フルルとケープのちっちゃなぼうけん

油絵オヤジ

ふたりはペンギン

ペンギンさんは、朝起きて何かおかしいな、と思いました。仲間たちが、みんな小さくなっているのです。

「ねえ、なんでみんなちっちゃいのー?」

「何言ってるんだ、君が大きくなったんじゃないか」

その時、1匹のちょうちょがひらひらと飛んできました。ペンギン達はいろめきたちます。わあっとちょうちょを追いかけ始めました。なんだか楽しくなって、ペンギンさんも追いかけます。ちょうちょはひらひらとプールを超えて、透明な壁も超えて飛んでいってしまいます。他のペンギン達はあきらめましたが、ペンギンさんはひらりとプールも、壁も乗り越えてちょうちょを追いかけていきました。

あれ?ふしぎです。そういえば、背中もお腹も痛くないのです。昨日まであんなに痛かったのに。

「ま、いいかー」

ペンギンさんはそのまま走ります。ちょうちょもとっくに追い越して、ぐんぐんスピードをあげて。はじめての速さに、楽しくてしかたないのです。

「ここ、どこだろー」

気づいたら、ペンギンさんは知らない場所にいました。不安になって、歩きます。帰り道もわかりません。

「どうしよっかなあ。あれ?」

見えてきたのは、ペンギンさんの巣と似てるプールです。泳いでいるのはペンギンさんにとってもよく似た子たち。

「こんにちはー!君たちはだぁれ?」

「やあ、ペンギンさん。わたしたちもペンギンだよ」「とっても似てるね!」「でもちょっと違うね」

「ちょっと違うけど、会えて嬉しいよー」

「君はとても大きなペンギンだねぇ。なにペンギン?」

「なにペンギンってー?」

「わたしたちはケープペンギンなんだって。うん。飼育員さんが言ってた」

「へえー。そういえば、フンボルトペンギンって言ってたなぁ。じゃあ私はフンボルトペンギンかー」

そう言って、ケープペンギンたちはフンボルトペンギンさんを見上げます。フンボルトペンギンさんは、なんだか嬉しくなりました。

「あれー?これ誰だろー」

フンボルトペンギンさんは、プールの水に映った姿に気付きました。でも、フンボルトペンギンさんが右を向けば右を向くし、左手を上げたら左手を上げるのです。

「ん?左手?」

フンボルトペンギンさんは自分の左手を見てみます。それは、見慣れた自分のフリッパーではありませんでした。

「ということはー、ここに映っているのはわたしなのかな?」

水に映る姿は、ペンギン達とは違って、飼育員さんにも似てる気がします。その時、空がキラッと光りました。見上げると、何か虹色に光る石が落ちてくるのです。

「きれーだなー、巣作りに使えるかなー」

フンボルトペンギンさんがそんなことを考えてると、その石は目の前のケープペンギンにぶつかりました。

キラッ。

フンボルトペンギンさんは、まぶしくて目を閉じます。

「きゃっ」

変な声がして、目を開けるとそこにはフンボルトペンギンさんと同じように、飼育員さんにも似てる子がいました。でも、その子がケープペンギンだと、なぜかわかるのです。

「ケップップー!」

「ふるるー!」

フンボルトペンギンさんは、ケープペンギンを見て、自分がどうなったのかがわかりました。きっと自分も同じように、あの虹色に光る石にぶつかったのでしょう。寝てるときだったから気づかなかったけど。

「わたしたち、似てるねー」

「うん。でも、ちょっと違うね」

「ちょっと違うけど、嬉しいねー」

「うん、嬉しい!」

ケープペンギンも、壁をひょいっと乗り越えて、フンボルトペンギンさんのところにきました。

「わたしたち、ともだちになろーよー」

「うん、ともだち!」

ケープペンギンがともだちになってくれてもっともっと楽しくなって、ふたりで歩き始めました。

「あれ、なんて動物だろー」

「なんだろね、大きいね」

「あっちはながーい!」

「うん、ながいね!」

ここには見たこともない、いろんな動物たちがたくさんいます。ふたりは飛び跳ねるように次々と動物たちを見てまわります。

「あーっ」

「しっ!」

飼育員さんの軽トラックが、走っていきます。

「見つかったら怒られちゃう」

「怒られちゃうかー」

ふたりは見つからないように隠れました。

「ふふっ!」

「見つからなかったねー」

「見つからなかったね!」

「これからどうしようかー」

ぐぅぅ。

「おなか鳴った!」

「おなか鳴ったねー」

「うひゃひゃひゃひゃ!」

「あははははー!」

ふたりは抱き合ってわらいました。

「ごはんもらいに行こうか」

「もらいに行こー」

「帰り道、わかる?」

「わかんないー。ケープはわかる?」

「わたしもわからないなあ」

「飼育員さんについて行けばよかったねー」

「うん、かくれんぼしちゃったね」

お腹がすいて、帰り道もわかりません。ふたりは急に不安になってしまいました。

「よし、他の子に聞いてみよう!」

「聞いてみよー!」

ふたりは動物たちに聞いてみます。

「ねーねー、わたしたちの巣を知らない?ペンギンの巣ー」

でも、動物たちは誰もおしゃべりしてくれません。

「なんで教えてくれないのー?」

フンボルトペンギンさんは、なんだか悲しくなってきました。

「おなかすいたね」

「うん」

「よし!歩こう!」

「そうだねー。そうだ、歌いながら歩こうよー」

「うん、歌おう!」

「まーるーくーてーふわふわー」「まーいーにーちー食べたいー」『みんな大好きじゃぱりまんー』

ふたりで歌っていると、悲しい気持ちは消えて、また楽しくなってきます。フンボルトペンギンさんは、どんどんどこまでも歩けるような気がしてきました。

「あ!あれ見てー!」

それは、見覚えのあるプールでした。

「わたしの巣だー」

「あそこ、フルルの巣なの?」

「うん!ん?ふるる?」

「フンボルトペンギンって長いから、うん」

「フルルかー。いいねー!」

「それに、フルルだってわたしのことケープって呼んでたよ、うん」

「そうだっけー」

「じゃあ、ごはん食べよう!」

「食べよー!」

飼育員さんにはちょっぴり怒られたけど、ともだちができて、一緒にごはんを食べて、フルルはとっても幸せでした。


おわり

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フルルとケープのちっちゃなぼうけん 油絵オヤジ @aburaeoyaji

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