Act.10:それは一冬の出来事
時刻は午前9時頃。
俺は、ハーフモードにて水戸駅の北口のロータリーに待機していた。バスや一般自動車とかが結構見える。特の目の前の交差点は、通勤時間や退勤時間になると非常に混雑する。今の時間帯は普通だが。
待ち合わせの時間は9時半だったのだが、ちょっと早く来てしまったようだ。ブルーサファイア……蒼の姿はまだ見えない。
何でも、車で行くらしいのだ。え? 俺の車? 違うぞ、蒼の親の車らしい。何処へ行くかまではまだ聞いてない。昨日の時点では決まってなかったようだが……。
「あ! もしかしてあなたが司ちゃん?」
しばらく待っていると、聞き慣れない女性の声が聞こえる。目を向けるとそこには、こちらに手を振っている女性と、その後ろにこちらをこっそり? 見ている見慣れた少女、蒼が居た。
どうやら、この女性は蒼の母親みたいだ。蒼をそのまま大人にしたかのように、そっくりであった。見た感じからすると、結構若く見える……。
「うん。そう」
「そっか! おまたせ。娘から話は聞いてるわ! ささ、乗って乗って」
「ん」
促されるまま、俺は車の後ろ座席に乗り込む。すぐ隣には蒼が乗り、シートベルトをした所で、車が発車する。
「おはよう、司」
「ん。おはよう」
「今日はありがとね……」
「気にしないで」
若干顔が赤い蒼は俺にそう言ってくる。別にお礼を言われる程ではないさ……誘ったのは蒼だが、約束したのは俺だしな。
「大丈夫? 顔赤いけど」
「だ、大丈夫、だよ?」
「何故疑問形?」
「うっ」
何か蒼のママ上が、こちらを見てニヤニヤしているのは気の所為だろうか。うん、気の所為にしておこう。取り敢えず、蒼を落ち着かせる為に背中を擦ってあげる。こうすると良いって何かで聞いた気がする。
「落ち着いた?」
「うん……ありがと」
それなら良かった。
さて、俺達は今何処に向かっているのだろうか? 行き先は聞いてないんだよな……。
「何処向かってるの?」
「ちょっとした場所だよ」
「ちょっとした?」
「うん」
これ以上は教えてくれ無さそうだ。
正直に言うと、俺の暮らしている場所は県北だからこっち方面のスポットとかには弱いんだよな。因みに、俺が一番知っている所は茨城でも有名な国営の海浜公園……そう、ひたち海浜公園である。
あそこは海も近いし、良い所だぞ。中に入れば観覧車は勿論、ジェットコースターなどなど盛りだくさんだ。花も綺麗だし、サイクリングコースもある。
まあ……一人で行ったことがある程度なのだが。
「着いたわよ~」
そんな事考えてると、どうやら目的地に着いたみたいだ。思ったより近くだったみたいで、俺たちはそのまま車から降りる。車から出れば、もう12月の後半であるため寒さが肌を突き刺す。
と言っても、俺の場合は魔力によって服を作っているので薄着でも少し寒いくらいなのだが、流石に可笑しいと思われるのもあれなので、真白の絵を使って服も冬着にしてきた。
あまり女性のコーデとか知らないから、何て言えば良いか分からない。取り敢えず、上は無難な白色の長袖ワンピースに、その上から灰色のジャケットを着ている。このジャケットが結構もこもこしてるんだよな。
で、何故か星や月のデザインがあしらわれている。そこまで派手という訳でもないけど……まあ、星とか月は俺も結構好きだから良いんだけどな。実際、俺の財布はシンプルだけど星とかの模様が入ってるし。
「うわあ……」
案内というか、後をついていくと湖のような所に出たのだが、その光景を見た俺は自然と口から声が漏れていた。湖にはたくさんの白鳥が居たのだ。何処と無く楽しそうに見える。
「ふふ、驚いた? 蒼が一晩悩んで選んだ場所なのよね」
「ちょっと、ママ!」
「ふふ! まあ、後は二人で行ってらっしゃいな。私は近くで待ってるわ」
そんな事を言って去っていく、蒼のママ上様。そんなママ上の言葉に、顔を赤くして声を上げる蒼は素直に可愛らしいと思った。
「ここって……」
そんなママ上が居なくなり、二人だけが取り残される。正確には遠くを見れば家族と一緒に遊びに来ている子たちや、恋人らしき人たちが仲良く歩いていたりしているのだが、この辺りは俺と蒼しか居ないようだった。
「うん。司も知ってるよね? 結構有名な場所だし」
「ん。千波湖」
「そう。昨日、あの後何処に行こうか考えたんだけど……ここが良いかなって思ったんだ。季節も丁度良かったしね」
千波湖。
水戸市にある、有名な観光スポットだ。いや、有名といえばすぐ近くに偕楽園があるが、それは置いとくとして、ここも結構有名だと思う。
なるほど、良い場所を選んだな蒼。
「あ……」
「ごめん。嫌だった?」
「ううん……もっとして良いよ」
「そう?」
ついつい蒼の頭を撫でてしまう。慌てて手を離すが、蒼は別に嫌じゃないらしい。それどころか、もっとして欲しいとねだってきたのである。
……うん、分かってるさ。蒼が俺……いや、リュネール・エトワールが好きだって言うことはな。
――うん。そんな調子だと、これから先苦労するかもよ、ニシシ!
ふと、昔真白が俺に言ってきた言葉が蘇る。確か俺が優しすぎるとか……その調子だとこれから先苦労するだろうって言われたな。今なら実感できる……でも本当に俺はそんなつもりは……これじゃただの言い訳か。
「本当は、夜に来たかったんだけど……司の都合が悪そうだったから」
「ん。それはごめん」
「ううん! 私の方も急に誘ったりしてごめんね」
「問題ない」
「ありがと。……司は優しいね」
「そう?」
「うん。あまり優しすぎると、これから先結構大変になるかもよ?」
「……」
「っふふ! ごめん」
まさか、真白と同じような事を言われるとは。
「それじゃ、あまり時間もないし、行こ!」
「ん」
俺はそんな蒼に手を引かれて行くのだった。
ど、どうしよう!?
勢い余って司の手を引いちゃったけど、嫌われてないよね?
昨日、私は思い切って司を誘った。途中、私の憧れでもあるホワイトリリーこと、白百合先輩ともちょっとあったけど、先輩のほうが引いてくれたのだ。
……きっと、先輩も司のことが好きなんだろと私でも察せられる。だって、司と会話している先輩は本当に楽しそうだったから。前は、結構距離感があったんだけど、今はあの時の距離感は何処に行ったのかといった感じになった。
何が先輩を変えたのかな? と思ったことも結構あった。変えた人は恐らく、目の前のこの子、リュネール・エトワールこと司なんだろうなって。
私も最初は何も思わなかった。だけど、私も司のことが好きになってしまった……同性なのに可笑しいよね。でも、ママに相談したらそんなこと無いって言ってくれたから、自分の気持ちを認められた。
先輩も同じように司を好きになっていたし、可笑しいことではないんだって思えるようになってた。
でも……先輩とは言え、憧れてる人とは言え、負けたくはない。
「ん? どうかした?」
そんな事を考えていると、司が心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。うん、その顔は反則だからやめよう。
「な、何でも無い! ねね、あれ乗ろう!」
「ん? 貸しボート?」
「そう!」
「いいよ」
っ! だからその笑顔は反則だって!?
何か調子狂っちゃうなあ……好きになるってこういう事なんだろうか? 分からないけど、これは私の初恋……例え叶わないとしても、最後まで諦めたくない。
「?」
「う、ううん。何でも無い。行こう」
「ん」
……好きな人。
私の好きな人は司……うん、それはもう理解できた。でもやっぱり、まだ告白とかする勇気もない。それに、今更だけど私はまだ彼女のことをそこまで知ってる訳じゃない。
だからいつか……この気持ちを口に出せたら。
例え振られても……それでもこの初恋の気持ちは忘れることはないと思う。だから……もう少しだけ時間を下さい。でも、のんびりしてたら先輩に先を越されるかもしれない。
いや、何を言ってるのよ蒼。さっき諦めたくないって言ったでしょ! 今は無理でも、いつか告白できれば良いなと思ったのだった。
これ以上考えると、私自身おかしくなりそうなので、気持ちを切り替え、私はそそくさに貸しボートの乗れる場所へ、司と一緒に向かうのだった。
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