Act.11:シスター✕クリスマス①


「ただいま」

「お帰り、お兄!」


 蒼とのデートと言えば良いのかな? を終えた俺は、自宅へ帰宅していた。蒼の母には送っていきましょうか。と言われたが水戸駅で良いとやんわり断った。


 流石に家までバレてしまうのはよろしくない。


「待った?」

「ううん! それで、もう出発するの?」

「ん。ちょっとまってて」

「了解!」


 という訳で俺は自分の部屋へ、一度入る。部屋に入った所で、ラビを机の上に置きそして解除のキーワードを唱えれば、瞬時に纏っていた魔力装甲が消え、元の姿へと戻って行く。


「ふう。流石にあの姿じゃ運転はできねえしな」


 いや、するつもりもないけど。


「お疲れ様。これで、ブルーサファイアともデートしたわね……罪な男ねえ」

「ラビ……いや、あの子たちが好きになったのはあくまで、リュネール・エトワールだからなあ」

「そうね。仮にこっちの姿だったら犯罪よ」

「そうなんだよなあ」


 答えはもう決まっているが、こちらから言うのはおかしいし、やはり待つしか無いな。


「いっそのこと、リュネール・エトワールは本当の姿だったら悩まずに済んだか?」

「あら、そんな事言うなんて珍しいわね」

「いや、仮にそうだったら、どうだったんだろうなって」


 前にも言った通り、平行世界っていうものがある訳だし、そんな世界もあるのかもしれない。とは言え、平行世界っていうは本当に存在するなんて根拠は無いが。仮説と言えば良いか。

 まあ、ラビの言う妖精世界や魔物の居る謎の世界なんて物がある訳だし、今更平行世界があると言われても驚かないとは思うけどな。


「さてと、着替えるか」


 変身すれば衣装が変わるので、ぶっちゃけ変身前の俺はいつも着ている服である。何も珍しくもない、白いTシャツにジーンズ、上には白と黒のチェック柄のパーカーに、外で出る時は季節にもよるが今だと黒いジャンパーだな。


 簡単に準備を終えた所で、俺はスマホ型の変身デバイスと車のキーと財布を手に取り、部屋を後にする。


「またせたな」

「ううん! 全然」


 リビングへ降りると、真白はもう準備万端な状態で待機していて、少し待たせたかなと思ったが気にしてない様子だった。


「忘れ物とかはないか?」

「うん、大丈夫!」

「じゃあ行くか」


 時刻は午後13時頃。

 俺も真白も、お昼はまだ食べてないので、何処かで食べようかと考えていたのだが……。


「なあ、真白もお昼まだ食ってないよな? 何食べたい?」

「そう言えばお腹すいたかも。うーん、何でも良いよ、お兄が連れてってくれる場所なら」

「それなら適当な場所にするか」


 適当って言っても、決まっているけどな。

 やっぱり、あのファミレスが一番だろう。安いし美味しいからな。それに家からもそれなりに近いしな。なるべく早い方が良いだろうし。


 という訳で俺たちはまずは、お昼を食べる為に某有名なファミレスへと向かうのだった。




「いらっしゃいませ~お二人様ですか? 席へご案内致します」


 入店すると早速店員さんに声をかけられ、席へと案内される。案内に従ってテーブルへと向かい、正面で向き合う形で席につく。


「お兄、ここ好きだよね」

「そうか?」

「うん。昔も良くここに来てたじゃない?」

「そう言えばそうだな……まあ、良いじゃないか。ここは安いし美味しいんだから」

「まあね」


 昔、両親がまだ居る時もここに来たいと言ったような気がする。何でだろうな? ここ勿論料理も美味しいけど、何ていうか居心地も良いんだよな。俺だけかもしれないが。


「そう言えばお兄、午前中は確か同じ魔法少女の子と出かけたんだっけ?」

「ん? まあな……」

「事情とかは聞いてるけど、やっぱりお兄は変わってないね」

「やっぱそう思うか?」

「うん。誰にでも優しすぎるって所……まあ、そこがお兄の良い所でもあるんだけどね」


 真白にはぶっちゃけ、本当のことを言っている。どうせ、いつかばれるだろうし、それならもう最初から説明しておいて相談に乗ってもらったほうが良いと思っただけなんだがな。


「私の見立てはもう完全に、お兄にメロメロねその二人は」

「う……まあ、気付いては居たんだがな」


 まあ、正確にはラビが気づかせてくれたのだが。


「とにかく、ちゃんと答えてあげないと駄目だよ、お兄」

「ああ、分かってるさ」

「私の事も惚れさせて、本当に罪なお兄だよ」

「うぐ」

「ふふ、ごめん」

「いや良い……本当の事だしな」


 俺だって馬鹿じゃない。

 真白にも、雪菜にも蒼にも俺を好きにさせてしまった責任はあるのだ。濁すのは駄目だ、ちゃんと答えるのが道理だろう。


「だから言ったじゃない、その調子だとこの先苦労するって」

「ああ、本当にな。真白の言う通りだ。でも大丈夫……答えはもう出ている」

「本当にそれで良いの?」

「?」


 真白がそんなことを聞いてくる。

 この答えであっているはずだ……だって向こうの姿は偽物で本当の俺の姿ではない。演技もしているし、偽ってるだけ。いや、違うな……俺が俺である事がバレるのが怖いだけだ。


 もし本当の姿を見せたら、あの二人は幻滅するだろうか。気持ち悪いとか思うだろうか……そういう不安もあるんだよな。関係を壊すのはもっと嫌だ。


 ……あれ?


 関係を壊したくない……何て俺はいつから思っていた? 最初は本当に自分の好きで魔法少女になった。ラビは強制的にしようとはしてきてない。最終的には俺の判断だ。

 全部は無理でもせめて、茨城地域の魔法少女たちの負担が減れば良いなと思って行動していた。


 いつからだろうか?

 最初は会話なんて全くせず、その場からそそくさに去っていた。だけど、最近はどうだろうか……いくらでも逃げようとすれば逃げられたのに、ついつい話をしてるように思える。


「お兄?」

「……」


 そう言えば他の魔法少女とも割と遭遇しては、最低限話すようになった気がする。どういう心変わりが俺に起きたのだろうか。考えても分からないか。


「お兄!」

「!! な、何だ」

「どうしたの、ボーッとして。具合悪い?」


 知らぬ内に俺は考え込んでいたようだ。真白がこちらを心配した顔で見ていた。


「大丈夫だ。ごめん」

「ううん。何でも無いならそれで良いんだ……どうしたのお兄、そんな考え込んじゃって」

「ああ、ちょっとな……」


 俺にも分からない。

 とにかく、考えた所で何が変わるわけでもないので、俺はメニューを開いて料理を探す。俺の食べる物は大体決まっているので、そのページを開き紙に料理の番号を書く。

 何か、最近注文方法が変わったんだよな。いや、ブザーを押して店員を呼ぶのは一緒なのだが、直接店員に料理を伝えるのではなく、テーブルに置いてある紙にメニューに載ってる料理の番号と、その数を書いて渡すようになってる。


 俺が頼むのは前にも頼んだであろう、ペペロンチーノとドリンクバーである。やっぱり、ペペロンチーノは良いよな。ただそのまま出てくるやつだと、物足りなさがあるから追加で唐辛子フレークをかけて食べるんだが。


「相変わらずお兄は、ペペロンチーノ好きだねー」

「ああ。好物だしな」


 というより、パスタ全般が好きである。ペペロンチーノではなく、ミートスパゲティも好きだぞ。


「真白はどうするんだ?」

「うーん、ちょっと考え中、ごめんねお兄」

「気にするな。ゆっくり選んでていいぞ」

「ありがとう、お兄」


 そんな真白と横目に、俺は天井を見上げる。

 そう言えば、もう今年も終わりなんだなーと思い始める。今年は結構色々あったな。今年は今年だけど、厳密に言えば9月からだけども。


 ラビが現れて魔法少女になって、魔物を倒し始めて……それにしても、男である俺が魔法少女ってやっぱり可笑しいよなあ。そもそも何故変身できるんだ……いやまあ魔法少女だからと言われたら、そうとしか言えないのだが。


 でもさ? 考えて欲しい。

 俺以外の魔法少女は、完全に女の子だぜ? いや、全員の変身前の姿を見た訳ではないが、仕草とか言動とかで分かる。俺みたいに男で魔法少女になり、演技している可能性も無くはないが。


 俺みたいな例が他に居るのだろうか。居たら居たらでそれは……何というか、同じ男として頑張れとしか言えないな。


 よし! と、気持ちを切り替える。

 色々と問題はあるけど、それでも守れる力があるというのは良い事だと思おう。性別変わるのは、もうそういう仕様ってことで今更気にする必要もない。


「お兄、決めたよー!」

「じゃあ、頼むか」

「うん!」




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