喪服の女性

地元の先輩の葬儀に参列した。

いよいよ出棺という時に、葬儀場から喪服の女性がお棺に走り寄った。

「レジを通してない商品がありますよね!」

制止する参列者をよそに、その女性は泣きながら繰り返し叫んだ。

「レジを通してない商品がありますよね!」

喪主である妻は顔を伏せていた。

女性が先輩の不倫相手の万引きGメンである事は誰の目にも明らかだった。

私は女性の肩に手を置き「もういい。先輩にもよく聞こえたよ」と言った。

女性はその場に泣き崩れた。

人生には、他人には窺い知れない事情があるのだ。

その日の読経は、なぜか少し優しく聞こえた、まるでボサノヴァの様に。

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