Act.18:願いの木③
「じゃあ行くわよ」
「ん」
願いの木……高台にあった一本木の場所から家に戻り、自分の部屋にてラビと俺は対面していた。何をしているかと言えば、まあ、さっきの続きのようなものだ。
ラビが使ったあの魔法は過去を見れる魔法。願いの木の場所では二日前に発動したということが分かったが、そこまでだった。それに願いの木が発動した形跡があったからとは言えそれが俺をこの姿にした原因とも分かってない。
「それじゃ……パッセ」
ラビが俺の寝るのに使っているベッドに向けて、願いの木に使った魔法と同じものを発動させる。見るのは俺の身体が光ったとされる28日の深夜だ。
その時の光がもしかすると願いの木と関係があるかも知れない、と思い至ったラビが提案した。対象の過去を見る……それは別に生物や植物などにしか使えない訳ではなく、こういった家具とかにも使える。
それなら俺が寝ていたこのベッドなら当時の事が見れるのではないか? となった。ラビの魔法は発動すると、ベッドが光り始め、高台の一本木と同様数秒ほど光った所で、消えて行く。
最後の光が完全に消滅した所で、ラビはこちらに向き直る。
「どうだった?」
「ええ。見れたわよ……あなたが光ったあの時のこと」
「何か分かりそう?」
「そうね……光の元はやっぱり司ね」
「わたし?」
「他にもあの時の光……あれは魔力。しかも、ついさっき見たことのあるもの」
「え……それって」
まさか願いの木?
俺はそう思ったのに気付いたのか、ラビは静かに頷いてみせる。
「ええ、酷似しているし、ほぼ間違いないと言って良いと思うわ。あれは願いの木の魔力……高台の木の発動時に見えた光と一致しているわ。そしてほぼ同時刻に光っていた」
ほぼ同時刻に同じ魔力の光……ここまで来るともう否定できないな。
だが、どうしてだ? という疑問が大きく残る。何時俺は願いの木の魔力を体内に? それ以外にも、もしそれが本当だとすればこの姿になった原因は俺自身である可能性が極め高くなる。
真白が願った可能性? いや、真白は明らかに否定をしていた。今は離れては居るものの長年一緒に居た妹である。嘘ついているか付いていないかなんて分かる。
ならば第三者? ……しかし俺と関わりがある人なんて、そんなに居ない。ホワイトリリーやブルーサファイア、茜、他の魔法少女たちとの関わりは薄いながらあるが、誰がそんな事願うというのだろうか。
彼女たちは俺の本当の姿を知らない。そもそも俺は誰にも本当の正体を明かしていない。解除後の姿っていうのだって、あれはハーフモードだ。変身状態なのは変わりがない。
更に言えばあの姿を知っている魔法少女だってホワイトリリーとブルーサファイアの二人のみ。他には見せてない。偽りとは言え、女の子であるその姿に対してこの容姿になってほしいとか、願うだろうか。
消去法で行ったとしても自分自身が原因という結論に至る。
魔法少女リュネール・エトワールとして行動しているうちに、自身の変化にも気付いていた。可愛いものに目が行ったりとか、くまのぬいぐるみを取るのに必死になったりとか。
そう言えばあのくまのぬいぐるみ……まだ真白に渡せてないな。
一応あの三つのぬいぐるみはステッキ……デバイスの中に収納されている。あれさ、魔石だけかと思ったんだけど普通に他のものも入れられた事に今更気付いた。
ラビに聞いたら「普通にできるわよ」と返されてしまった。いや、そこは説明して欲しかったのだが……俺がそう言ったら「言ってなかったけ?」と言われる始末。
まあ、聞かなかった俺も悪いんだろうが……。
ともかく、あれはかなり便利だ。あの中に物を入れたら何も気にせずに移動できる……後、変身しなくてもデバイス状態で取り出しが可能って言うことも後から知った。
スマホ型デバイスの中にアプリとして入ってるんだもんな……魔法何でもありすぎる。
それはさておき、そんな便利な魔法のお陰でくまのぬいぐるみは無事である。折角取ったんだし、早いうちに渡しておきたいな。
「うーん、こうなるとやっぱり関係はありそうね。司、あなたに魔法を使っても良いかしら」
「え?」
「ベッドで過去は見れたけど、その魔力までは正確には確認できてないのよね。あくまで対象の過去だから、今回の場合はベッドの過去。ベッド自体にはそんな異変は起きてないわ」
「確かに……」
それもそうか。
なので、今度は俺に魔法を使おうとしているっぽい。この魔法の対象というのはほぼ全ての存在するもの……人間は勿論、動物や物などもそうだ。
だからこの魔法を人に使って人の過去を見ることも出来るらしい。もっとも、生きている生物に対して使う場合は物とかと比べて消費する魔力も増えるらしいが。
「分かった。使ってみて」
「ええ」
二日前に俺が起きたことを知るチャンスだ。
もし、これで本当に願いの木によるものだったら……つまりそれは、俺自信がこの姿を望んだということになる。俺自身が……。
「――パッセ」
ラビに触れられ、魔法が発動する。
俺の身体が光り始め、広がっていく。魔法を使われているという感覚……そして数秒ほど光った後、徐々に消えて行く。これはベッドや木の時と同じだ。
「ふう」
光が完全に収まった所で、俺から一歩くらい離れ、一息つく。見た感じでは、上手く見れたらしいな……。
「どうだった?」
「ええ……司。言いにくいんだけれど」
「?」
「願いの木が光った時との魔力と、あなたが光った時の魔力は同一のものだったわ」
「……」
ラビの答えに俺は言葉をつまらせる。
俺が……俺がこの姿を望んだ? わたし? 俺? あれどっちが本当の一人称だったっけ? あれ……わたしが望んだ姿? でも俺は願いの木に近づいた覚えはない……俺は……わたしは……。
「落ち着きなさい」
「!」
ラビに大声にわたし……いや俺ははっとした。どうやら凄い顔をしていたようで、ラビも慌てて止めてくれたようだ。でも、俺が望んだという事になるよな?
「願いの木は願った者の願いを叶える……これが発動したということはその姿を願ったのは司の可能性がかなり高くなったわ」
「わたしが……」
何時願ったのだろうか?
いや待て……思い出せ俺。
俺はリュネール・エトワールとして活動していた。その活動の中で、魔法省所属の魔法少女、ホワイトリリーとブルーサファイアに出会った。
他にも少し危ないと思った魔法少女たちに加勢もし俺は、いやリュネール・エトワールはその強力な魔法もあって話題を呼んだ。
ホワイトリリーたちとは本当の姿と出会った。俺自身は偽りではあったものの、一緒に居た時間は嫌なものではなかった。むしろ、楽しいとも思っていた気がする。
しまいには、何時からかはわからないが、可愛いものだとかファッションだとかそういう物にも興味が湧いてきていた。本来の俺であればそんなの気にしてなかった。しかも女性物のである。
「……わたしは」
そして思い出せ。
俺はこんな事を何回か思っていなかったか?
――リュネール・エトワールだったら良かったのに。
真白もそうだが、様々な交流をしている内に、偽りの姿しか見せてない俺自身に嫌気が差していた時もあったはずだ。魔法省が嫌いな訳ではなく、本来の姿が問題だったから、行きたくなかった。
本音を言えば、魔法省はどうなっているのか見てみたい気もあった。だけど、事情が事情であり、ホワイトリリーやブルーサファイア、他の魔法少女に茜に誘われても断っていた。
所属しなくても一度来て欲しい、お礼を言いたいと言われた際、俺はそれらをつっぱねている。
世間に男が魔法少女だと知られたら、どう見られるかも怖かったし……。
だからこそ、過ごしていく内にそんな事を思う時が度々あった。
「……」
「司?」
「ごめん、ラビ……ちょっと一人にして」
「司……ええ。分かったわ」
俺がそんな事を言ってもラビは何も文句を言わず、静かに部屋から出ていく。本当にラビで良かったって思う。
これは俺自身と向き合う必要があるだろう。
それでどういう結論に至っても……いや、まだそれは良い。俺自身の願い……納得と思う自分も居ればそんなのありえないと思う俺も居る。
今は……一人が良い。
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