第15話 エリノアの実力
素材を集めつつ、南下すること数時間。
すっかりと辺りが暗くなってきた頃、俺達は休むことに。
「二匹ともご苦労様。それじゃあ、ご飯にしようか」
『よっしゃ! もう腹ペコだ』
『私も今まで空腹だったせいか、お昼もらったのにもう――ん? ちょっと待ってください! 何かが近づいて来てます』
エリノアは耳を小刻みに動かしながら、そう口にした。
俺は何も聞こえないけど……。やっぱり狼だから、感覚が鋭いのかな。
『何も居ないよ?』
『いえ、もう近くに……ほらっ、あそこです!』
伸ばされた右前足の先をよく見てみると、確かに四足歩行の何かがこちらに近づいてきているのが見て取れた。
「どうしたの、二匹とも……ん? あ、あれは!」
『な、なんだあれは!』
その姿が明らかになった時、俺は自分の目を疑った。
視界に入ったのは骨が剥き出しになり、片方の目が零れ落ちているトラ。
口からは涎が、身体からは緑色の液体がポタポタと垂れている。
『チーグルゾンビですよ! すぐに倒さないと!』
『よ、よし! それなら俺に――』
『ここは私がっ!』
エリノアは俺の言葉を遮って、数歩前に出た。
その直後、エリノアの頭上に氷柱が複数現れたかと思うと、チーグルゾンビとやらに向かって真っすぐに飛んでいく。
その氷柱はトラの身体を容易く貫通し、突き刺さる度に肉片と緑色の液体が辺りに飛び散る。
そうして十秒も経たない内に、その魔物はピクリとも動かなくなった。
『す、凄いな!』
「エリノア凄いよ! まさか、こんなにも強かったなんて!」
『えへへ、ありがとうございます!』
『さっきの氷柱は、やっぱり魔法?』
『はい! 私の種族は氷の魔法を使えますから』
『へえ、そうだったんだ。あの魔物を簡単に倒すなんて凄い魔法だな。身体を楽々貫いてたし』
敵には絶対回したくないな……。
『いえ、それはチーグルゾンビの身体が腐っているからで、普通は突き刺さる程度ですよ』
『腐ってる?』
『はい、あれはアンデッド系の魔物ですから。特に今のチーグルゾンビはかなり腐食が進んでいたみたいですし』
なるほどな。腐って身体が脆くなっていたから、その分簡単に貫通したってことか。
それを差し置いても、エリノアは強いけど。
しかし、この世界にはゾンビまで存在するのか……。
「二匹とも話は済んだみたいだし、そろそろご飯にしよっか!」
カイルは俺とエリノアが話している間に、シートを引いて餌を用意してくれていた。
その後、それぞれ食事を取った俺達は軽く話した後、肌を寄せ合って目を閉じた。
しばらくして、カイルとエリノアの寝息が聞こえてきたのを確認した俺は、静かに離れて日課のトレーニングを開始する。
今日は新しい仲間も出来たし、良い一日だったな。それにエリノアは滅茶苦茶強いし。
『ふわぁ~。あれ、アイズさんまだ起きてたんですか?』
『あ、もしかして起こしちゃったかな?』
『いえ、お花を摘みに行ってきただけ……そ、そんなことより! 一体何をしているんですか?』
『ああ、ちょっとトレーニングをね。少しでも強くなって、カイルのためにも優勝したいから』
『マスター思いなんですね、アイズさんは。確かにカイルさんは優しい人間ですし、そう思うのも分かります。私もカイルさんにテイムしてもらえて本当に良かったです』
そういえば、エリノアはやたらカイルにテイムされたがっていたな。
それも契約の魔法を使えないと聞いた上で。
『あのさ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?』
『何でしょう?』
『エリノアはどうしてカイルにテイムしてほしかったんだ?』
『ああ、それはですね。私のお父さんの教えだからですよ。お父さんはいつも、自分を大切にしてくれるテイマーを見つけてテイムされなさいと言っていました』
それに当てはまるのがカイルだった訳か。
確かにカイルは俺を大切にしてくれているから、エリノアの目に狂いはないな。
『お父さんは人間が好きなんだな』
『ええ、元従魔でしたから。高齢によりマスターがテイマーを引退したことをきっかけに、種族を繁栄させるために野生に返してもらったそうです』
『なるほどな。円満にお別れしたってことか。それでそのお父さんは?』
『はい、そう言ってました! それとお父さんはつい最近、寿命で息を引き取りました』
そうだったのか……。
これは無神経だったな……。
『……ごめん』
『ん? 何がです?』
『その、お父さんのこと……』
『ああ! 全然大丈夫ですよ、何せ寿命ですし! それにお父さんも、今頃あの世で元マスターと再会出来て幸せなはずです。だから全く悲しくはないんです』
『そうか、それなら良かった。お父さんとマスター、二人の再会を俺も願ってるよ』
俺もいつの日か勇斗と……。
その時には、この世界のことをたっぷりと話してやらないとな。
きっと大喜びするはずだ。
『ありがとうございます。アイズさんも優しい魔物で本当に良かったです!』
『そう言ってもらえると嬉しいよ。それともう一つ聞きたいことがあるんだけど』
『遠慮なくどうぞ!』
『どうしてあんなところに倒れてたんだ?』
『うっ! そ、それは……』
これは聞いたらまずかったか……?
『ごめんごめん! 答えにくかったら全然大丈夫だから!』
『いえ、そういう訳ではなくて……。あの、実は私もお父さんみたいにテイマーと絆を深めたくて、お母さんにお願いして旅に出たんです。そこで渡してもらったご飯を後先考えずにバクバクと食べてしまって……。その後はお察しの通りです……』
つまり食い意地が張った、ちょっぴりおバカさんってことか。
それはそれで可愛らしいけど。
まあ何にせよ、さっきのゾンビに襲われたり、強制テイムされたりせずに良かった。
『あの、私からも一つ聞いていいですか?』
『おう、何でも聞いてくれ!』
『アイズさんって何歳ですか?』
何歳……。
この姿になってからまだ一ヶ月も経ってないし、ゼロ歳ってことになるよな。
『生まれたばっかりだから、まだゼロ歳だよ』
『そうなんですか! 私は二歳なのでお姉ちゃんですね! 私、お兄ちゃんとお姉ちゃんしかいないので、お姉ちゃんというものに憧れてたんです。何かあったら、お姉ちゃんに頼ってくださいね!』
『お、おう。ありがとうエリノア』
そう答えると、エリノアはえっへんと言わんばかりにフンと鼻を鳴らした。
これはあれか、年頃の末っ子が抱く特有のやつか。
そういや勇斗も小さい頃、弟か妹がほしいって繰り返し言ってたっけ。
『あ、そういえばアイズさんはトレーニング中でしたよね。良ければ私もお供して良いですか?』
『もちろん! あっ、それなら連携の練習とかもしておきたいな! トーナメントは三対三のチーム戦らしいし』
『そうなんですね。そういうことならぜひ!』
俺とエリノアは、先ほど倒したチーグルゾンビの亡骸を仮想敵に見立て、連携の練習を始めた。
といっても、交代しながら動かない敵を攻撃しているだけに過ぎないけども。
まあ、何もしないよりは断然良いはずだ。
そうして、動き続けてクタクタになったところで俺達は休むことにした。
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