雨空
久瑠井 塵
Prologue
何度だって言ってやるが、俺は雨が嫌いだ。つまりほとんど毎日雨である梅雨の時期などと言うものが好きであるはずがない。いやきっぱり言っておこう。俺は「つゆ」が嫌いだ。
もうかれこれ10年近く遡る事になろうか。俺が雨を嫌うようになったのには、明確すぎるターニングポイントがある。当時それなりにサッカーをやっていた俺は、元々の好きなことには時間をかけるという性分も相まって、チーム内ではそこそこ上手くて、毎試合でレギュラーに選ばれていた。そんなある試合の日、もちろんその日は雨が降っていた。
何故か、そんな日に限って俺は若干寝坊したか、はたまた電車に遅れたか何かで試合に遅れた。当日スタメンだった俺は前半10分が経ったくらいの頃に到着したはずだ。事情を説明すると監督は理解したような顔をして、
「後半から出してやる」
そう言った。この言葉が悪夢の始まりである。俺が来た様子を見たチームは士気が僅かに上がったように思え、果敢に攻め込んだのだろうか、その飛ぶ鳥を落とすような勢いも相手チームの堅い守備に阻まれた。結局前半は無得点に終わっている。そして俺は後半、ピッチに出た。前半の後先考えない攻めのためか、皆は体力を失い、交代したメンバーも
ほとんど守備担当で攻め込むメンツが足りていない事にコートに出た俺はようやく気づいた。
後半開始から5分:相手チーム1点目
後半開始から12分:相手チーム2点目
後半開始から15分:相手チーム3点目
後半開始から22分:相手チーム4点目
もうこの頃には戦意も動きの精彩も失い、守備もガバガバ。何とかパスをカットするなり、オフサイドやゴールが外れてくれるような運任せ要素ばかりだった。
後半開始から25分:相手チーム4点目
後半開始から26分:相手チーム5点目
後半開始から28分:相手チーム6点目
後半開始から29分:相手チーム7点目
後半開始から30分:相手チーム8点目
そこで試合終了のホイッスル。
結果は0ー8。完敗だった。去年3点差つけた
チームで「楽に勝てるだろうが……」と監督も前日話していた。特別相手チームに上手いやつがいたわけでもない。ただひたすらに「雨」という悪条件と前半の後先考えない攻め、後半の守備力の無さ。負けた理由は全て自分たちに起因する。けれど、そんな雨の中、
大喜びする相手チームの選手らと、雨の中泥まみれになり、地面に倒れ伏す、うずくまる、
曇天に慟哭する等、こちら側の様子は散々
だった。どちらの光景もありふれたものだけれど、そこに降る「雨」がその両者の「差」を圧倒的なものとし、記憶に刻みつけられた。
その試合以降俺はあまり、長続きしなかった。練習中にもあの光景が頭の中をよぎる。チーム内での紅白戦でもよぎる。もちろん、他のチームとの練習試合でも公式戦でもよぎる。そうして俺はそれから逃れるためにサッカーを遠ざけようとした。練習をサボりがちになった。そんな時に初めて、レギュラーから外された。そこから1ヶ月くらい練習を丸々サボったあたりで、俺はサッカーをやめた。これはかれこれ「あの日」から1年後の話だ。
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