Act.30:インターフェア(反転領域干渉)
「準備は良いかしら?」
「ん」
ラビの言葉に俺は頷く。
今から行くのはクラゲの魔物が居るであろう、反転世界だ。まだ居ると決まった訳ではないが、可能性は高い。そしてもし、居るのであればそこに消えた魔法少女たちも居るはずだ。
「何か私たちの方が何も出来てなくて申し訳ないわね……」
そう申し訳無さそうにするのは、男の司での高校の同級生であり、魔法省に所属している茜だ。詳しい所まではしらないけど、色んな人に指示ができる立場からして、かなり上の役職? だろうと思ってる。
「ん。大丈夫、今回はわたしたちも分からなかったから」
「でもこうやって、手がかりを見つけてくれてるわ。本当にありがとう」
「ん」
そう真面目にお礼を言われると、ちょっと恥ずかしいと言うか照れると言うか何というか。
それにまだ、その場所に彼女たちが居るとも限らない。居たら嬉しいが、居なかったらまた振り出しに戻ってしまうだろう。可能性が高いのは確かなんだけどな。
反転世界……これについては、やっぱり魔法省も知らなかったらしく、茜やホワイトパールは驚いていた。それはそうだろう、別世界を作れるなんて空間魔法よりもやばいと思う。
別世界と言っても、発動者の周囲をコピーして中に入るだけだけどな。魔法少女たちの捜索の事もあり、反転世界については一応茜たちには教えてある。
ただ、教えた所で使えるかまでは分からない。オリジナルよりも消費魔力が少なくなってるとは言え、世界をコピーする訳なので、多いのは確かだ。
俺の場合は、何度も言ってる通り魔力量が尋常ではないから、全く気にしないで反転世界に出入りしていた。ブラックリリーは魔力量が少ないからララがあえて伝えないでいたっぽい。
「本当なら私も行きたい所だけれど、今回はやめておくわ」
「ん。ブラックリリー、こっちをお願いね」
「ええ、任せておきなさい」
反転世界に行くのは俺とラビのみ。
ブラックリリーも連れていければ良いのだが、魔力量の関係上怪しかったしそれにこちらの世界で魔物がでてくる可能性がある。今この茨城地域の魔法少女はたったの5人しか居ない。
25人はクラゲとともに何処かに行ってしまった。だから今この状態で魔物に襲われでもすれば、危険であるのは間違いない。魔導砲だって試作型だから、データ不足なのもあるだろうし効き目の確認も出来てないだろう。
一人増えた所で、あまり意味ないのではないか? と思うかも知れないけど、ブラックリリーは魔力量は少なくてもその使用する魔法はS並かそれ以上かと思ってる。
空間ごと斬ったり、瞬間移動できたり、空間を作ったりとか出来る訳だからな。
クラゲの魔物はSだ。上下する可能性も無くはないが、それでも強敵なのは確かだ。
脅威度Sの魔物はSクラス魔法少女複数人で対応するのが基本。今は恐らくホワイトリリーは先陣を切って戦っていると思う。その他にも24人居る訳だから、Sの魔物とは言え、相手するのは容易なはず。
でも長期戦になれば恐らく不利になるのは魔法少女たちだろう。魔石を幾つくらい持っているかは分からないが、魔力が無くなれば戦い続けられなくなる。
そうなると、魔力切れの子をカバーするために別の魔法少女が負担する。それを繰り返せば最終的に、魔法少女側は負けるだろう。
幸い、まだそこまで時間は経過してないはず……反転世界の時間の流れが違うとかそういうのがなければだが……ラビは別にそんな事は言って無かったはずだ。
まあ、考えても仕方がない。今大事なのは早めに行くこと、それだけだ。外れの場合もあるかも知れないがその時はその時だ。
「気を付けていってきなさい」
「ん。ありがとう、ブラックリリー」
「っ!」
「どうかした?」
「な、何でもないわよ」
また顔を赤くしてるな……具合でも悪いのかな? いや、さっきまで普通に話してたし具合が悪いようには見えないな……まあ、それは今はおいておく。
「あの、野良であるあなたにこんなのを言うのは変ですが……皆さんをお願いします」
ブラックリリーの次はホワイトパールが、頭を下げてそう言ってくる。任せろ……と言いたい所だが、まだ居るとは決まってないからなんとも言えないが……だが、もし居たら助けるから安心しろ。
「ん。任せて。まだ確定ではないけど……もし居たら助ける。だからホワイトパールはこっちをよろしくね」
不安を無くせるように、出きり限りの笑顔を見せておく。ちゃんと出来ているかは分からない。
「は、はい!」
変では無かったみたいかな? ホワイトパールもなんか少し赤いけど……。取り合えず、周りを見た限りでは変な顔にはなって無さそうだな。
「私からもお願いするわね。魔法省茨城地域支部支部長として」
「ん。……え?」
「あら、どうかした?」
ちょっと待て茜。今なんて言った?
「今何て言ったの?」
「うん? あ、そう言えば私の事は知らなかったわね」
「?」
「私の名前は北条茜。この茨城地域の支部長よ。改めてよろしくね?」
おいおい……マジかよ。かなり上の役職だとは思ってたが、支部長だって? この地域で一番偉いじゃねえか!? 何、茜そこまで上り詰めたのか?
「支部長……」
「ふふ、驚いたかしら? これでも私は偉いのよ」
なるほどなーホワイトリリーの情報源は茜だったか。一番偉い人と関わりがあるなら、そりゃあ色んな事知ってるよな。
「ん。驚いた」
「隠すつもりはなかったんだけどね。わざわざ明かす必要もないかなって思ってね」
今日一番の驚きだよ、参ったぜ。
「まあ、それはともかく。野良である貴女に頼るしかないのは、魔法省としては不甲斐ないけれど……お願いします」
「ん」
支部長なのは驚いたが、まあ、それは今は重要ではないな。
「行きましょう」
「うん」
茜たちには見られないように、帽子の中に隠れたラビがそう言ってくるので、俺も肯定する。今回は自分の世界ではなく、他者の反転世界だ。上手く行くと良いが……。
「不安なのかしら? 大丈夫よ。あなたは強い……それは私が保証するわ」
「ありがとう、ラビ」
じゃあ行くとしますか。
「――
刹那――世界が歪む。
反転世界へ入る時と同じように俺の視界の世界が歪み始める。それと同時に消費される魔力……確かに普通に反転世界に行くよりも消耗している気がするな。
反転世界だというのなら、ここで使ったというのなら……世界だけが異なり、場所は変わってないはずだ。移動しているかも知れないが、その時は探すしかない。何よりあの魔物はでかいし、空を飛んでいる……目立つはずだ。
現実世界より切り離されたような感覚に襲われ、しばらくしてから目を開くと……。
「ここが……」
ああ、この感じ……反転世界と同じだ。間違いなく俺は反転世界に入れたようだ。
「反転世界ね。間違いないわ」
「そっか」
ただ俺の見た世界とは異なり、何処か薄暗い。周辺の建物は現実世界以上に崩壊しており、建物もアスファルトも道路も何もかもがもう滅茶苦茶になっている。
かなりの激戦なのだろうか……。
「! リュネール・エトワール」
「何かあった?」
「あの建物の方向から反応ありよ。魔法少女らしき反応複数と、魔物のらしき反応。推定脅威度はS」
「良かった、ここに居る?」
「ええ恐らくはね。ただ、魔法少女側の魔力が弱まっているわ……後動けないでいるような感じの魔法少女も」
「!」
魔力が弱まっている……まずいな。間に合うか?
「行くよ」
「ええ!」
間に合うか? じゃない、間に合わせるんだ!
全身に力を入れ、魔法少女の超人的身体能力を活用し、自分の出せるだけの速度で反応のあった場所へと向かうのだった。
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