ライオン

長いベルトコンベアはゆっくりと笑い袋を運んでくる。

検査官の私は、それを一つずつ手に取りグイッと押すのだ。

『アーッハッハッハッハ…』

静かな工場の中を、その声は虚しく響く。

…グイッ。

『アーッハッハッハッハ…』

嗚呼、何も面白い事はないのに。

…グイッ。

『アーッハッハッハッハ…』

嗚呼、気が滅入る。

…グイッ。

『イーヒッヒッヒ、アー、ワライスギテ、ハライタイ…』

「あっ!ラインに笑い袋デラックスが混ざっているぞ!」

私は力一杯、緊急停止ボタンを押した。

………

ガバッと私は布団を跳ね上げた。

「あなた、またあの夢を見たの?物凄い汗よ」

隣で寝ていた妻が心配そうに、こちらを見た。

「ああ、いつもと同じだよ。家にライオンが入ってきて、家族を守って犠牲になる夢さ」

…今日も私は嘘をついてしまった。

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