Act.10:ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク①


「ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク……?」

「はい。長いのでいつものようにラビとお呼び下さい」

「……やっぱりラビなんだ」

「はい。今まで隠していて申し訳ありません」


 そう言って驚くほど綺麗に頭を下げるラビ。いや……まさか、女の子になるとは思わないでしょ! いや、喋り方からして女性っぽいとは思ってたけど。喋り方も変わってるじゃないか。


「この姿が私たちの本当の姿です。妖精と呼ばれているのは、昔よりそう言われてきていたからですね」

「……」

「驚くのも無理ありませんね。ですが、順を追って説明いたしますね」

「ん……お願い」

「はい」


 そう言ってまた笑うラビ。

 今までのラビと違った、丁寧な言葉に喋り方……正直、困惑しているけど、ラビなのは間違いない。ティアラを付けているという事は、やっぱりラビは身分が高い存在なのだろうか。

 ララと初めて? 会った時とか、ラビリア様と呼んでいたのもあるし、身分が高いというのは何となくではあるものの、予想していたが……。


「まず、私についてですね。私の本当の名前はさっきも言った通り、ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリークです。ララがラビリアと呼んでいたのは本名の方だった訳です」

「二人は面識が?」

「はい。最も、そこまで頻繁に会っていた訳ではないですが……」

「ララもその姿に?」

「可能でしょう。私たちは元よりエクスチェンジ……私がこの姿になるのに使った魔法ですが、妖精なら誰もが使えます」


 なるほど。

 いや、色々とまだ謎が多いけど、取り敢えず、その人間のような姿の方が実際、本当の姿という事なのは分かった。良く見てみると、彼女の耳は少しだけ尖っている。


 ……エルフ。

 ふと、それを見てその言葉思い浮かぶ。良くファンタジーな話には出てくる、エルフという種族。自然の中で暮らしているというのが多い。だけど、そういったもので見たエルフと比べると、耳がそこまで尖ってない。


 まあ、魔法については存在しているが、エルフという種族については流石に地球上には存在してないから何とも言えない。それに、明らかにエルフとは違う、透明な羽のようなものが見える。


「私たち妖精は、以前も言ったように妖精世界フェリークで暮らしていました。色んな国や、色んな人たちが居ます」

「地球とあまり変わらないっていうのは……」

「はい。全てを含めてあまり変わらないって事ですね。基本はこの姿で出歩いているので」

「なんで、そんな二つの姿を持ってるの?」

「それは、生まれつき、としか言えません。どっちの姿で居ても魔法自体に支障はなく、普通に過ごせます。当然ですが、あちらの姿ですと身長もかなり低くなりますし、不便ではありますね」

「生まれつき……」


 地球で言う人間っていうのが、妖精世界では妖精というものだって事は分かった。まさか、そんな姿になれるとは思わなかったけど。


「そして私はどういう存在なのかと言うのは、気になっているでしょう」

「ん。ララに様付けで呼ばれてたから、偉い人?」

「偉い人ですか……ふふ、間違ってもいないですけどね」

「?」

「私の名前を一度読み返してみて下さい」

「ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク……ん? ?」


 そこではっとなる。

 アルシーヴ・フェリーク……それは、ラビが行き来できるあの不思議な空間である妖精アルシーヴ書庫フェリークと同じ名前だ。

 何故、妖精書庫の名前が付いてるんだ? 国の名前とかなら王女様とかそういうのに当てはまるけど……もしかして、アルシーヴ・フェリークという国?


「私の名前に付いているアルシーヴ・フェリークというのは、妖精書庫と同じものです。その名前が私に付いている理由……それは私があの書庫の全権管理者アドミニストレータだからです」

「全権管理者……」

「あの書庫内において、全ての権限を私が保有しています。記録の抹消や、記録の追加、内容の修正等ですね」


 という事は、あそこにあった本とかって全部ラビが?


「それは違いますね。確かに私が追加した物や修正した物はありますが、全権管理者というのは昔より代々引き継がれています。私の場合は二十代目となります」

「二十代目?」

「はい。なので、全部私が記録した訳ではないです」


 ニ十代目か……妖精の平均寿命は分からないけど、日本の男性の平均寿命である81……中途半端だから80として計算すると、80×20で1600……つまり1600年前から存在していたという事になる。


 ラビの話では妖精世界の天気や歴史、成り立ちや出来事などの全ての記録を残しているみたいだったし、あそこにはその1600年分の記録があるという事か。


 ちょっと数値の桁が……まあ、地球も何億年とかだからそれを比べると、何でもない年数なのかもしれない。


「私たちの役割は妖精世界の出来事を記録する事です。その時代には何が起きたのか、どんな魔法が生まれたのか、どういう事があったのか、そしてその時の天気はどうだったのか等、実際に起きた事を記録し、末代へと残す記録者スクレテールです」

記録者スクレテール?」

「はい。そのまま記録者という意味ですね」

「ラビは、妖精世界の記録を残していたって事?」

「そうなりますね。ただ、私の代ではそこまで大きな事件とか変化はありませんでした。あの妖精書庫内に私が書いたものは一応ありますが、本棚ニつ分くらいですね」

「それでも多いね……」

「そうでしょうか?」

「ん」


 まあ、天気とかの記録まで残す訳だし、本棚二つ分は少ないのかもしれない。そうなると、ラビの年齢が気になるけど……ラビとは言え、この姿を見てしまったら女の子に年齢は聞けないな。


「私の年齢が気になりますか?」

「いや……」

「ふふ、顔に書かれてますよ」

「……ん」

「私と司の仲じゃないですか。それくらいは教えますよ。そもそも、私の方はずっと色々と隠していたのですから」


 ラビ……なんだけどその姿で言われるとちょっとなんか変な感じがする。


「見ての通り人間ではありません。私の年齢は160歳になった所ですね。人間で言うと16歳辺りです」

「!」


 待て待て。160歳? そうなると、さっきの男性の平均寿命の計算が全然意味がないじゃないか。いやまあ、妖精の寿命を知らなかったから暫定的に計算しただけなのだが。


「妖精の寿命は平均で800歳前後です。地球の年齢に例えると80歳辺りになります」


 桁が違うけど、地球の年齢の例えの方を見ると地球とあまり変わらないのね。そうなると、800×20になるのか……いや、二十代目がラビだから19の方をかけるべきか。


 そうなると、15200年……お、おう。暫定計算の数値より、おおよそ十倍近くになっちゃったよ。


「160年で見ると本棚二つというのは少ない方ですね。平和だという証拠ですが」

「なるほどね」

「はい。私はそういう存在って事になります」

「ちょっと整理する」

「承知しました。まだ話してない事もありますし、ゆっくり話していきますね」

「ん」


 ここまでのラビからの情報を頭の中で整理する。結構な情報量……妖精というのは、地球で言う人間って事。そして見知ったあの兎のぬいぐるみのような姿と、今の女の子の姿を変える事が出来る事。

 今の姿の方が本来の姿らしい。何故、向こうの姿で地球に居たのかは分からないけど、でも彼女の耳は少し尖ってる。髪ではギリギリ隠せないくらいだから、確かにその姿で居るのは注目されるか?


 でも、喋るぬいぐるみもあれだけどね。これは、後で聞く事にしよう。


 ラビの本当の名前がラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク。そして妖精世界の様々な記録を代々残していく記録者スクレテール。ラビは二十代目。


 ラビの正体は記録者スクレテール

 あれでも、じゃあ、魔法少女を生み出したっていうのは……いや、これも後から聞こう。今はあくまで情報の整理だから。これだけでも大分多い情報量だな。


 何とか、整理できた所で再びラビを見る。すると、ラビはわたしに気付き軽く頷く。そして、話の続きに入るのだった。





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