Act.33:反転世界の戦い③


 空間を歪めて攻撃を防ぐ。

 何してるのか分からないが、ただ面倒なのは確かだ。ブラックリリーのように空間を操る術をクラゲもどきの魔物は持っている。今までこんな魔物を見たことはあっただろうか?


 まあ、無いよね。


 魔物ではなく魔法少女なら、ブラックリリーという空間操作を可能とする者が居るけど。他に居るかは分からないな……茨城地域には居ないか? 他の地域はわからないけど。


「スターシュート!」


 いつもの攻撃魔法を使うが、知っての通り奴はあんな感じに攻撃を防いでいるのだ。スターシュート程度では何にもならない。かといって、サンフレアキャノンも効かなかったのでやっぱりあのバリアのようなものを壊すか無効化するかしないと本体には届かない。


 本体の耐久はどれくらいかはわからないが、少なくともバリアさえなければダメージは与えられるはず。


「っと」


 クラゲもどきは早速わたしに向けて触手を伸ばしてくる。

 しかしそれは今も尚、展開されているメテオスターフォールによって無意味なものとなる。わたしの所に届く前に、触手は破壊される。触手自体には特殊なバリアのようなものは無さそうだ。


「#$#%!!」


 触手を砕かれたからか、クラゲもどきは大きな叫び声を開けてくる。魔物の言葉は共通して意味不明で、それ言葉なのか? というレベルだ。そして無駄に頭に響くし不快に思う方が大多数。

 知能はあるっぽいが、クラゲもどきも例外ではなく、意味不明な声を上げている。逆に、日本語とか英語とか話せたとしても変な感じではあるが。


「どうする?」


 手がない訳ではないが……いや、悩んでる暇は無さそうだな。時間をかけるつもりはないと、言ったのはわたし自身だ。それならもうやってやろうじゃないか。


「ラビ、ブラックホールを使う」

「(分かったわ。確かにそれなら……)」

「ん」


 ブラックホール。

 反転世界では何度か練習で使っていた、一番強力な魔法だ。宇宙空間に存在しているような、大規模なものではないものの本質はブラックホールと同じだ。


 ありとあらゆる物を吸い込む。

 ただ吸い込むだけではなく、周囲の重力場を著しく乱れさせる。現状、わたしは使える魔法の中で、空間にも影響を及ぼす魔法はこれとホワイトホールくらいしか無い。


 重力場を乱し、空間すら歪めてしまうこのブラックホール……本来なら余り使う気は無かったが、今回は仕方がない。それに影響範囲が広いから、現実世界では使用を控えていたが今この場所は反転世界。


「別に使ってもいいよね」


 逆に言えば、これくらいしか奴に攻撃が通る可能性のあるものが思い浮かばない。ただ、そう言ってもあくまで、効くかも知れないってだけで、効くという確証はない。


「やるしかない」


 考えてたって現状が変わる訳ではない。


「行くよ」


 実戦で使うのは初めてなので、少し怖いというのはあるがそんな事は気にするな! わたし自身の力を信じろ! わたしの魔法は強いんだ!


「――ブラックホール!!!」


 ターゲットはあのクラゲもどき。

 わたしは魔法のキーワードを紡ぐと、クラゲもどきの周辺の空間や重力場が乱れ始める。近くにある砂や石、岩、瓦礫などが宙を浮き始め、そしてクラゲもどきの方へ……いや、ブラックホールの方へ飛んでいく。


 吸い込む力は次第に強くなっていき、最大となった所で周辺のものを吸い込む。空間も歪み始め、クラゲもどきは何やら慌てているような感じがする。


「この機を逃しては駄目……」


 ブラックホールとクラゲもどきのバリアが今、丁度ぶつかり合っている。歪みに対しては歪み……若干、クラゲもどきを守っている壁が揺らいでいるように見える。今なら攻撃が通るかな?


 これから使う魔法は恐らく強力……わたしは念の為にラビより教えてもらった位置にいる25人全員の魔法少女に対し、スターバリアを展開させておく。

 スターバリアは別に場所さえわかればそこにバリアを付与できる。わたしだけでは無理だったかも知れないけど、今回はラビが居るから。だからこそ、魔法少女の位置が分かる。


 わたしはゆっくりと、ステッキの先端をクラゲもどきの魔物へと向け、静かに目を瞑る。恒星や惑星、星に月……などがイメージとして頭の中に浮かぶ。




 ――わたしは星と月を司る星月の魔法少女。





 星は生まれてはやがて寿命が尽き、消滅する。





 月は満ち欠けを繰り返す……まるで死と再生。







 さて、星は寿命を迎えるとどうなるか? 

 有名な話であるし、知ってる人は多いだろう。特定の大きさを持つ星の寿命が尽きる時、重力崩壊という現象が発生し、巨大な爆発を引き起こす。


 その爆発の名前は――


「――スーパーノヴァ超新星爆発


 音のしない無音の世界が一時的に出来たかのように、音というものが聞こえなくなる。


 空気が、


 空間が、


 全てが収束していく――


 そして次の瞬間、眩い光とともに耳を劈くような爆発音が反転世界に響き渡る。全てを飲み込むブラックホールと、星の終わりを告げる大爆発。


 ゆっくりと目を開き、魔法を発動させた方向を見る。星の終わり……超新星爆発。魔法キーワードは『スーパーノヴァ』

 わたしの見た方向にはクラゲもどきの魔物は居らず、周りを見ても姿が見えない。爆発により発生する超新星残骸のようなものがただただ残っているだけ。


 魔物の居た周囲にあった建物は跡形も残らず消滅し、地面にはここから見るだけでも深いと思われる大きな穴がポッカリと空いていた。

 穴はそこだけに留まらず、ずっと向こうの方まで続いている。恐らく向こうの方の建物とかも消えてるだろうと思う。


「……」


 その光景を見て、わたしは唖然とする。わたし自身が使った魔法ではあるが、ここまでの威力だったとは。いや、予想は出来ていたはずだ……本物では無くたってそれにやばい爆発を引き起こす訳だ。

 超新星爆発の本物の威力はこんな物ではないだろう。それこそ、この反転世界全てが吹き飛ぶはずだろうし、これだけで済んでいるのはマシなのかも知れない。


 ブラックホールにしたって、本物とは違うし、仮に本物だったらこれも同じようにこの反転世界ごと飲み込んでしまうだろう。まあ、発動者には何も影響がないという謎仕様もあるけど。

 それに反転世界で起きたことは全て現実世界には何の影響も出さない。

 例え反転世界が飲み込まれたり崩壊したとしてもここで起きただけ。まあ、わたしたちは反転世界に居るから影響を受けてしまうだろうけど。


「(あなたは何を目指しているのかしらね)」

「さあ?」


 最早呆れることすらしなくなった、ラビの声が聞こえる。正直、このタイミングで新魔法というのは驚いた。わたしが使える魔法は星と月に関係するものだっていうのは、何となく分かるけど実際どんな魔法が使えるのか? と言われると分からない。


 新しい魔法については、いきなりぱっと思い浮かぶパターンが多めなんだよね。自分で考えた末に、使えたっていう魔法もあるけど、やっぱりぱっと思い浮かぶことが多い。

 それらしい近いイメージをすると、自然と魔法のキーワードも思い浮かぶ。そんな感じで、詳しくは分かってない。


「まあ、それは良いか」

「(魔石、回収できるかしら?)」


 魔物の居た場所には深い穴が開いてる。魔石は大体、魔物の居た場所近くに落ちるのでもしかすると、穴の中に落ちてしまっているかも知れない。


 ゴゴゴゴ……


「何?」


 そんな事考えていると、何処かから地響きのような音が聞こえてくる。反転世界でも地震が起きるのか? と思うかも知れないが、これは違う。直感がそう教えてくれる。


 良く考えるんだ。

 この反転世界を作ったのは誰? そう、わたしでもなければ他の魔法少女でもない……あのクラゲの魔物だ。そのクラゲの魔物は? たった今わたしが消滅させた。


 反転世界は発動者が居る限り残り、居なくなると消える。


「反転世界の消滅?」

「(察しが良いわね……その通りよ。発動者である魔物が消えて、消滅が始めってるわ)」


 やっぱりか。

 ここが他人の(魔物だが)反転世界だということを失念していた。発動者が居なくなれば、世界は消える……それは魔物でも例外でないのだろう。


「猶予は?」

「(5分、と言った所かしらね)」

「5分……こうしてる場合じゃない」


 魔石回収なんてしてる暇はない。

 まずは、この世界にいる茨城地域の25人の魔法少女たちを集めるのが先。5分で行けるかはわからないが、場所ならラビの感知で分かる。


「(運が良いわ)」

「え?」

「(どうやら魔法少女の誰かが、一箇所に集合させているみたい)」

「!」


 それは本当に運が良い。わたしは少し、にやりとする。

 誰がやったか……分からないけど、何となくだけどホワイトリリーやブルーサファイアがやってくれたのかも知れない。


「(急ぎましょう)」

「ん」


 わたしは、急いで魔法少女たちの居る場所へと向かうのだった。




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