第19話
今日は神殿で聖女としてのお勤めを行う。
怪我人や病人を聖女の癒しの力で治してあげるのだ。神殿には患者の長蛇の列が出来ている。無論、私一人で全員を診る訳じゃない。そんなことしたら、すぐに魔力が底を突いてしまう。
癒しの力を使える神官や神官見習い、シスターや聖女見習いが手分けして行う。怪我や病気の度合いによって分けられる。軽い患者は神官達が、重い患者は私が診ることになっている。
患者の列を順調に捌いていると、何やら外が騒がしくなった。
「いつまで待たせるんだ! 儂を誰だと思うておる!」
どうやらどこかの貴族が騒いでいるらしい。順番が待てなくてイライラしているようだ。ただでさえ疲れているんだから、この上厄介事は勘弁して欲しい...
「お、お静かに願います。他の患者さんの迷惑になりますので...」
「そんなこと知るか! いいからさっさと聖女を出せ!」
「で、ですから順番をですね...」
「ふざけるな! 俺がお前らにいくら寄付してやってると思ってる! 金を多く払った者を優先しろ! 貧乏人は後に回せ!」
たまにこういう勘違いした輩がやって来る。寄付金の額と順番はリンクしていない。そもそも神殿では患者からお金を取っていないのだから。
治して貰った患者が感謝して寄付していくこともあるが、それはお気持ちであって決して強制じゃない。だがこういった輩には説明しても無駄だろう。金が全てだと思い込んでいるんだから。
ちょっと気になったんで、コイツがどれだけの額を寄付したのか、心の声を拾ってみた。これだけ強気な態度を取っているんだから、相当な高額なんだろう。
『フンッ! 誰が寄付なんぞするものかい! もったいない! そんな金があったら女に使った方が良いに決まっとるわい! こうやって強気に出れば、ひ弱な神殿の連中ならすぐ言うこと聞くに決まっとる! ちょっと騒ぐだけで、聖女をただ働きさせられると思うと堪らんわい! 大してどこも悪くないが、聖女に癒して貰えるだけで、更に健康になるなら言うこと無しじゃの! フフフッ! 笑いが止まらんわい!』
...なるほどね...このクズめ! キツイお仕置きをかましてやろう!
私はリストを片手に騒いでいる男に近付く。
「お名前は?」
「へっ!?」
「ですからお名前は?」
私はリストを捲りながら再度尋ねる。
「高額の寄付をされた方はリストアップしてあります。お名前をどうぞ?」
男は顔からダラダラと汗を流しながら、
「あ、あの、その...や、やっぱり治療は結構です! それじゃあ!」
と言って風のように去って行った。
疲れてんのに余計な手間取らせんなよ...
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