Act.23:災厄の大晦日⑤
「さて、あの魔物をどうするのかしら?」
「え?」
「え?」
なんかやる気満々なブラックリリーを見て、つい。
「ブラックリリーも戦うの?」
「駄目かしら? さっきやられそうになってたし」
「う……」
「冗談よ。とにかく、今のあなたはちょっと心配だから加勢させてもらうわよ」
「分かった。……ありがとう」
「! ふ、ふん」
「おやおや……」
何かおかしかっただろうか? それよりも、あの魔物だな。サンフレアキャノンなら大ダメージを与えられているような気がするから、繰り返して使うのが良いかな?
いやむしろ、ブラックリリーの空間斬りでやってもらったほうが早いか?
「あいつ、硬いしブレスの間隔も短い。ブラックリリー、スペースカットは使える?」
「え? ええ、一応魔力は残っているわよ。一回は大丈夫だけど、二回目は怪しいって所ね」
空間ごと斬ってしまえば、流石にあの魔物も一溜まりもないと思いたいが、相手は未知の脅威度Sの魔物だ。そんなに上手く行けるだろうか。
もしかしたら、ブラックリリーに被害が出てしまうかも知れない。やっぱり俺がやるべきか? 使える手はまだまだあるが、長引かせると長引かせた分、地上に被害が出るよなぁ。
そもそも俺だって、最初から強力な魔法を使ってないから何言ってんだって話か。一応攻撃を吸収してしまうような魔物とかに警戒した上での判断だけどな。しかも今回は未知のSだし、怖いだろ?
「えい!」
「いたっ!? 何するの!?」
そんな事考えていると、ブラックリリーにデコピンを食らってしまった。地味にそれ痛いんだから辞めてくれ……。
「また考えてるじゃないの。さっきもそうだったけど、本当にどうしたのよ?」
「……」
確かに。
今日の俺は無駄に考えすぎている気がする。しかも、戦闘中にだ。俺は一体何をしているんだ? 何でここまで……駄目だな、何か弱気になってる気がする。
「はあ。何な悩み事でもあるのかしら? つい最近、私を助けてくれたリュネール・エトワールはどうしたのよ」
「それは……」
「いえ。良いわ。私たちはまだそんな仲じゃないものね……むしろ敵対関係だった訳だし」
「無理に聞くつもりは無いけど、それは今考えることかい?」
「そう、だね」
ララ……黒い兎のぬいぐるみにも、そう言われてはっとする。
そうだよ、今考えるようなことではない。ブラックリリーだって野良だが魔法少女だ。そして魔物とも戦っている……危険を承知の上なはずだ。俺はそんなに気にする必要はないはずだ。
守りたいとか言っておいて、俺が守られてどうするんだって話だ。
今は今……あのティラノサウルスもどきの始末が先。俺は自分自身に強く言い聞かせる。
ホワイトリリーとブルーサファイアについてもそうだ。彼女らは魔法少女として、戦う覚悟があるに決まっている。魔法省に所属して魔物と戦う……強制でもなく、意思が尊重されているんだ。
それを知ってなお、戦うと決めたのは彼女たちだ。俺が心配するのはお問違いであるだろう! まずは、自分自身を守れ。魔力装甲があるとは言え、ブラックリリーに助けられた。何やってんだよ、俺は!
「ありがとう」
「どうやら大丈夫そうだね。それでどうするんだい?」
「ん。ブラックリリーのスペースカットを試して欲しい」
「分かったわ」
別に長引かせるつもりはないのだ。相手の特性とかそういうのを把握してから本格的に攻撃をしたいだけで、長引かせたいとは思ってない。長引かせればその分、さっきも言ったが被害が広がる。
だからこそ、理想は速攻で倒すこと。だけど開幕、相手の力量を確認せず、強力な魔法を使った場合……弱い魔物なら大丈夫だが、今回のような脅威度の高い魔物だと、何か特殊な能力を持っていてもおかしくはない。
以前にも言ったように、攻撃というか魔法を吸収してそれを反射する力を持っていたらどうだ? 開幕大ダメージの魔法を使用した場合、それが跳ね返ってくる。
回避できるなら良いが、そもそもそんな力持っているかわからない状態での攻撃だ。避けれる可能性は低いと言えるだろう。そうすると自分ではなった強い魔法が自分に返ってきてしまう。
他にも色々と考えられることは多く、そんな開幕ホイホイ大魔法を使うのはちょっと怖い。
それ言ったら今、ブラックリリーに言ったこと……スペースカットは大魔法じゃないのかって話になるが、あのティラノサウルスもどきとは、俺が戦っていた。奴に反射能力はなく、こっちにリスクが有るような物もないと判断。
ただ、妙に素早いし短い間隔で強力なブレスも放ってくるのは厄介か。
因みに、火と水以外にもう一つ、あいつのブレスがあった。なんて言えば良いのかな? こう、口から土のようなものを放ってくる……うーん、一応土ブレスって言えば良いか?
土ブレスとかまた新しいなと思いつつ、取り敢えずあいつは三つのブレスが使えるのは分かってる。当然、身体も硬く簡単な魔法では大打撃は与えられないのも分かる。
耐性についてはサンフレアキャノンを使っても生き延びているし、多分ある。恐らくは水と土? にも耐性があると俺は思ってる。まあ、どっちも俺は使えない魔法なので関係ないか。
「あれを斬れば良いのね?」
「うん、お願いする。魔力が危なかったらまた譲渡する」
「ええ、その時は頼んだわ」
ブラックリリーのスペースカットと言う魔法。名前の通り、空間を切断するとんでも魔法だが、彼女自身の魔力が少ないのもあってそんなに連続しては使えず、満タンな状態で二回だけ使っただけで空に近い状態になってしまう。これは結構致命的なデメリットだ。
魔力が無くなれば戦闘継続も難しくなるし、最悪の場合は変身が解除されてしまうだろう。そんな状態で魔物の攻撃をまともに食らったら、まず無事では済まない。
現状俺の最強? の魔法であるサンフレアキャノンでも倒しきれない相手だ。いや、そもそもは今まで一発で倒せていた事自体がおかしいのだろう。そのせいでちょっと間隔も狂っている気はする。
グラビティボールや、ブラックホールっていう未だに実践では使ってない魔法もあるけどな。これらの魔法の一番の懸念はその影響力の高さ。
ブラックホールは周囲の重力場を著しく乱し、ありとあらゆる物を吸い込んでしまう魔法だ。多分、実践で使ってないのを入れてもこの魔法が一番強く、そして危険だと思ってる。
グラビティボールについても、ブラックホール程ではないが着弾場所周辺に少なくない影響を及ぼす。これも重力と関係しているようで、吸い込みはしないけど影響を受けた物が、あらぬ方向に曲がったりとかそんな事が起きる。
「ただこの距離じゃ流石に使えないわね。意外とこの魔法って射程が短いのよね」
「そうなの?」
「ええ。取り敢えず、近付きましょう」
「分かった。最後まで守るね」
「べ、別に守って欲しいなんて……」
「ブラックリリー、素直になりなよ」
「ララは黙らっしゃい!」
コントかな?
いやそんな事言ったら失礼か……でも、何だか俺とラビみたいだな、互いを信用していると言うか、仲が良いのは何となく分かる。ラビに似た容姿でもあるし、妖精なのだろうか。
ラビが反応していたし、妖精だろうなあ。
「念の為、今も魔力譲渡しておく」
「へ……きゃっ!?」
大丈夫とは言えども、俺を助けるためにテレポートを使ってたし、ここに来るまでの間にもしかしたら魔物と戦っていたかも知れない。なので、念の為、力を譲渡したのだがブラックリリーはビクッと肩を跳ね上がらせる。
「ちょっと、いきなり何をするのよ!」
「ごめん。でも一応、今も譲渡した方が良いかなって」
「はあ……それは助かるけれど、せめてひと声かけて」
「かけたよ?」
「いや君、かけると同時にやったよね?」
「?」
「……まあ良いわ」
何か微妙な顔されたけど、良いか。
俺とブラックリリーは気を取り直し、ティラノサウルスもどきの魔物へと近付く。途中でばれるのも面倒なので、ハイドによって姿を消す。
そしてブラックリリーがここで良いと言った距離まで近づいた所で、一旦止まる。割と近いが、魔法の効果なのかこっちには気付いて内ように見えるが、こっちに何度か目を向けてくるんだよな。
魔力の反応でも感じたか? 取り敢えず、今の所は問題ないな。
「よろしく」
「ええ任せなさい。――スペースカット」
ブラックリリーがティラノサウルスもどきに狙いを定め、ステッキを大きく上に振り上げる。魔法のキーワードを紡ぐのと同時に、高く上げたステッキを振り下ろす。
刹那。
ティラノサウルスもどきの居た空間が、真っ二つに割れるのだった。
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