各属性で最も簡単な魔法を『プライマリーマジック』と呼びます

 塗料をモリタさんに引き渡し、簡単な経緯説明。

 特に、『塗料の引火に関する注意』には念を押した。

 今日の業務はここまで。

 夕日を背にして、喫茶店へと帰還した。






*****






「私、日頃から、『同じことは2回聞かないで』、ってよく言っちゃうんだけど。

 ごめんなさい。

 もう一回、同じこと聞かせてもらってもいい?」


「はい」


「なんで、新品のレッドソファーに座らないで。

 あなたは、地べたに寝っ転がってるの?」


「だって、新品のイスに座ったら、新品のイスがよく見えないじゃないですか」


「ごめん、ちょっと、意味わかんない」


「この、『椅子を眺ながめながら、コーヒーを飲む』というのが、最高の時間なんです。

 見てください、このつや、色、フォルム。

 美しいでしょう」


「ルーラーの紫ソファーに座って、見ればいいじゃない」


「両方、同時に見たいんです。

 この『色違いが並んでる』っていうのが『ロマン』なんです」


「ごめん、ちょっと、意味わかんない」


「それに、この位置からだと、椅子の向こうに観葉植物と窓が視野に入るんです。

 この椅子と観葉植物の組み合わせも、最高です」


「・・・」


「さらに言えば、この夕日との相性です。

 光源によって、インテリアもまた違った印象を与えてくれる。

 この点、欲をいえば、夜間に照明を当てて、それをながめたい。

 白色光でなく、温かみのある黄色、橙色の光を当てて」


「光の魔法を覚えなさい」


 なるほど!

 その手があったか!


「教えてください!!」


「魔法は、『購入』するものよ」


「じゃあ、明日買ってきます!」


「フランもまともに使えない人間が、上級属性の魔法を使えるわけないじゃない」


「そういうものなんですか?」


 ここでミエルさんが、上級属性魔法の習得条件などを教えてくれる:


・下級属性魔法を2種、中等レベルにすることが習得条件

・中等レベルとは、『ミッド〇〇』という魔法を使えるレベルのこと

・上級属性魔法は、普通の街には売っていない

・それぞれの属性ごとに『聖地』と呼ばれる場所がある

・その聖地で魔法を購入する

・下級魔法より上級属性の方が価格が高い

・光の聖地は、この大陸には存在しない


「絶望的だ」


「悲観しないの。

 千里のみちもフランから。

 明るい光を自分で出せるようになる未来。

 そのために、明日、あなたがすべきことは何?」


 突然のクイズ出題。

 シンキングタイム、スタートです。






*****






 ここから俺がシンキングタイムに入りますので、皆さまは夕日に染まるレッドドラゴンレザーソファーの映像をお楽しみください






*****






「はい!

 下級属性魔法を、もう1種、買ってくる、であります」


「正解よ。

 じゃあ、もう1つ課題を出すわ。

 下級属性に関して、それぞれの特性を、明日、魔法屋の店主に聞いておきなさい」






*****






 一夜開け。

 現在位置はハミルトン。

 天使さんの導きを受け(本人は喫茶店で絶賛ソシャゲ中です)、魔法屋へとやってきた。

 店内に入ったあと、俺は、カウンターに設置された呼び鈴を鳴らす。

 が、返事がない。


<<チンチンチンチン、チンチンチンチン!>>


 連打。

 が、返事がない。


<<チンチンチンチン、チンチンチンチン!>>


 連打。

 1分待機。


<<チンチンチンチン、チンチンチンチン!>>


 連打。

 ここでやっとこさ、店主さんが登場した。


「そんなに鳴らしたら、うるさいでしょうが!」


「知らぬよ」






*****






 店主さんの名前は『ミュウレイ』さん。

 薄い黄緑色のモサモサの長髪と、赤いマフラーがトレードマークです。

 その店長さんが、眠そうな目をこすり。

 前回と同じく、カードをカウンターに配膳した。

 しかし、今回は3枚。

 属性を表すアイコンマークが、全てのカードで異なっている。


「あんたの言う通り、プライマリーを並べたよ。

 あとは、ゆっくり選びな」


 『プライマリー』とは、初等魔法のことで。

 つまり、各属性で、最も簡単な魔法、ということです。

 さて、ここで、ミエルさんの宿題を片付けよう。


「ミュウレイさん。

 この3つの魔法について、説明をお願いします」


「メンドイ」


「仕事しろ」


 ミュウレイさんは渋々、各属性の説明を始めるのでした。

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