Act.11:ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク②


「私が記録者スクレテールというのは分かったと思います」

「ん」

記録者スクレテールがどういう身分なのかと言えば、特にこれと言ったものはありません。ララが様で呼んだのは、研究員からすればあらゆる記録を残す私は上の存在だからですね」

「つまり、一般人?」


 妖精なので一般人というのはおかしいかな? 一般妖精と言えば良いだろうか……。


「一般人とも違うんですよね」

「えっと?」

記録者スクレテールの身分は継承者によって異なります。この記録者スクレテールの継承がまた特殊でして、家族代々引き継ぐ訳ではないのです。当代の記録者スクレテールが死亡または、辞めた場合においてランダムで選出されるようになっています。どういう原理なのか、分からないのが殆どです」

「ランダムって」

「はい。規則性もなく、ランダムなのですよね。ただ魔力が多い者や質の高い者に継承する事が比較的高い傾向のようなものはあります。継承した者は、名前の後半がアルシーヴ・フェリークと変わります」


 ランダム継承の上に、名前の後半が変わるってなんか凄いな。あれ? そうなるとラビは継承する前に別の名前があったって事になるけど。


「私の旧姓と言うか生まれた時に付いていた姓としては、エステリアです。ラビリア・ド・エステリアでした。これでもエステリア王国第一王女です」

「第一王女……?」


 ちょっと待って。

 王女ってあれだよね? 王族っていうか、王様の王妃の一人目の娘……良く語られるファンタジーで出てくる王族は、王子の方が王位継承順位が高いけど、王子が居なかったら王位継承権第一位になるよね。


「名前こそアルシーヴ・フェリークになってますが、公の場ではエステリアを名乗ってました。記録者スクレテールになったからと言ってずっとその名前を名乗る必要はありませんからね」

「つまり、王位継承権を持ちながらも、記録者スクレテールとしても過ごしていた……」

「その通りです。と言いましても、王位継承権第一位の兄が居ましたので、私は第二位ですけどね」


 王女+記録者スクレテール……何だか、ラビも複雑だなあ。本当は驚く所だろうけど、既にもう驚かされているのでもうこれ以上驚いてどうするのって所である。

 と言うか兄が居たのか……。


「ん……王女って事はそんな自由に動き回れないよね? 記録者スクレテールとして活動できた?」  

記録者スクレテールになったのは家族全員が知っていましたので、ある程度は動けましたね。と言っても、おっしゃる通り、あまり自由には動き回れませんでしたが」


 それはそうだろうなあ。

 だって、王族でしょ。あまり詳しくは分からないけど、王族がそんな簡単に色んな所を自由に回る事は出来ないだろうし。まあ、これについては、良くあるライトノベルからの知識になるけど。

 実際は分からないが、ラビはこう言っているし、当たってるのかもしれない。所謂経験談というやつだ。


「なるほど……」

「私の正体についてはこんな所ですね」


 これがラビの隠していた自身の正体か。


「ありがとう、話してくれて」

「いえ。元はと言えば隠していた私が悪いのですから。もっと最初の頃に言っておくべきではありました」

「ん。隠したい事は誰にでもある」


 隠したい事は誰もが一つはあるはずだ。ないっていう人も居るだろうけど、大体は一つくらい隠し事はあると思ってる。


「やっぱり優しいですね。……何か質問とかありますか?」

「一番気になるのが魔法少女について」

「それは最もですね」


 魔物については、別世界の生命体っていうのが分かってるから置いとくとする。だって、ラビも魔物については何も分かってないと言っていたし。

 そうなると、やっぱり気になるのは魔法少女だよね。妖精世界にはそんな魔法少女のような存在は居ないみたいだし……強いて言うなら妖精全員が魔法少女のような感じか。魔法使えるし、二つの姿をチェンジできるし。


「魔法少女についてですが、これは地球に魔力が流れ込んだ際の副作用的なものになります」

「副作用?」

「はい。15年前……いえ、年が変わってるので16年でしょうか。魔物出現の日より少し前にの話になりますが、一人の少女が殺されそうになりました」

「え?」

「人目の付かないような、薄暗い場所でしたね。周りに人の姿はなく、少女とその襲撃犯しか居ませんでした」

「……」

「実のところ、魔物出現の日以前にも魔物は存在していました。ただ強い物ではなく今の脅威度でみるとC以下の魔物でしょうか」

「あの日よりも前にも魔物が?」


 それは初耳だ。

 15年……いや、ラビの言う通り年が変わったから16年前というべきかな? ドラゴンのような魔物が出現し、国を半壊に追いやり、かなりの数の死傷者を出し、世界を戦慄させた事件。

 今の脅威度で判定すると、SSの魔物であるとされている。これはもう誰もが知っている事だけど、それ以前にも魔物が居たという。


「襲撃犯……いえ、それは魔物でした」

「!」

「脅威度が低いとは言え、何の力もない一般人が襲われればあっさりと死んでしまうでしょう」

「確かに」

「話を戻しますが、その少女を助けようと思いましたが距離があり、向こうはもう襲われる寸前でした。間に合わない……それで私は完全に運頼みで自身の魔力を彼女へ飛ばしたんですよ」

「魔力を……?」

「はい。多分私は、半分は諦めていたのでしょう。魔力なんか飛ばした所で何になるという話です」

「その子は……?」


 間に合わない。それで、ラビがした行動は自身の魔力をその子に飛ばす事。確かに魔力は何が起きるか分からない物だから、もしかしたらその子を助けれくれるかもという願いがあったのかもしれない。


「はい、その瞬間でした。少女が眩く光ったんですよ」

「え?」

「私も何が起きたのか分かりませんでしたが、光が消え、そこに居たのは変わった衣装を着た少女でした」

「もしかして、魔法少女……?」

「はい。その魔法少女の名前は……アリス・ワンダー」

「アリス・ワンダー……?」


 アリス・ワンダー、だって?

 その名前何処かで聞いた事あるような……。


「アリス・ワンダー。原初の魔法少女にして、地球上一人目の魔法少女です」

「!」


 そうだ。原初の魔法少女の一人にその名前があったはずだ。確か不思議の国のアリスのような衣装で、トランプやら剣を主に使い、戦っていたとされてる。

 他にもぶら下げている懐中時計を使用して、時間を止める事が出来たとも言われていた。時間を止めるとか、それチートじゃね? まあ、原初の魔法少女は異常な強さを持っていたらしいので、それくらいは普通なのかも。


「今は何処で何をしているか分かりませんが……私があの姿で居たのは彼女の助言からです。こっちの姿ではこの耳がどうしても目立ってしまいますからね」


 そう言って尖っている耳を見せるラビ。

 やっぱり、その耳が目立つからあっちの姿になっていたのか……あっちもあっちで喋るぬいぐるみっていうのも何か変な気はするが……でも、良く考えればぬいぐるみとして居れば特に怪しまれないか。


「アリスは私が助けようとしていた事に気付いていたみたいで、私に接触してきました」

「それで?」

「何やかんやありまして、彼女と一緒に過ごす事になりましたね」


 何やかんやって……。

 しかし、ここに来て原初の魔法少女の名前が出てくるとは。


「そこから彼女との魔物退治が始まりました」

「魔物出現の日より前に居たんだね」

「はい。地球では16年前でしたが、歪に呑まれた影響なのか、妖精世界で起きた魔法実験失敗の時間と少しばかりずれが生じていたみたいです。魔物がその時に居たのも、歪の影響の可能性がありますね。分かりませんが」


 という事は、原初の魔法少女は脅威度SSのドラゴンの魔物が出た時に誕生した訳ではないって事か。


「それで、色々と確認した所、どうやら私の魔力の影響でアリスは魔法少女になった事が分かりました。恐らく、私たち妖精のように二つの姿を切り替えられるようになったのでしょうね。それが幸いして、彼女は助かりましたし、その後に起きたSSの魔物にも対処できた訳ですけど」

「なるほど……他の六人も?」

「はい。私が干渉した事によって魔法少女となりました。そして魔物出現の日、丁度その時に妖精世界の魔力が一気に流れ込んできたようです。その頃から各地で魔法少女が突発的に誕生するようになり、魔物も出現するようになりました」


 それで魔法少女が生まれ始めたという事か。


「ただ知っての通り、私が干渉してない魔法少女と干渉した魔法少女では、その強さとかが違ってます。今の司と魔法省の魔法少女のような感じです。色々と試した上で出た結論は、私たち妖精が干渉すると強力な魔法少女が生まれるという物でした」

「ふむ」

「少し長くなりましたが、それが魔法少女と言うものです。名前をつけたのは私ではなくアリスなんですけどね……それが今やこうやって世界的に呼ばれるようになりました」

「やっぱり原初の魔法少女の影響だったか。もしかして、魔力って呼んでいたのも?」

「魔力についてもそうですね。私が妖精世界での呼び方をアリスに伝えてから、広がりました。こっちについてはちゃんとした名前です。まあ、地球上にはなかった物ですが」


 少し前にも言ったように魔力という名称は、原初の魔法少女がそう呼んでいたから広がったのだ。今ではもうそういう名称で辞書とかにも書かれてしまってる。

 で、魔法少女についてはちゃんとした名前はなくアリス・ワンダーがそう名付けたのが広がったみたいだ。こっちもこっちでもう、今では普通に辞書とかにも乗ってるし、そう呼んでる人しか居ない。


 原初の魔法少女ではなく、主な原因はその一人目だったか……どういう人物なのかは分からないけど、ラビを見る限りでは悪い子とかではないみたい。


「ん。理解した……ありがとう」


 魔法少女と言うものの謎が解けたので良しとする。

 思ったより、何ていうか適当な……と言ってはアリス・ワンダーには申し訳ないけど、その彼女から広がったっていうのは分かった。


 大きな謎の一つは取り敢えず、解けたと思うけど……うーん、やばいな。情報量が多くて頭がパンクしそうだ。さっき整理したばかりなのに。


「少し、休ませて」

「そうですね、結構長くなってしまいましたし、一旦休憩しましょうか」

「ん」

「隣、失礼しますね」


 そう言ってわたしの隣に座るラビ。

 しかし、ぬいぐるみの時の姿とはかけ離れてるなあと思いつつ。それを言ったら、魔法少女だって現実の姿から離れてるから、なるほど、そこがそっくりだ。


 わたしの場合は目の色以外変わらないけど。とは言え、細かく見れば結構変わっているけどね。


 もう少し聞きたい事があるので、休憩してから続けよう。今はちょっと疲れたので、休憩させて欲しい。





『あとがき』

ついに原初の魔法少女の一人目の名前が明らかになりましたね。

一応、原初の魔法少女については、外伝的なので書こうかなとは思っているんですけどね……需要あるんだろうか。


仮に書くとしても何時になるかは分かりませんが……。



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