おもしろい話

きゃぴ太

電脳世界

 これは僕が小学校2年生の頃の話である。

 

 当時の僕はポケモンにハマっていた。ポケットモンスタークリスタルである。

 

 当時から少しオタク気質を発揮していたぼくと2つ上の兄は、「タウリン」「インドメタシン」というおよそ廃人しか興味を示さないアイテムの重要性にいち早く気が付いていた。

 

「タウリン」やら「インドメタシン」は、簡単に言えばポケモンの強さに影響を与える隠れたステータスを上昇させる為のドーピングアイテムである。

 

 このアイテムは5種類あり、ゲーム内のお金で購入できるが、ひとつ9千8百円と高額である。1匹のポケモンにつきそれぞれ10個ずつ投与することができ、ドーピングをカンストすると合計で49万円かかる計算になる。

 

 僕たち兄弟は小学生らしく四捨五入し、このドーピングをカンストしたポケモンを「50万ポケモン」と呼び、価値の高いポケモンとして扱っていた。

 

(当時この50万ポケモンを量産し、「ポケモン育て屋さん」と称して、流行っていたポケモンカードや遊戯王カード等の物品と交換するという、ロケット団のようなビジネスもやっていたが、これはまた別の話である。)

 

 ある日僕は兄が50万ポケモンとして育てた「ナッシー」がどうしても欲しくなり、兄に交換を申し出た。

 

 ぼく「50万ポケモンのナッシーと、僕の持ってるポケモン交換してくれない?」

 

 兄「いいよ!」

 

 僕はそれなりの対価を差し出す気ではいたのだが、何と交換したらよいか兄に聞いたところ、なんでも構わないという。

 

 僕はお言葉に甘えてくらやみトンネルで捕まえたレベル6のディグダを差し出すことにした。

 

 兄「通信ケーブル繋いで!」

 

 ぼく「わかった」

 

 僕は自分の部屋にあるピカチュウ型の通信ケーブルを持ってくると、兄と僕の通信ゲームボーイアドバンスに繋いだ。

 

 兄「それじゃナッシー送るよ」

 

 …テンテンテンテンテンテン…テュリリリ!

 

 その時である。下から母が僕たちを夕飯に呼ぶ声がして、振り向きざまに僕は通信ケーブルをブチっと引き抜いてしまった。

 

 ぼく「…あっ!」

 

 僕は一瞬焦ったが、すぐに冷静になる。そもそも通信ケーブルが抜けたからといってデータが消えるわけではないのだ。

 

 しかしいつも冷静な兄は少し焦ったようで僕にこう言った。

 

 兄「ナッシーそっち行ったか?」

 

 そうだ。確かにシビアなタイミングであった。交換が完了したかは分からない。

 

 データのやり取り中に通信ケーブルが抜けた時にどうなるのかは分からなかったが、最悪ナッシーのデータが消失することはあり得る気がした。

 

 急いで自身のゲームボーイを確認する。

 

 ぼく「…きてる!!」

 

 通信交換が完了した後にケーブルは抜けたようだった。一安心。

 

 兄「そうか」

 

 ホッと安心した兄も自分のゲームボーイに目を落とし、他のポケモンを見始めた。しかししばらくするとあれっ?という声がしたので、どうしたのか聞いてみた。

 

 兄「ナッシーいるぞ」

 

 ぼく「え???」

 

 どういうことか。さっき僕がみたナッシーは別の個体だったのか?自分のゲームボーイを確認すると確かに50万円分のドーピングを施されたナッシーである。兄産であることに間違いはない。

 

 兄「もしかして裏ワザじゃないか?」

 

 ぼく「…増殖裏ワザ?!」

 

 僕と兄は歓喜した!たしかにナッシーは2つに増殖したのである。これを応用すれば無限に50万ポケモンを生み出せるのではないか。何より小学生は裏ワザという響きが大好きである。

 

 喜びの舞を踊る兄と僕。どのタイミングで通信ケーブルを引っこ抜けば増殖されるのか試そうと勇んでゲームボーイの画面に兄が目を戻した。その時顔だけこちらに向けて兄が言った。

 

 兄「そういえばディグダは?」

 

 ディグダ…。


 電脳世界 完

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