Act.34:帰還
「本当にありがとう」
そう深く頭を下げならお礼を言ってくるのは、茨城地域の支部長である北条茜だった。
あの後、わたしも魔法少女たちが集まっている場所へ向かい、予めラビに教えてもらっていた、他人の反転世界から出る魔法……
当然だけど、魔石の回収はできてない。わたしもわたしで結構、あの反転世界の中で大判振る舞いしたので、現状そこそこ辛い感じ。エスケープもそこそこ魔力を消費した。それに一人とかじゃなくで自分も含めて26人を移動させたからね。
今までは特に魔力枯渇なんて起こさずに、戦闘が終わっていたけど今回は中々。魔石は使ってないけど、異常な量の魔力を持つわたしがここまで使ったのは初めてかも知れない。
ブラックホールにメテオスターフォールの常時展開、サンフレアキャノン……そして今回使用した新魔法であるスーパーノヴァ。少しいや、結構暴れすぎたかも知れない。
とは言え、茨城地域を守ってくれている魔法少女たち25人をあんな目に合わせてたんだから仕方がない。反転世界に行くのを免れた5人もそうだ。
「ん。気にしないで」
怒って暴れたのは内緒にしておく。
ただ、わたしの戦っている光景を25人は見ているので、怒っているとかそういうのは分からなくても自分が使ったあの魔法たちについてはそのうち魔法省内で広まりそうだ。
魔法が別にバレるのは良い。
敵対する気はないのだし、バレた所で何とも無い。というか、戦っていれば誰もが魔法を使うことになるんだし、隠すことは出来ないだろう。
「リュネール・エトワールさん、皆を助けてくれてありがとうございます!」
茜に続いてそう言ってくるのは、ホワイトパール。崩壊した町で気を失っていて、最初に情報提供をしてくれた子でもある。身長はホワイトリリーよりちょっと小さいくらい。
「ん」
わたしからしても、助けられて良かったと思ってる。
まさか、魔物が反転世界なんて使うとは思わなかったしな……ラビが居なかったら真面目にお手上げ状態だったかも知れない。ラビの謎はまだあるけど、今はそれを究明するのは大事ではない。
エスケープで反転世界から脱出した後、一部の魔法少女は魔力消費によって疲弊もしていたので、魔法省の方へ戻っていった。30人中、25人……まあつまり、反転世界の中で戦っていた魔法少女全員が行ったという事になる。
ホワイトリリーとブルーサファイアも、お疲れ様。わたしは心の中でそう言っておく。あまり会話はできなかったけど、仕方がない。ゆっくり休むのも大事だろう。
そういう訳で、この場に居るのは茜とホワイトパールだけだ。少し前までは、残りの4人の魔法少女たちも居てそれぞれにお礼を言われた。正直、素直にそうお礼されると照れくさい。
周りを少し見回してみるが、ブラックリリーの姿は見えない。
何だかちょっと残念かも。まあ、ブラックリリーもブラックリリーで何かしらの目的で野良として活動しているし、仕方がないのかも知れないな。
「ん。わたしはこれで」
ここにわたしはずっと居てもあれだろしね。
「あ、待って」
「ん?」
その場を去ろうと思い、飛び上がろうとした所で茜に呼び止められる。わたしは茜の方に振り返り、首を傾げる。何だろうか? また魔法省への勧誘とかかな?
いや、流石にこの状況でそれはないと思いたいが。それに、わたしは今結構疲れてるから休みたい気が強い。
「今回の件、本当に感謝しているわ。ありがとう。それで、出来れば後日魔法省に来て欲しいのだけど」
「?」
「ここまでお世話になって何もしないっていうのはね。だからちょっとしたお礼をしたいなって」
「別に必要ない」
「この前、魔法省が嫌いという訳じゃないって言ってたわよね? 本当に一回で良いからお願い」
魔法省が嫌いじゃないって言ったのは確かだが……うーん、どうするか。
「勿論、変身した状態で良いわ」
……まあ良いか。一回だけなら。
それにもしかしたらホワイトリリーとかブルーサファイアとも会えるかもしれないし……変身した状態でも良いと言うなら。まあ、今のわたしは解除した所でリュネール・エトワールに似た容姿なんだけど。
「……分かった。一度だけ。いつ?」
「本当? ありがとう。時間は何時でも良いわ。でも明日は年始だから色々と忙しいだろうし……1月4日以降かしら?」
あーそう言えば、今日大晦日なの忘れていた。
今日は色々とありすぎて、忘れそうになる。そっか……もう今年が終わるのか。周りが明るいからあれだったけど、既に日は沈んでいて空は暗い。星は見えないので、曇っているのだろう。
この場所には魔法省以外にも、自衛隊や消防とかの車両や隊員が居るし、照明もそこそこある。それにこの辺りは無傷が殆どなので街灯とかも付いてるから暗くない。
水戸駅やその駅ビルの電気も付いてるしな……利用者は居ないだろうけど。
「分かった。4日以降の何処かで行く。連絡とかは?」
「それは大丈夫。私が受付に伝えておくから」
「ん。了解」
まあ、支部長なんだしそれくらいは普通にできるか。
「それじゃ今度こそ」
「ええ。本当にありがとう」
「ありがとうっていう言葉は何回も言うと効果薄れる」
それはごめんなさいとか、すみませんとかそういう言葉にも言えることだが。
「そうね……それなら、さようなら」
「ん」
わたしは、足に力を入れてその場から飛び上がるのだった。
□□□□□□□□□□
「良かったのかい? 彼女に会わなくて」
日が沈み、夜という時間になった中、私は自分の家の屋根の上に立っていた。そんな私に声をかけてくるのは、すぐ近くというか肩の上に乗っているララ。
「ええ。良いのよ。私たちは所詮は一時的な共闘関係なんだから」
リュネール・エトワールが反転世界と呼ばれる場所へ向かって、魔物を倒し25人の魔法少女を助けたのは既に知ってるわ。実際、彼女が戻って来た時も離れた場所で見ていたし。
「本当に?」
「う……」
ララに再度問われると、何故か言葉が詰まる。リュネール・エトワール……嫌いではないのは確かよ。そうじゃなければ、助けたり共闘したりなんてしないもの。
「ブラックリリーは本当は、彼女と仲良くなりたいんだろう?」
「……」
ララめ……的確に気にしてることとかを突いてくるわね。
ええ、そうよ。何時からは分からないけれど……私はリュネール・エトワールと仲良くなりたいという気持ちがあるわ。敵のはずなのに助けてくれた事、捕まっても仕方がないと思っていたのに見逃してくれてる事。
気を遣ってくれていることだって分かるわ。彼女と一緒に居る時は、何処か楽しいとも思ってた。規格外な魔法や力を使うけれど、実際話してみれば言葉数が少ないだけの、普通の子。
「ララも、彼女というより向こうの妖精と話すと言って話してないわよね」
「そうだね……」
リュネール・エトワールは無理にこちらの事を聞こうとはしてこない。だからせめて私も同じようにしたいと思って結局は、話さずに終わってしまう。
ララの反応も気になったけど、今の所は教えてくれなさそうよね。ただラビリア様って様付けしていたという事は、あちらの妖精は身分的な何かが上なのかも知れない。
「はあ、何やってるんだろ私。本当は仲良くなりたいんだけど」
言っておくけど、私だって普通の女の子のつもりだからね? 普通に友だちが欲しいという願望はあるのよ……ただ諸事情によりそれは叶わないんだけれど。
それに、リュネール・エトワールは優しいし……叶うなら彼女に本当の事を話して協力して欲しいなって思ってるのも確かなのよね。でも思ってはいても切り出せないでいる。
何となく分かってる。
本当の事を話したらリュネール・エトワールが私の事を嫌いになるかも知れない。実際、私はそういう事をしたのだから。でも彼女は特に私を責めるわけでもなく、普通に接してくれる。
だから怖いのかも知れないわね。
「……」
あー、会わなかったの今更ながら後悔してるわ。
行ってらっしゃい的な事言ったのに、帰りは居ないって……本当に何してるのよ。嫌われたかしら? それはない……わよね?
「全く後からいつも後悔するんだから君は」
「う、何も言い返せないわ」
また会えるわよね?
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