2億って言ったらどっちも没収されるんだよな…ここは慎重に…)


「いいえ精霊様、私が落としたのは『安楽死用の薬』でも『現ナマ2億円』でもなく、普通の『iPhone8plus64GB」です。」


「あなたは正直モノですね。正直者のあなたにはこの「現ナマ2億円』と『安楽死用の薬』の両方を授けましょう」


(よっしゃあああああ!!!!これで日雇いのライン労働ともおさらばやあああああ!!!人生余裕すぎ!wwwwww大学で俺のこと見下しとったやつ全員金で見返せるわwwwwwwwさっそくソープ行って脱童すっか!w)


「現ナマ2億円をどうぞ…」


「あっ…どうも…(オッモ、2億円オッモ、え、これもって帰れるか?焦るなよ、まずは穴掘ってそこらへんに埋めといて一回家帰ってから車持ってくれば…)


「そしてこれが安楽死用の薬です(プスッ」


「え…?」


「それではご機嫌よう…」


「え、ちょ、は、、、、、は?????」


「ちょ、ま、今プスッって、ちょ、腕に針がちょ」


「え、うそじゃん?は?2億あるのに?2億あるのにそんな、え?うそ、は?そんな2億を前にして死…?」


「い、いやだ!いやだ!いやだ!死にたくない死にたくない死にたくない!ざっっっふっざけんな!!!おいカス!!!!なにやってんだよ!!!!!ばっっっっっっっっ…………ァア!!!!!!」


「いやだ!!!!!!死にたくない!!!!!せっかく2億!2億手に入れたのに!そんな!!!いやだ!!!いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」


「助けて助けて助けて神様助けてお母さん助けて助けてみんな、みんな謝るから、俺が悪かったら、頼むから助けて、助けて助けて助けて………」


「嫌だ………死にたくない…………2億なんてどうでもいい………死にたく……………」


「ない………………────────」


そう言い残して鬱病患者は安らかに眠りました。鬱病患者は死ぬほど欲しがっていた安らかな死を貰えてとても喜んで逝けましたとさ、めでたしめでたし。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヘルメースと鬱病患者 星空ゆめ @hoshizorayume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ