第10話 部活紹介
新入生歓迎行事が体育館で行われている。校長、生徒会はじめ各委員会からの挨拶が終わり、今は壇上で部活動紹介の真っただ中。
壇上で3分の持ち時間を余すところ使おうと思い思いの紹介をしていく先輩たちを1年生たちがクラスごとに体育館の床に座って眺める。自分たちのお目当ての部活動が来るのを待っていたり、あるいはただ時間が過ぎるのを待っていたり。
「サッカー部の皆さん、ありがとうございます。えー続きまして、野球部――」
生徒会長がマイクを通して言うと、生徒が1人、壇上に現れる。
「はい、どうもー! 野球部の部長でございますー!!」
ドッと体育館が沸く。壇上の生徒は野球のユニフォームに上履き、頭には段ボールで作られた『とぼけた顔をした埴輪』の被り物をしている。
「……は?」
はなえは、三角座りで固まる。出席番号順で、はなえの背後にいる誠人が拍手している。もちろん、彼だけではなく体育館中が沸いているわけだが。
野球部の部長はステージ中央で仁王立ちになり、声を張り上げる。
「えー我が校の野球部は、部員数28名、マネージャー3名! 毎日一生懸命、練習に取り組んでおります! ご覧の通り、堅苦しいことはございません。あ、埴輪はカッチカチなんですけどね!」
そう言って、ロボットダンスもどきを披露する部長。さらに体育館は沸く。
「身体が硬い、運動苦手、ボール握ったことない! 大丈夫! 楽しい仲間たちで、みなさんの高校生活を豊かなものにしましょう。もちろん、やる気のある経験者! 埴輪大好きマネージャーも募集します!」
部長はどこからか野球帽を取り出して「あざーっした!!!」と礼をする。ずり落ちそうになっている段ボールの被り物を押さえて、部長がはけていく。
「野球部の方、ありがとうございましたー。えー、ああ見えてちゃんと部活動はしてますからね。皆さん、興味があったら覗いてやってください。続きまして、ソフトボール部――」
生徒会長のフォローが入る中、はなえはすっかり目を丸くしながら檀上を見る。盛り上がる生徒たちの中、微動だにしない彼女に誠人が後ろから声を掛けてくる。
「はしもっさん、どしたん?」
「え……今のなんだろうって」
「知らん? 東京には伝わってないんかーハニワ部長」
「え?」
「え、気になるん?」
「そりゃまあ」
「せやったら――放課後、一緒に見学行こか?」
「え?」
「俺も野球部気になってきたし、ちょうどええやん」
「え、あの――」
「しーっ」
近くに立っていたクラス担任に注意される。はなえは、慌てて前を向く。
「気になったのは野球部じゃなくて、ハニワなんだけど……」
はなえの呟きは、誰にも届かなかった。
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