Act.02:年末月の訪れ②


 脅威度AAの魔物が観測された場所より、少し離れたビルの上から俺はそれを見る。今まででは見ないタイプの魔物だった。

 まず、空飛んでるし……今までで飛べる魔物は居なかったよな? 見た目は大きな蝶な感じだ。普通の蝶なら可愛いが、これは流石にでかすぎるし……。


「新手か……」

「そうね。空を飛ぶタイプなんて15年前以来ね」

「15年前……。そう言えば、その日に出現したのはドラゴンみたいな……」

「ええそうよ。良く創作とかで出てくる感じのドラゴン。まあ、禍々しく黒かったけどね」


 魔物出現の日。その日に出現した魔物は脅威度SSで国を半壊にまで追いやったやべー魔物だ。同時のことは凄く話題になっていたので俺も今でも覚えている。

 ファンタジーとかの創作に良く登場するドラゴンのような魔物だった。まさか、現実世界にドラゴンが出てくるとは思わなんだ。


 それはさておき、今出現している魔物はさっきも言った通り蝶を模したような姿形をしている。蝶……なのだが、これがまた大きくてな。魔物は大きいのが多いよな。

 その姿の通り、空を飛んでるようで、口から超音波みたいなのを出しているようにも見える。他にもそのでかい羽を使って突風みたいなのを出したりもしてるようだ。


 ホワイトリリーも居るし、ブルーサファイアも居る。他にも何人かの魔法少女もいて対処している様子。魔法少女側が有利っぽいが、どうだろうか。


 しばらく様子を見ることにする。変に介入して逆に不利にしては元も子もないしな。


「あなたは参加しないのね?」

「ん? ……誰?」


 戦闘の光景を見ていると聞き覚えのない声が聞こえる。声の方を向くと、そこには黒い衣装を纏った魔法少女? っぽい少女が浮いていたのだ。

 いや、浮いているではなく、空中に見えない何かを出してその上に乗ってる? とにかく、普通ではない。


「私? 私は別に名乗るほどでもないわ。丁度良かったわ、リュネール・エトワール」

「……名前知ってるの?」

「ええ、それはもう噂になってるしこの辺の地域ならもう知らない魔法少女は居ないんじゃないかしらね」


 どうやら向こうは俺のことを知ってるっぽい。警戒度を少しだけ引き上げる。


「警戒するのは分かるけれど…今回は謝りに来たのよ」

「謝りに? 何の事?」

「黒い短剣」

「!」


 先月起きていた魔法少女が刺される事件だ。いやまあ、それは普通にニュースでもやってるから知ってる人は居ると思うが、この子からは別の何かを感じた。


「あの男があなたを連れ去ろうとしてたわよね。あれの謝罪よ」

「……君、首謀者?」

「まあ、そうとも言えなくはないわね。……ただ、信じてほしいとは言わないけど、私に魔法少女たちを傷つける気はないわ」

「……」


 まあ確かに刺されたと言っても、魔力を奪われただけだったけど、だがあの男は俺の事を連れて行こうとしてたよな? 何か野良だからとか言ってたが。


「あの男の行動は予想外だったのよ。私は別に攫うつもりなんて無かったわ」

「それを信じろと?」

「こればっかりは信じてもらうしか無いわ」


 黒い魔法少女は静かに言う。俺はそんな彼女を警戒しつつ、見やる。確かに奥が掴めないが、嘘を言ってるようには見えない。でも、やってる事は一応傷害事件だよな……。


「分かった。その謝罪だけは受け取る。……でも」

「ちょ、何でステッキをこっちに向けるのよ!?」


 俺が手に持つステッキを少女に向けると、さっきまでの雰囲気をぶち壊すような慌てぶりを見せる。うん……やっぱり中身は女の子だよな。


「ごめん。首謀者だという事を知ったから拘束する」

「え!?」

「……トゥインクルスターリボン」

「え、ちょ!?」


 ちょっと申し訳ないけどトゥインクルスターリボンで黒い少女を拘束する。まあ、きつくはしてないから大丈夫だろう。リボンから抜け出そうともがくが、そう簡単には解けない。


「君には聞きたいことがいっぱいあるから」

「うわーごめんって! 本当にそんなつもり無かったのよー!!」


 うん、嘘は言ってないとは思う。それとこれとは別である、ぶっちゃけ攫われそうになったのはそこまでではない。まあ、変身前の姿がバレるかもっていう怖さはあったが。


「こっち」

「ちょ、引っ張らないでー!」


 ごめん。この状態だと引っ張るしか無いから諦めてくれ。


 出来る限り優しく、身を隠せそうな場所へと着地する。建物の裏に移動し、その場で拘束を解除する。別にどうこうするつもりはなかったが……単に聞きたいことがあるだけだ。


「はあ……酷い目にあった」

「(あなた中々良い趣味してるわね)」

「(勘違いしないで欲しい)」


 何が良い趣味だよ。逃げられると困るし、仕方ないだろ! 相手は魔法少女だし、油断はできない。


「それで? 君は何の為に魔力を奪ってた?」


 一番聞きたい事はこれである。魔力を奪って何にするのか……それが悪意ある物なら俺は止めるしか無い。


「……ごめん、言えないわ」

「……だろうと思った」


 まあ、そう素直には教えてくれないとは思っていたが……さて、この子をどうするか。


「悪意も何も無いってば! 信じられないのも分かるけど! と、取り敢えず今回は謝りに来たのよ」

「ん。謝罪はもう受け取った」

「なら、良いわよね。ごめんなさい……離せたらいつかテレポート!」

「あ!」


 しまった。

 そうだよ、転移が使える可能性があるって考えてただろ……一瞬にしたその場から消えてしまった黒い魔法少女を見て、油断した、と思った。


 もう後の祭りだが……さっきまで少女の居た場所を見ながらため息をつく。


「油断したわね」

「ん」


 うん、こればっかりは俺のミスだ。


「まあでも、一応私から見ても彼女は悪意を思ってそうには見えないわね。しばらく様子見する?」

「ん。そうする」


 気がかりではあるが、取り敢えず今の所悪さするつもりはないっぽいし。でも、転移魔法が使えるのはかなり厄介ではあるな……さて、どうしたもんかな。


 俺は既に倒されかけている蝶の魔物の方を見ながらそう思うのだった。





□□□□□□□□□□




「はあ、危なかった……」

「いや、君なら拘束されてても転移で飛べただろう? もしかしてそういう趣味があるのかい?」

「ん? そういう趣味って何?」

「あ……うん、何でも無いよ」

「そう?」


 変なララ。

 それにしてもいきなり拘束されるとは思わなかったわ。いや、そういうレベルのことをやらかしているんだから納得ではあるんだけどね。


「あの星月の魔法少女から、ボクと似た何かの気配があったよ」

「え?」


 星月の魔法少女っていうのはあの子の二つ名みたいなものだ。衣装や使う魔法が星とか月関連が多いから、誰かがそう言ったのが一気に広まったという感じね。もう知ってるとは思うけど。


 リュネール・エトワールっていう名前が分かってなかった時はほとんどこう呼ばれていたのよね。でも、名前が判明した今でもこっちで呼ばれるのが結構あるわね。

 まあ確かにぴったしな名前ではあるよね。魔法省もそう呼んでるみたいだし……。


「ララと同じ気配って、もしかして妖精?」

「分からないけど、そうかもしれない。でもそれなら確かにあの子が強力な魔法を使えるのは納得行くね」

「それはどうして?」

「妖精に魔法少女にされた子たちは皆強力な力が使えるんだよね。原理はわかってないけど。原初の魔法少女も多分妖精が誕生させたんだと思う」


 確かに原初の魔法少女は非常に強力な魔法が使えたって話だけどね。脅威度SSの魔物を倒せたくらいだもん。


「だから君もボクがやったから強力な魔法が使えるでしょ?」

「うん、確かに……」


 私が使える魔法は空間を操る魔法だ。それは転移だとか、見えない壁を出したりとか……名前には似合わない魔法だけど、どれも強力なのよね。

 転移魔法は本当に凄いと思う。何処にでも一瞬で行けるって、某国民的アニメのロボットが出す道具みたいよね。ただ、移動距離に応じて消費する魔力が増えるからここから例えば九州とかに行ったら多分、魔力が空になるわね……。


「だからもしかすると彼女にも……」

「妖精がいるかも知れない、って事ね。でも他に居るの?」

「分からないよ。ボクは歪に飲み込まれて運良くここに来たけど」

「あー確か世界が云々」

「うん。歪に飲み込まれた妖精が他に居ない、とは断言できないしね」

「確かに」


 ララの話では妖精世界は魔法実験の失敗により、崩壊してしまったっていうのは聞いてる。驚いたのは事実だけど、こうなんていうか現実味がなくて衝撃、としか思えなかったけど。

 でも、ララの話とか表情から悟れないほど鈍い私ではないわよ。


「……取り敢えずあの子にも注意しないとね」

「そうね」


 夜空を見上げながらそう呟くのだった。




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