1-7. 重なる二人

「ソータ様! 申し訳ございません!」

 耳元で大きな声がして、俺は目が覚めた。

「ん?」

 寝ぼけ眼で辺りを見回すと、明るくなり始めた部屋の中でエステルが土下座している。

「ど、どうしたの?」

 俺が目をこすりながら体を起こすと、

「ソータ様の寝床を奪ってしまいました! 付き人としてこの不手際、何なりと罰をお申し付けください!」

 と、エステルはひどく恐縮している。

「ふぁーあ……。そんなのは後でいいから今は寝かせて……」

 俺は毛布に潜り込む。

「ダメです! ベッドで寝るです!」

「いいから寝かせて……」

「ベッドでー」

 エステルは俺を起こそうとして、足が滑って俺の上に倒れ込む。

「きゃぁ!」「うわっ!」

 エステルが俺の上に抱き着いた格好になり、俺は反射的に彼女の身体を両手で抱きかかえた。甘酸っぱい少女の香りが俺を包み、柔らかな胸のふくらみが俺に押し付けられる。

 いきなりやってきた予想もしない展開に俺は言葉を失う。

 エステルも、どうしたらいいかわからなくなって固まっている。


 気まずい沈黙の時間が流れた……。


 エステルの甘い吐息が俺の耳にかかり、ドクドクと速く打つ心臓の音が聞こえる。


 俺は横にゴロンと転がって、エステルの上になる。

 エステルは目をギュッと閉じた。プックリとした果実のような赤い唇がキュッと動く。


  このままエステルを……。おれはそっと柔らかくすべすべとしたエステルのほおをなでる。と、その時、エステルが震えている事に気が付いた。


 俺は正気を取り戻す。震えている女の子に手を出してはダメだ。俺は大きく息をつき……、体を起こすとベッドに転がった。

「危ないから気を付けてね」

 俺はそう言って毛布をかぶった。


「ご……、ごめんな……さい」

 エステルは真っ赤になりながらそーっと身体を起こし、正座してうつむく。


「はしたないことしてしまいました……。付き人失格ですぅ……」

 エステルはひどくしょげている。


 俺は眠ろうとしたが、すっかり目が覚めてしまって眠るどころではなくなっていた。どうしたものかと悩んでいると、

「あのぉ……」

 と、エステルが声をかけてくる。

 俺は毛布をそっとずらしてエステルを見る。なぜか真っ赤になってモジモジしている。


「どうしたの?」

 怪訝けげんに思って聞いた。

「お、おトイレ……、どこ……です?」

 そう言って、エステルは恥ずかしそうにうつむいた。


「あ、ごめんごめん。こっちだよ。シャワーも浴びてね」

 俺は立ち上がって玄関わきのユニットバスに案内した。

 そして、ウォシュレットとシャワーの使い方を簡単に教えてあげる。

 しばらくすると、

「ひゃぅっ!」

 というエステルの叫び声が聞こえた。きっとウォシュレットにビックリしているのだろう。


 もう眠れる気もしないので、朝食にすることにした。

 エステルがシャワーを浴びている間、俺はパンを焼いてミニトマトを洗い、ヘタをとった。


      ◇


 朝食をとりながら、作戦会議をする。目標はエステルを家まで届けることと、ダンジョンと魔物の情報をなるべく集めることだ。

 前衛は俺、物干しざおと殺虫剤で戦闘を担当する。後衛はエステル。索敵とマッピングと逃げ場所確保担当。ケガした時の治療もお願いする。

 そして、安全第一で、少しでもヤバかったらすぐに鏡に逃げ込むことをエステルに厳命した。


「分かったです!」

 エステルは子リスのようにミニトマトをほお張りながら、うれしそうに答えた。

 


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