第3話

 カルロの義妹ミラは病弱という設定である。


 あくまでも設定であって、実際は心身共に健康体だ。子供の頃は確かに病弱だったようだが、成長した今となっては健康そのものだ。


 ミラの母親、つまりカルロの義母がカルロの父親と再婚したのは今から三年前のことだ。幼い頃に母親を亡くしたカルロは、男手一つで育てられた。


 カルロの父親は周りから再三に渡って再婚を勧められていたそうだが、全て断っていたそうだ。理由は亡くなった奥様を深く愛していたから。


 それがなぜ再婚に踏み切ったかと言うと、他でもないカルロが勧めたからだと言う。カルロがこの国で成人として認められる15歳なった時「自分はもう大人だから大丈夫。次は自分の幸せを見付けて欲しい」と父親に言ったらしい。


 その言葉にいたく感動したカルロの父親は、それから程なくしてミラの母親と再婚した。お互いが再婚同士で連れ子が居た。それがミラである。


 ミラの母親は元々、子爵家の令嬢だったらしい。嫁ぎ先の伯爵家で夫に先立たれた後、夫の親族に追われる形で実家に戻されたと聞いた。


 カルロの婚約者として彼の家に訪れた際、ミラは最初の挨拶で私にこう言った。


「初めまして、ミラと申します。私は子供の頃から病弱で、あまり外に出ることがなかったからお友達がいません。だからお義姉様というよりもお友達になって頂けたら嬉しいです」


 初めから儚げで病弱だというアピールをぶっこんで来た。だが内心はこうである。


『フンッ! あんたなんかと友達になるのなんて真っ平ごめんよ! 見てなさい、優しいお義兄様の寵愛を独占してあげるんだから! 私が病弱なフリをするだけで、お義兄様は私を放っておけなくなるんだから!』


 その言葉通り、私がカルロの家を尋ねる度に、ミラは体調を崩したと言ってカルロに側から離れないようお願いする。その間、私は放置される。


 カルロと外で会おうとしても、カルロが出掛けようとすると決まって体調を崩し、カルロに「行かないで。側に居て」とお願いする。私は何度も約束をすっぽかされた。


 業を煮やした私が、聖女の力を使って治療しようとすると「私ごときに聖女様のお力を頂くなど恐れ多い」と断られ「お義兄様が側に居てくれることが、私にとってなによりの薬になります」と殊勝なことを言っては目をウルウルさせる。


 たが実際は『冗談じゃないわよ! 聖女の力なんか使われたら仮病だってことがバレちゃうじゃないの! 絶対に診察なんか受けないわ!』これである。


 だから私は一計を案じることにした。

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