スフィンクスブルは牛の魔獣です

 金策のため、ポリンクの冒険者ギルドに来ました。

 ハミルトンのギルドと、同等程度の規模。

 『全ての仕事はガンダルに集まる』と、誰かが言った。

 高難度の依頼は、屈強な冒険者がつどうガンダルのギルドに発注される。

 このギルドは、討伐依頼よりも、採取依頼のほうが多い、ように感じる。

 ポリンクギルドの掲示板を眺めながら、そのような考察を行った。

 が。


「これ、なんですかね?」


 ヒヨリちゃんが、指さした先の用紙には、こうつづられている。


・依頼(ランクC+):スフィンクスブル討伐、および眼球素材納入


 ・・・


「すみません。

 『スフィンクスブル』って、ご存知ですか?」


 ギルドに併設されている、酒場。

 掲示板に近い位置の席で、ランチタイムを楽しんでいる女性2人組。

 何気なく、彼女達に声を掛け、問うた。


「スフィンクスブルは、スフィンクスみたいな見た目の牛の・・・。

 ・・・。

 喫茶店!」


「ブルって、喫茶店なんですか!

 喫茶店なんですか!!」


「喫茶店ではないわよ、シオン。

 喫茶店のマスターさん。

 この前は、おいしいサンドパン、ご馳走様でした。

 と。

 言えば、思い出されますか?」


 その優しい声色で、思い出す。

 装備品が変わっていたので、遅延が発生したが。

 まごうことなく。

 彼女達は。


「以前、ウチの喫茶店に、来店してくださった。

 侍ガールさんと、プリーストさん!」



 ・・・



 ・・・



 そこから。

 いろいろありました。


 が、もう、いいかなぁー、って思うので省略し。

 結論だけ述べます。


・一緒に、スフィンクスブル、倒す






*****






 スフィンクスブルの生息地である、ポリンク南方の森に来ました。

 この森は神聖な場所。

 森全体が遺跡であり、所々に崩壊した建造物が存在。

 倒壊した柱やらに、木や枝が絡み付いて。


「俺、好きなんですよねー。

 こういう廃墟みたいなところ」


「私も好きです。

 前世では、廃墟探検ツアーとか行ってました」


「あなた、前世の記憶があるの?」


「あはははは。

 そんな冗談をコシラエルくらい好き、ということですよ。

 あはははは」


 ヒヨリちゃん、ちょっとミステイク。

 テヘッと笑顔で俺の方を向くと、ぺろっと舌を出した。

 よし、かわいいから許す。


「エリン!

 遠足気分の2人に、オゾマシイ話でも聞かせてやれ」


「わかったわ、シオン。

 でも、その前に・・・。

 昔話でも、しましょうか」


 ここで、やっとのご紹介。

 刀装備の黒侍ガールさんが『シオン』さん。

 杖装備の白プリーストさんが『エリン』さん。

 凸と凹がうまく噛み合った、仲良し冒険者コンビ。

 実は、そんな2人がポリンクに来た理由は、俺がポリンクに来た理由と一致していたりする。

 つまり、


・光術の習得


 である。

 光魔術師を目指すエリンさんは、すでに基礎光魔法『レイ』を習得済み。

 現在は、次のレベルの光魔法を習得するため、金策と属性経験値稼ぎにいそしんでいるとのこと。

 なので受ける仕事は、なんでも良く。

 おかげで、美女3人との遺跡巡りを楽しめることになったのである。

 やったね!


「昔は、この森が光の聖地と呼ばれていて。

 森の奥には、大きな神殿があり、その場所で光魔法の儀式が執り行われていました。

 ここで、誰かが言いました。

 『遠いよね』って。

 そこから、聖地移転計画が発足し、ピラミッドが作られ、聖地はポリンクへと遷移しました」


「いや、聖地、遷移させたらダメだろ!」


「でも、おかげで光魔法を覚える人が増え、またポリンクは一大観光地として潤いました。

 あなた、タドルさんが光魔法を既に習得できているのも、『遠いよね』とつぶやいた人のおかげなんですから」


「まあ、確かに助かりました。

 けど。

 『ありがたみ、半減』。

 そんな感想です」


「さて、ここからが本題です。

 『遠いよね』発言、それより前の時代に、もう1つ有名な発言がありました。

 それが・・・。

 『守り神、ほしくない?』、です」


「守り神?」


「この守り神が、スフィンクスです。

 スフィンクスが、どのように生み出されたかは不明です。

 しかし、彼女は従順でした。

 神殿の秘宝を狙う盗賊を、全く寄せつけず。

 光の魔法を操って、全員を処罰したのです」


「スフィンクスって、メスなの?」


「全てがうまく運んでいるように見えました。

 しかし、この秩序はその後、もろくも崩れ去ります」


「何が・・・、あったんですか?」


「スフィンクスが、野生の雄牛と勝手に交配して、その子供が暴走し、さらに大増殖したのです」


「スフィンクス、何やってんだ!!」


「これが、『スフィンクスブル』誕生のイキサツです」

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