【WEB版】年の差十五の旦那様~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~

華宮ルキ/扇レンナ

本編Ⅰ

第1話 新しい相手の元に嫁ぎます

「悪いが、キミのことは好みじゃないんだ」


 そんな言葉一つで、私は六年間も連れ添った婚約者と破局した。元婚約者の隣には、可愛らしい顔立ちの異母妹エリカが、彼に寄り添いながら勝ち誇ったような笑みを浮かべていた――……。


 ……それが、ほんの一日前のこと。そして、今、私は――嫁いでいる真っ最中だ。


(嫁ぐのはこの際良いとしても、早すぎないかしら?)


 そう思いながら、私は馬車の外を流れる景色を窓から見つめる。徐々に自然が豊かになる外の景色を見つめ続けること、約五時間。ちなみに、このまま五日間は馬車に揺られ続けることになっている。何故ならば、私が嫁ぐのは東の辺境伯爵家、リスター家だからだ。王国のちょうど中央にある王都からだと、馬車を走らせて六日もかかってしまうの。悲しいことに。


 そもそも、私は昨日婚約者と破局したばかりだ。しかし、屋敷に帰ればすぐに父に呼び出され、「お前の次の嫁ぎ先が決まった」と言われた。あの様子を見るに、前々から元婚約者に婚約の破棄を仄めかされていたのだろう。そうじゃないと、こんなにも早く次の嫁ぎ先が見つかるわけがない。


(しかも、冷酷な辺境伯ですか、そうですか)


 リスター辺境伯爵家の現当主は、ギルバート様という男性。年齢は三十三。バツなしの生粋の独身。だが、今まで婚約者「は」結構な数がいたらしい。しかし、みながみな一ヶ月ももたずに逃げ出したとか何とか。……その結果、付いた呼び名は「冷酷な辺境伯」。陰では女性をいたぶっているとか、そうい噂の絶えない人。


 普通の親ならば、娘をそんな人のところに送ろうとはしないだろう。……とはいっても、私の親は普通ではないのでそう言うことは通用しない。


 私の父、アシュフィールド侯爵は私のことを愛していない。むしろ、前妻の娘である私を疎んでいる。父が愛しているのはエリカだけ。そう、堂々とおっしゃるタイプだった。


 そして、父よりも厄介だったのが父の後妻で私の継母に当たる、アシュフィールド侯爵夫人。元は貧乏な男爵家の生まれであり、父とは身分差を乗り越えた真実の愛で結ばれている……とか堂々とおっしゃる、夢見がちな女性である。そんな父と母に存分に甘やかされた私の異母妹エリカは……大層わがままに育ってしまった。


(使用人たちが、逃げ出さないと良いのだけれど)


 エリカは、何かがあればすぐに癇癪を起こし使用人たちに当たり散らしていた。そのため、使用人たちはみなエリカに手を焼いていた。だが、父はエリカをバカにする使用人はすぐにクビにした。父にとって、後妻とエリカはそれほど大切な存在だったのだ。それ以外の者など……きっと、ごみ以下だと思っているのだろう。だから、私のことも何の躊躇いもなくギルバート様に差し出した。


「まぁ、お金の為でしょうね。今年は、不作だったみたいだし」


 そんなことをぼやきながら、私は「ふわぁ」と大きく欠伸をした。


 今年、アシュフィールド侯爵領は全体的に不作だった。それはつまり、あまりお金が稼げないということを意味する。元より、エリカと継母の浪費の為貧乏だった我が家。それに不作が重なれば……お金が無くなるのも時間の問題。その為、お金を工面するすべとして父は私をギルバート様に差し出した。上手く手籠めにしてこれば、援助をしてくれると画策したのだろう。……私に、手籠めにできる自信はないし、するつもりもないのだけれど。


 私の願望は、リスター辺境伯爵家でメイドとして働くことである。ギルバート様も、妻は嫌でもメイドならば受け入れてくださるかもしれない。そう言う考えが、根本にあった。まぁ、とにかく。私はあの家から離れたかった。もちろん、元婚約者のイライジャ・マッケラン様からも。だって、彼はエリカを選んだから。私のことを、捨てたから。


「まぁ、追い出されないぐらいに頑張ろうかな」


 屋敷に残してきた使用人たちのことは心配だけれど、そこら辺はもう祈るしかない。私に出来ることは、ないから。……せめて、恩返しぐらいはしたかったけれど。私がまともに育ったのは、使用人たちのおかげだったし。


(……成り上がるなんて、考えていないわ。平凡に、平穏に人生が終わればいいの)


 心の中でそうつぶやいて、私は少し眠ることにした。ゆっくりと目を瞑れば、すぐに睡魔が襲ってきて――眠ることが、出来た。

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