Act.04:それはある日常風景の一つ②
すっかり12月に入り、世間一般ではクリスマスムードに包まれているこの時期。私は相変わらず、魔法省の執務室に座っていた。
魔法省内部も、徐々にクリスマスムードに飲み込まれつつあるわね。毎年恒例のパーティーもあるから仕方が無いんだけれど。
「AAの魔物が出るとはねー」
ここ最近、今までで観測されたのでも最高はAの魔物だったが今回は突然AAの魔物が観測されたのだ。報告によると、その魔物は大きな蝶のような見た目をしており、空を飛んでいたという事だ。
手元にある画像を見て確かにこれは蝶ね、と思ったけど、流石に大きすぎてむしろ気持ち悪とも思ってしまったわね。ただそれは他の魔法少女たちもおおよそそんな反応をしていたらしい。
ホワイトリリー含み、Aクラスの魔法少女たちが全員駆け付けられたので、苦戦無く討伐はできたみたいで安心したわ。今回はリュネール・エトワールは見かけなかったみたいね。
「まあ、何処かで隠れて見ていたかもしれないけれどね」
聞いた感じのリュネール・エトワールの人柄からして、何処かでこっそり様子を見ていたと思う。他に魔物は居なかったしね……いつも誰よりも早く駆けつける彼女が気付かないはずもないだろうし。
それにしても、結局会うことのないまま12月になってしまったわね。この調子だと、今年はもう会えなさそうかしら? でもまあ、他の魔法少女……まあ一部だけど、お礼も言えたらしいからどっちかと言うと良いのかな。
個人的にお礼を言いたいと言いつつ、全然言えてないからなあ……魔法省を嫌ってるかどうかはさておき、何処かで会えないかと思いつつ結局は成果なしね。
「はぁ」
まあそれは良いわ。
何処で会えたら良いなっていう感覚で居るしか無いわね。リュネール・エトワールの目撃範囲は広いし……取り敢えず今日は帰りましょ。
すっかり日が暮れ、私は着替えをしてから帰路につく。魔法省の茨城支部があるのはこの水戸駅の近くだ。流石は県庁所在地の駅というべきか、周辺は結構ビルがある。
東京の都会と比べたらちっぽけなものかもしれないけど、個人的にここは好きかな。家があるっていうもそうだけど、やっぱり人が多すぎるのも何かあれだしね。
魔法省の建物を後にすると、仕事終わりの人とか学校帰り? のような子たちが歩道橋や歩道を談笑しながら歩いている光景が映る。
駅も近いという事もあるから、この時間帯は結構賑やかだったりする。いつもの見慣れた光景ではあるけど、こういう普通っていうのは大事よね。
魔物は依然と出現はするけど、何とか処理はできている。と言っても私自身は全然何も出来てない。魔物と戦うのは、10代の女の子たちなのだ。あまり気が進まないけど、仕方がないのかな。
「魔物、ね」
15年前に突然現れた謎の生命体。その姿形は様々なものであり、虫だったり動物だったりとかだ。ただし、今まででは人型のようなものは確認されていない。
脅威度がそれぞれ振られていて、一番危険なのがSSだ。これは魔物出現の日に現れた魔物がこれに当て嵌まる。一つの国を半壊にまで追いやった魔物だ。
その姿はファンタジーとかでよく描かれている、ドラゴンのような容姿をした魔物であり、口から火を吹いたりもしていたとされる。
他にも氷のブレスのようなものまで放てていて、複数の属性を持っている魔物だった。兵器は全く意味を成さず、それは今の現代兵器でも同じ事が言える。
その時に現れたのが原初の魔法少女と言われる7人の魔法少女たちだ。彼女らがその強力な力を使って魔物を倒してくれたお陰で、その国は半壊で済んだのだ。
半壊というのは確かにかなりの被害だろうけど、彼女たちが居なければ全壊していただろう。そこだけには留まらず、他の国も追いやられていたと考えられてる。
原初の魔法少女は今何処で何をしているのか……それは私でも分からない。既に亡くなっている可能性もあるし、何処か平和に暮らしているかもしれない。
東京でも多分、分からないんじゃないかな。そもそも、日本には原初の魔法少女は居なかったし。
まあ、こんな事考えても分からないものは分からないから、無駄かもしれないわね。私は背伸びをして空気を身体に取り込み、再び歩き始める。
「……ん?」
「ん?」
駅に向かって歩いていると、すっと横を女の子が通り過ぎていく。私は何か既視感みたいなものを覚え、振り向くと向こうの少女もこちらを見ていた。
「え?」
その少女の容姿。
銀色の髪を背中まで伸ばし、金色の瞳をしている。更に瞳の中には星のようなものが見えるが、ハイライトがあまりない。見覚えがある……星や月が描かれている衣装も。
「リュネール・エトワール?」
「……誰?」
彼女の反応は最もだろう。
と言うより、やっぱりこの子リュネール・エトワールだわ! 何という偶然? いや、奇跡? それにしても……うん、確かに凄い可愛い子だとは思うわ。表情がないのはちょっと怖いけど。
「それもそうよね。私は北条茜……といえば分かるかしら? 魔法省の者よ」
支部長という事は伏せておく。別にバラしても大丈夫だとは思うけど、まずはここから。
「……魔法省」
うん、今嫌そうな顔したわよね? 表情がほとんどないからうっかりすると見過ごすくらいだけど。
「あなたが魔法省を嫌ってるのは分かってるつもり。ねえ、ちょっと話をさせてくれないかしら?」
「このままで良いなら」
「ええ、良いわよ。ここだと人目が多いし、離れましょ」
星月の魔法少女リュネール・エトワールは結構有名人となっている。だからほら、周りの視線が彼女へ向いているのが分かる。彼女もその視線を感じ取ってたみたいね。
私とリュネール・エトワールは更に人が集まる前に、そそくさにその場から立ち去り移動をした。
だいぶ離れた場所にぽつんとある自動販売機の近くで、私は再び少女を見る。ここなら人目もないし、ゆっくり話せそうね。
「それで?」
「うん。そうね、まず単刀直入に。ありがとう、リュネール・エトワール」
頭を下げて私は彼女にお礼を言う。そうすると、向こうは驚いた顔(表情は乏しいけど)を見せて、思わずくすっと笑ってしまう。
まあ、突然謝られたら驚くわよね。私も驚く。
「それは、何のお礼?」
「茨城地域の魔法少女たちについてよ」
「別に、好きでやってること」
それはつまり、助けようとして助けた訳ではないという事だろう。まあ、それはもう知っているわ。それでも結果的に助けられてるし、お礼を言うのは間違いではない。
「ええそうね。でも、結果的に助かってる子たちが居る。ホワイトリリーもそうだし……だからお礼を言わせて頂戴」
「ん。分かった。その感謝は受け取る」
「ええ、ありがとう」
良かった。
偶然だか何だかはわからないけれど、こうしてリュネール・エトワールと出会えて良かったと思う。彼女には他にも、一部の情報とかをホワイトリリーを通して教えてくれたりとか、本当に助けられているしね。
「ねえ。これは興味本位なのだけど」
「ん」
「貴女は何で魔法省が嫌いなの? 別にこれは言いたくなければ、言わなくても良いわ」
でも、教えてくれたらこちらでも何とか出来るかもしれないし。
「……」
私が問えば、彼女は静かにこちらを見てくる。でもその視線から嫌なものは感じてないけど、それでもやっぱり警戒しているというのが見て取れる。
「別に」
「え?」
「別に魔法省が嫌いという訳じゃない」
「それならどうして?」
「それは言えない。ごめん。でも、これだけは言わせて欲しい」
「何かしら?」
「現状、わたしは敵対する意思はない」
そう答えた彼女は真剣そのものだった。嘘を言っていない……それは本当だろう。
「後は出来る限りは魔物を倒すつもり。勿論、横取りもするつもりはない」
「……そっか。ダメ元で聞くけど、魔法省に所属するつもりはない?」
魔法省に所属してくれれば、私も貴女のことを全力でサポートが出来る。他の魔法少女たちも、助けられてる子を含み、リュネール・エトワールに対しては好印象だしね。
彼女が何で一人で戦っているのか、それは分からないけど……それでも。
「ごめん、それはない」
「だよね。ごめんなさい。……時間取らせごめんね、これで終わり」
「ん。……そっちも身体には気を付けて」
「っ!」
何よこの子、そんな顔もできるのね。確かにその顔は反則よね……雪菜ちゃんとか、蒼ちゃんがやられるの無理はない。私ですら今一瞬だけドキッとしたし。
「ええ、ありがとう」
「ん。それじゃ」
そういって彼女はその場から立ち去るのだった。
リュネール・エトワールが何を抱えているのかは分からないけれど……いつか、分かりあえたらなと思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます