第8話 阿寒湖

 昼休み、はなえと杏奈は『委員会決め』の話をしていた。


「そう言えば、はなちゃん、なし崩しで学級委員なってもうたけど」

「あ……うん」

「もしアレやったら、うち代わろか?」

「ううん。正直、いろいろ驚いたけど……一度やるって言ったし頑張る」

「そっかあ。はなちゃん、エエ子やなあ」

「そんなことないよ」


 出汁のきいた玉子焼きを箸で掴みながら、杏奈が言う。


「でも、ほら、長谷川って中学ん時からアホなことばっか言うてるから。なんか嫌なことあったらちゃんと言いや? はなちゃん、大人しそうやから心配やわ」

「うん、ありがとう」


 はなえは、2つ目のパンの袋を開けながら、はたと気づいたように言う。


「杏ちゃんは、長谷川くんと同じ中学校なの?」

「うん。中学ん時ずっと同じクラスで、高校も同じってもう腐れ縁みたいやんな」

「そうなんだ」

「長谷川って誰にでも、男子にも女子にもグイグイ話しかけるし。特にクラスで大人しい子とかに声掛けてたなあ」

「中学の時も、ああいう人だったのね」

「そんなんやから、結構モテてたし」


 杏奈はそう言いながら、ふりかけご飯をつついている。


「中学ん時なんかイガグリ頭やったのになあ」

「そうなんだ」

「そうそう。野球部でな。うちの中学、部活動厳しかったなあ」

「野球部。そういえば明日、新入生歓迎行事だね」

「あ、せやったね! 委員会の委員長からの挨拶と部活紹介あるんやったっけ?」

「うんうん」

「はなちゃんは中学ん時、何部やったん?」

「私はね――」


「なあなあ、自分ら。食べるの遅すぎへん?」


 食堂に行っていた誠人が帰ってきたようだ。杏奈はパッと顔をお弁当に向ける。


「はしもっさんも、片岡も……って、はしもっさん、パン2個め?」

「そうだけど」

「パンが2個でパン……やめとこ。これはあかん。あかんネタや。阿寒湖や」

「なにそれ」

「しっかし女子は、ようそれで足りるよなあ。片岡も」


「べつに、普通やし」と、杏奈はお弁当から目線を離さずに答える。


「なあなあ、自分ら今部活の話してた?」

 はなえはチラッと杏奈を見るが、杏奈は答えそうになく、はなえが答える。

「してた」

「俺な、中学ん時、野球部やってんけど。今悩んでてなあ」

「へえ」

「はしもっさんは、中学ん時、何部やったん?」

「私はね、バスケ部」


「「へえ!」」


 誠人と杏奈は二人で意外そうな声を出す。はなえは笑顔で続ける。


「バスケ漫画にハマってたの」

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