Act.22:災厄の大晦日④


「っ!」


 このティラノサウルスもどきの魔物、今までと比べてやっぱり強いな。まず、ブレスの間隔が早いし、何よりあの巨体で結構な速度で突進もしてくる。

 突進してきたかと思ったら、鋭い爪で俺をひっかこうとしてきたが、それは何とか回避。ただその次にまだ炎のブレスを放ってきたものだから、かすったというか被弾した。


 魔力装甲もあるので、そこまでではないがそれでも衝撃のようなものは来る。流石は脅威度Sの魔物と言うべきか、真面目に強いな。徐々に威力の高い魔法を使ってたりしてるのだが、ダメージは与えられてるけど大きな打撃では無さそうだ。


「サンフレアキャノン!」


 ステッキを魔物に向け、魔法のキーワードを紡ぐ。

 魔法陣が現れ、そして極太の赤い熱線が放たれ、まっすぐティラノサウルスもどきへ飛んでいく。危ないと直感で感じたのか、回避行動をしようとするが、こっちのほうが早い。着弾と同時に燃え上がる。


 太陽系の恒星、太陽の熱……耐えられるか? いやでも、こいつ炎のブレスを使ってるし、耐性はありそうか? あのゴジラもどきの魔物と同じで。


 炎が消えると、本来なら消滅してしまうはずなのだがやはりというか何というか、ティラノサウルスもどきの魔物はそこに立っていた。ただし、身体には大きな火傷痕が複数付いているため、結構なダメージは与えられたっぽい。


「硬い」

「そうね……流石はSなだけあるわ。リュネール・エトワールは大丈夫?」

「ん」


 一応大丈夫ではある。身体は別に魔力装甲のお陰で異常はない。


「それなら良いけれど」


 少しラビは心配し過ぎだと思う。

 いやまあ、そんな行動をしたのは俺なんだけどな……まだぐちゃぐちゃではあるけれど、大分落ち着いてきている。戦闘には支障がないから取り敢えず大丈夫だ。


「####!#$%%$」


 大ダメージを受けたであろう、ティラノサウルスもどきは大きな声で吠える。距離は少し取ってあるものの、この距離で聞くと耳の鼓膜が破れそうだ。

 ティラノサウルスもどきの魔物が強いのは分かった。だが、もう片方……クラゲの方はどうなんだろうか。あっちも一応Sとなっているし、空も飛べるからこの魔物よりは強いのかな?


 今までの魔物と比べても明らかに戦闘力の高い魔物。向こうも俺の威力に警戒しだしたのか、いきなりブレスや突進等はしてこなくなり、こちらを睨んでくる。


 俺も負けじと、そいつを睨みながら牽制する。そんな中、俺はふと思う。


 ……ホワイトリリーやブルーサファイアは無事だろうか。

 大丈夫だとは思うが、やっぱり心配ではある。前にも言った通りこの茨城地域の魔法少女は30人。しかも、Sクラス魔法少女はホワイトリリーただ一人。他は皆A以下となっている感じだ。

 更に言えばそんなAクラスの魔法少女だって9人しか居ない。残り20人はB以下となっていて、明らかに戦力が足りてない。もともと、魔物の出現数が少ない地域だったので仕方がない、と言えれば良いんだがな。


 確かにこの地域で出現した魔物はB以下がほとんどで、Aは時々出る感じだった。だがしかし、最近になって魔物の数が増加……つい先日だって異常事態が発生していた。

 俺やブラックリリーが居なかったら、県南や県西地域は大きな被害が出ていたかも知れない。既に少しは出てしまっていたが、それでも何もしないでいたら大きな被害に繋がっていただろう。


 もう少し人手を増やすべきだとは思うが、まあ、突発的に誕生する以上、難しいのだろう。それに魔法少女に覚醒したとしても、魔法省に行くかは各自の意思によるしな。


 だからこそ、今回主力として対応しているであろうホワイトリリーが心配だ。ブルーサファイアももしかすると、駆り出されているかも知れない。魔法省も無茶振りはしないだろうが、それでもやっぱり不安だな。


 あれ?

 俺……こんなにあの子達を心配している? いや、心配自体はもう前からしているはずだ。でも、こんなに考えるようになったのはいつからだろうか。


 魔法少女を守りたい……確かにそんな事も思っていた。




 俺は……




 一体どうしたいんだ?





 ――分からない……だけど、リュネール・エトワールとして交流していく内に、確かに楽しいと思ったり、もう少し話をしたいと思ったりそんな風に思えるのが増えていた。


 それはもう自覚もしている。自分の中で何かが変わっていく……それは怖いとも思えるし、むしろこのまま変わってくれとも思ってしまっている。




 俺が、俺自身がわからない。






 俺はどうしたい? 俺は何をしたい? わたしは何を?







「リュネール・エトワール!」

「!?」


 ラビの焦燥しきった声にはっと我に返る。


 目の前にはさっきまで距離があったと思っていたティラノサウルスもどきの魔物。


 いつの間に!?


「”#$$#$$%!」


 まずい!


「スターバ……間に合わない!?」


 もうすぐそこまで迫ってきている、ティラノサウルスもどきの魔物の鋭く尖った大きな爪。回避は無理……バリアを張ろうと思ったがそれも間に合わない。


 これは……駄目だな。自分を守ってくれている魔力装甲に全てを託すことにする。俺は来るであろう衝撃に目を瞑り、備える。俺の膨大な魔力なら大丈夫だ、自分を信じろ。


 ふっ飛ばされるのは覚悟の上だけど、実際俺は攻撃をまともに喰らい、ふっ飛ばされたことがない。だからどんな感じなのか、分からない。痛いのだろうか? 衝撃は来るだろうけど……。


 ブラックリリーがふっ飛ばされていた時の事を思い出す。


 地面に叩きつけられ、地面をえぐりながら後方数十メートルくらい飛ばされていた。あの時のブラックリリーの姿は非常に痛々しかった。

 あれくらいは覚悟するべきか?


「……?」


 だけど、そんな事を考えているとふと気が付く。とっくに衝撃とかが来ても良いはずなのに、何もないのだ。魔力装甲が全てを吸収した? いやそれでも、衝撃は来るはずだ。


 違和感。

 それと、近くに別の人が居る気配。


 俺は、恐る恐る目を開くと、何故か空が見えた。え? 空が見えるのはおかしくないか? そんな事を思い始めると、自分自身の体勢にも違和感がある。

 背中には自分の物ではない、誰かの手の感触。


「はあ、危なかったわね」

「え?」


 聞き覚えのある声。


「まさに間一髪ってとこだね」


 今度は聞き覚えのない声。何処か中性的な印象を感じるようなその声。俺は慌てて、声のした方を向いてみる。すると、そこには黒い衣装を身にまとい、俺と似たような黒いとんがり帽子を被っている少女と、その少女の肩に乗っている黒い兎が見えた。


「ブラックリリー……?」

「ええそうよ。全く何をしているのよ……あなた結構危なかったわよ?」


 と言うか俺の今の体勢って……。


「ちょっと何顔を赤くしているのよ! こ、これはこうするしか無かったから仕方なかったの!」


 ……いやそういうブラックリリーも赤いんだが? いやこれは今はどうでも良いか。


 俺、人生はじめてお姫様抱っこなんて見たぞ。しかも俺はされる側かよ!? 普通はする側だろうが……いや、今の姿でそんなこと言ってもあれか。と言うか、これめっちゃ恥ずかしんだが?

 

「あーこら、暴れないでよ! 危ないでしょ」

「ご、ごめん」


 取り敢えず、恥ずかしいのでおろして欲しい。


「だ、大丈夫だから下ろして……」

「そ、それもそうね」


「お仲がよろしいことで」

「ララ!?」


 取り敢えず、近くの建物の屋根に下ろしてもらったのは良いが、今ブラックリリーはなんて言った? ララ? いやそれも気になるが、俺さっきまでティラノサウルスもどきの目の前に居たよな?


「あの脅威度Sの魔物ならあっちよ」


 ブラックリリーの指差す方角へ目を向けると、少し離れた場所にさっきの魔物が見えた。どうやら俺が突然消えたからか、周りを警戒している様子。


「ブラックリリーが助けてくれたの?」

「ええ。間に合って良かったわ。全く……戦闘中に考え事とは随分余裕で」

「う……ごめん。それとありがとう」

「まあ、あなたくらいの魔力があるなら攻撃受けても大丈夫な気はしてたけれど……言っておくけど、ふっ飛ばされると結構痛いわよ?」

「魔力装甲が攻撃を吸収してくれるとは言え、攻撃を受けたらその威力にもよるけど反動があるからね。痛みとかはかなり軽減されているはずだけど、それでも痛いものは痛いよ」


 ブラックリリーと、その肩に乗っているララと呼ばれた兎? が交互にそんな事を言ってくる。なるほど、痛みはあるのか……って納得している場合じゃなかった。


「えっと……」

「聞きたいことはいっぱいあるだろうけど、まずはあの魔物だね。あれを始末してから話そう。君のそのとんがり帽子の中にいる、ボクと同類もね?」

「!」


 帽子の中でラビが反応したのが分かる。


 同類……ということはあの黒いうさぎも、妖精ってことだろうか? いや、今は言われた通り魔物が先だ。俺は向こうにいるティラノサウルスもどきの魔物へ向き直るのだった。



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