背中 ●

取引先の部長が、ネクタイを緩めた。

「しかし暑いな」

そう言うと、部長は振り向いてジャケットを脱ぎ、椅子の背もたれに掛けた。

『あっ!』

私は見逃さなかった。

部長のワイシャツの背中が汗で張り付き、下に着ているTシャツが透けているのを。

そして、そのTシャツには大きく“係長”とプリントされているのを。

そう、それは紛れもなく係長Tシャツだった。

『この人は部長じゃない…係長だ!!』

私は心の中で叫んだ。

風が吹いた。

どこかで風鈴の音がした。

今年の夏は、すぐそこまで来ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る