第5話

 私とカルロの幼馴染みのルナは腹黒い。


 私は学園で「悪役令嬢」と影で噂されているらしい。この噂を広めたのが、何を隠そうこのルナなのである。


 そのクセそんな噂を聞こえるように言う人の前では「どうしてそんな酷いこと言うの!? リタはそんな娘じゃないわ!」と私を庇うような発言をしたりする。どれほど腹黒い女かこれで分かって貰えると思う。


 ちなみにこの「悪役令嬢」というのは、昨今巷で大ブームを巻き起こしたベストセラー小説に出て来る嫌な女のことで、ヒーローとヒロインの仲に嫉妬し、ヒロインに対して陰湿な虐めを繰り返し行うというキャラを差す言葉である。


 なぜそんなキャラを私に準えたのか? なんのことはない、私の容姿と伯爵令嬢という立場が同じ。ただそれだけである。


 確かに小説に出て来る「悪役令嬢」の、黒髪黒目でちょっと目付きがキツイという感じは私に通じるものがあるかも知れないが、私はヒロインを虐めてなんかいない。


 というかそもそもが、誰がヒーローで誰がヒロインかって話なんだが、どうもルナの中ではカルロがヒーローで自分はヒロイン、そして私が「悪役令嬢」っていう配役になっているらしい。


 ヒーローがカルロなのは分かる。めっちゃカッコ良いし。そして不本意ながら私が「悪役令嬢」というのも納得するのは吝かではない。自分で言うのもなんだが私は割と整った容姿だと思う。


 ではヒロインは? 言っちゃ悪いがルナは全然可愛く無い。小説の中でのヒロインは、ピンクの髪に碧い瞳が儚げな、思わず守ってあげたくなるような可憐な容姿となっているが、ルナはその対極にあると言っていいだろう。


 茶髪にヘイゼルの瞳、女にしては背が高く肩幅も広い。間違っても儚げな印象を抱くことはない。寧ろ逞しいとさえ言えるだろう。ヒロインと重ねるには無理があると思う。


 ちなみにこのルナと私の妹のリズ、カルロの義妹ミラは仲が良い。ルナに影響されてか、リズとミラも心の中で私のことを「悪役令嬢」と呼ぶようになった。


 仲間意識の表れなんだろう。三人にとって私は、カルロを巡る上で共通の敵ということなのかも知れない。だがふと思う。仮に、あくまでも仮にだが、私とカルロが首尾良く別れたとする。その後どうするんだろう? 今度はカルロを巡って三人で争うつもりなんだろうか?


 どうにも彼女達の真意が掴めないが、その前に私とカルロが別れるなんてことは、万が一にも有り得ないから考えるだけ無駄かも知れない。


 そんなことを考えていたら、ルナがニコニコしながらこっちに近付いて来た。あれは何か企んでいる時の顔だ。


 私は警戒を強めた。

 

 

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