隣の家の亭主

隣の家の亭主が塀から顔を出して言った。

「最近、居心地が悪いと思いませんか?」

そう言われてみれば、確かに最近マイホームに帰っても借家の様に感じたし、自分で稼いだ金で飯を食っても、他人の奢りの様な引け目を感じた。

隣の家の亭主は続けた。

「私、見ちゃったんですよ。三日前の晩に向かいの家の親父が酔っ払って町内の電信柱に抱き付きながら帰って行くのを」

「つまり…どういう事でしょう?」

私はお隣さんの話を理解出来ずにいた。

「つまりね、マーキングですよ。今やこの町内は、あの親父の縄張りとなったのです」

「まさか…」

「しかし、悪くないものですよ。…見飽きた妻が、今や他人妻ですから」

隣の家の亭主は下品に笑った。

私は妻を思い浮かべ、他人の様なのは今に始まった事ではないと考えていた。

そして空はとにかく澄み渡っていた。

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