2章 創世の女神

2-1. 創世の女神

「ここがうちの教会デース!」

 上機嫌なエステルは、腕をピンと伸ばして紹介する。

 ゴシック様式に似た重厚な石造りの教会は尖塔を持ち、ずいぶんと立派だ。


「それでは、ご案内しまーす!」

 そう言って通用門のカギを開けて中へと入っていくエステル。

 エステルの家に行くって話だったのに、なぜ教会へ行くのか?

 俺は疑問に思ったが、エステルは楽しそうなので、仕方ないかとついて行った。


 教会の中へ入ると中は広く、正面には立派なステンドグラスがならび、壇上には巨大な女神像が飾られていた。

「おぉ……、凄いな……」


 思ったより壮麗な教会に目を奪われる。さっきの料理といい、異世界の文化には驚かされることが多い。まるで海外旅行しているみたいだ。


 俺は美しい大理石でできた女神像へと近づき、エステルに聞いた。

「これが君たちの神様?」

「そうデース! この世界を作られた偉大なる女神様、ヴィーナ様デース!」

 近くから見上げると、石像は非常に美しく精緻に作られており、ほれぼれとする……。

 が、この顔、どこかで見たことがある……。整った小顔でシャープなギリシャ鼻……。


 美奈みな先輩だ!

 そう、これは俺に飲み会で鏡の通り抜け方を教えてくれた美人の先輩、美奈先輩じゃないか!

 サークルで一緒にダンスして踊っていた先輩がなぜ、異世界で女神様としてまつられているのか?

「美奈先輩……。美奈……、ヴィーナ……、ん?」

 『美奈』を音読みすると……『ビナ』! 名前まで一緒じゃないか!

 彼女がこの世界を作り、俺をいざなった……。

 なぜ彼女はこの世界への来かたを知っているのか、と思っていたが、知っていて当然なのだ。この世界は彼女が作ったものだったのだから。


 なぜそんなことができるのか、なぜ俺を送り込んだのか、一体この世界は何なんだ?


 俺は思わずめまいがした。


 ふぅ……。


 俺は大きく息をつく。

 何だか自分の意志とは関わりのない、大きな流れに翻弄ほんろうされている気がした。先輩には話を聞きにいかないとなと思った。


 振り返ると、エステルが席について机に突っ伏している。


「おい、どうしたんだ?」

 俺が駆け寄ると、

「きぼちわるいですぅ……」

 と、青い顔をしている。飲み過ぎだ。

「あー、だから言わんこっちゃない」

「なんか出そうですぅ……。ぅおぅぅ」

 えずきだした、ヤバい。

「トイレ! トイレ!」

 俺は教会内を見回すが、どこがトイレか分からない。

 仕方ないので、鏡を取り出し、エステルの頭からかぶせて俺の部屋へと転送させた。

 そして、教会の奥の物置みたいな所に鏡を立てかけ、俺も急いで部屋へと戻った。


 床で動けなくなっているエステルを、トイレまで運んで背中をなでてやった。

「ぅおぉぉ! うぇぇ……」

 ビチャビチャと便器に吐くエステル。

 なんと世話のかかる奴だろうか。クラウディアの言うこと聞いた方が良かったかもしれない、と少し後悔した。


 その後、水を飲ませてベッドに横たえる。

 エステルはハァハァと言いながら苦しそうにしている。

 しかし、俺には解毒も治癒も使えない。申し訳ないが自分で回復していってもらうしかない。

 と、なると……。

 今日も俺は床で寝るの? トホホ……。

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