Act.29:魔法少女たちの行方


「どう?」

「駄目ね……やっぱり流石に行き先までは特定出来できないわ」


 再び俺とブラックリリーは、崩壊した町の方へ戻ってきていた。近くからヘリコプターが飛ぶ音とかが聞こえてくる。多分陸上自衛隊のヘリか、報道関係のヘリだと思う。


 魔法の発動痕跡から行き先が辿れないか、もう一度ここに来てみたのは良いけど結果は同じ。やっぱり、特定はできないっぽい。まあ、これで分かったら苦労も何もないな。


「せめて発動直前なら分かるかも知れないけれど」

「発動直前?」

「ええ。発動直前なら探知出来るかも知れないわ。これはまだ言ってなかったと思うけれど、テレポートは空間を歪めて移動する魔法よ。要するにテレポートの魔法を使用すると、発動者の周囲に一時的に空間の歪みが生じるのよ」

「歪み……」

「うん。空間を歪めて移動する。自分が居る空間と、目的地の空間を繋げるのよ。簡単に言えば、点と点が繋がるという感じね。ほら、良くワープとかあるじゃない? あんな感じね」


 なるほど。

 いやまあ、まだ完全に理解しきれている訳ではないが何となくは分かってる。空間を歪めて距離という概念を消している感じだろう。あくまで俺の想像では、だが。

 それに近いのは確かだと思う。歪んだ空間を移動するのは一瞬で、人間では感じることが出来ない。実際テレポートで移動した時、特に何のあれもなく、気付いたら目的地に移動してたし、一瞬だけ視界が歪むっていうくらいしか分からない。


 その視界が歪むというのが、恐らくさっき言っていた空間の歪みなのだろう。空間の魔法なんて俺にはさっぱりだな。


「その歪みを調べられれば、転移先を割り出せたかも知れないわ。でも既に発動して移動しちゃった後だものね……」


 そうか。

 転移元と転移先は、一時的に空間の歪みで繋がっている……確かにそれを考えると、ブラックリリーの言う通り発動直前なら分かるかも知れないのか。


 がしかし、既に移動済みだからそれは無理だよな。


 ん? でも待てよ……ラビなら、過去を見れる魔法なら或いは?


「ねえ、ラビ」

「言わなくても分かるわ。過去を見る魔法よね」

「ん。それならもしかしたら分かるかも知れない」

「可能性は高いわね……やってみましょう」


 ラビもやってみる気はあるようだ。


「何よ? 何か分かったのかしら?」


 ラビとそんな話をしていると、それに気付いたのかブラックリリーも近づいてくる。そう言えば、ラビが居るということはバレたがラビがどんな魔法を使うかまでは知られてないな。

 それはこっちも同じで、向こうのララという妖精がどんな魔法とかを使えるかは分かってない。ここはお互い様という事で。まあ、今からラビには過去を見る魔法を使ってもらうからそれは知られるだろうけど。


 現状、それしか良い案もないし行動しなければ何も始まらないのだ。


「ん。今からラビが過去を見る」

「過……去?」

「ん」


 流石のブラックリリーもこれには、信じられないと言うか驚いた表情を見せる。対してララの方は特に驚いた様子はない……やっぱり、この二人は妖精世界で何かしらの関わりがあったのだろう。

 ラビを見た瞬間驚いていたし……ラビは何でかは教えてくれなかったが、さっきも言ったように無理に聞くようなことはしない。ただやっぱり、隠し事されると複雑な気持ちになるよな。


 それは俺だけに言えたことではないが。


「過去を見るって、本当に?」

「ん。見てれば分かる。もしかしたら何かつかめるかも知れない」

「え、ええそうね……今更驚いた所で何だって話だものね」


 そんな訳でラビは、願いの木の時と同じように過去を見る場所を探す。ブラックリリーの言っていた発動痕跡がある場所……この町全体なので、何処で使っても行けそうな気はする。


「――パッセ」


 魔法のキーワードをラビが唱えると、その周辺が光りだす。願いの木を見た時と同じように、徐々に光は広がっていき一定の範囲を光らせた後、再び徐々に光が消えていく。

 そしてラビが触れていた場所だけ光が残り、しばらくしてからその光も消え去っていく。


「どうだった?」

「ええ。ブラックリリーの言った通り、ここで使われたのは転移系統の魔法。しかも……規模がちょっと違うわ」

「え?」


 ラビの話によれば、ここで使われた魔法は転移系統なのは間違いないとの事。

 ただ、ブラックリリーが使用しているテレポートよりも、規模が大きいものであるらしい。転移の魔法の規模っていうのは良く分からないな。空間歪めて別の場所に行くってだけじゃないのか?


「この規模は少なくとも町や県に転移するレベルのものではないわ」

「それってどういう?」

「言葉通りの意味ね。県とか町を移動するだけにこんな規模な魔法は使わない。別の国に行くとしても、大きすぎる」

「えっと、つまり……国移動で使うよりも規模が大きい? まさか……」

「あなたにも馴染みがあるはずよ」

「……反転世界?」 


 ラビは俺の言葉に静かにうなずく。

 世界規模の移動でも使わないならもうそれは、惑星間移動かもしくは別世界への移動レベルということになる。惑星間移動は置いとくとして、別世界への移動については心当たりがある。


 そう、反転世界に入るための魔法だ。

 あそこは発動者のいる世界を一時的に複製し、その中へ入り込むというもの。現実世界ではない別の世界……抜けるとすぐに消えてしまうとは言え、別世界なのは変わりがない。


 そうなると、クラゲの魔物が使ったのは反転世界に入る魔法? まだ確実とは言えないが、その可能性が高くなったか。


「ちょっとちょっと! 私にも分かるように説明して頂戴」

「ブラックリリー。もしかしたら場所が分かったかも知れない」

「へ?」

「まだ確実という訳じゃないけど……」


 ホワイトパールたちは、一瞬にして姿を消えたのを目撃している。

 魔法省の魔法少女たちは恐らく、反転世界という存在を知らない。魔法省にはラビのような妖精は居ないため、使えるとしても魔法自体を知らなければそれは意味がない。


 反転世界に入る魔法と世界を複製する魔法は二つで一つ。この魔法のキーワードを一回紡ぐだけで移動と複製を行う訳だ。わざわざ空間を作って閉じ込めたのも、魔法の範囲外に逃さないためだと思う。


 そういう判断ができる……どうやらクラゲの魔物は思ったよりも知能が高そうだ。


「反転世界?」

「ん。やっぱり知らない?」

「え、ええ知らないわね。ララは知ってた?」

「ボクかい? 一応知ってたよ」

「何で教えてくれなかったのよ!」

「だって教えた所でブラックリリーは魔力量が少ない。下手したら移動中に魔力切れを起こしてしまうかも知れないだろう?」

「そ、それはそうだけど……」


 反転世界の魔法は自分の周辺をコピーして複製する。オープンワールドゲームのように、進むにつれて生成されていくようで、その場合は魔力が追加で消費されて行くのだ。これはもう知ってると思う。


 魔法を発動した時だって、一応範囲は狭いものの世界をコピーするわけなので魔力も消費する。俺にとっては全然、消費したという感じがしなかったがそれは俺の魔力量が異常だから。

 普通の魔法少女が使った場合は不明である。そもそも、反転世界なんて存在を他の魔法少女は知らない訳だからな。もしかすると知ってる人も居るかも知れないが、とにかく知らない方が多いとは思う。


「リュネール・エトワールとラビは行けるのね?」

「ん。何度も行ってるから」

「そうね。この子の魔力は異常だから」

「それは知ってるわ。散々思い知らされたわ」


 何処か呆れ顔で言うブラックリリー。解せぬ。


「私の魔力量ではきついかしら? 反転世界は」

「それは分からない。ラビ」

「そうね……多分大丈夫かもしれないけれど、確証はできないわ。反転世界に移動した後に魔力切れを起こして倒れる可能性も否定できない」

「ちょっと待って」

「ララ?」

「反転世界の魔法は確か、個人ごとに別のはずだよね? クラゲもどきの魔物が使ったってことは、それはあの魔物の反転世界。こちらから入れないのでは?」


 そう言えばそうだった。

 発動者ごとに別の世界が作られるって言ってた。あ、でもそれだけしか聞いてないよな? 他の人の反転世界に入れないともラビは言ってなかったような。


「でも、クラゲもどきの魔物は魔法少女たちを連れて反転世界に入ったって事でもあるわよね。何か矛盾してない?」


 そう疑問にを口に出すのはブラックリリー。


「別に他人の世界に入れないとは言ってないわよ」

「へ?」

「他人の世界に干渉できる魔法はあるわ。ただ……問題なのは普通に反転世界に行くよりも魔力が激しく消耗するって所ね。まあ、個人空間のような場所に無理やり入るような魔法だから当たり前なんだけど。最も、これを見つけたのも割と最近なんだけどね」

「あー妖精アルシーヴ・書庫フェリーク

「ええ。そこで知ったわ」


「また話に追いつけないんだけど」

「ごめん、ブラックリリー。もしかしたら行けるかも」

「ララ?」

「ラビリ……ラビが言ってるからね」

「そうなの?」


 ラビリアって今言いかけたよね?

 まあ、突っ込むのは無粋なので辞めておくが。


 何はともあれ、もしかすると魔法少女たちをを助けられるかも知れない。まだ分からないが、何か可能性があるなら動くべきだ。あまり時間をかけたくないというのもあるが、焦っても良い結果は得られないだろう。


 ホワイトリリー、ブルーサファイア……頼むから無事で居てくれよな。




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