店名は自分で自由に決めてください

 ついにメニュー表が完成した。


・コーヒー

・唐揚げ定食

・[★オススメ]チキン南蛮定食

・バターサンド

・タマゴサンド

・[★オススメ]テリヤキチキンサンド


 まあ、『唐揚げにタルタルをかけたもの』を『本来のチキン南蛮』と呼んで良いかは真偽不明だったが、『チキン南蛮?なんじゃそりゃ』という言葉をどうしても引き出したかったので、そう命名した。

 メニュー表は、真っ白い綺麗な紙に、ペンで可能な限り可愛らしく、かつ高級感ただようフォントにて記述した。

 周囲をモコモコしたラインで、ユルフワっと仕上げて完成。

 まあ、本来は色ペン、色インクが欲しかった。

 黒一色なのは、少し寂しく感じた。


「さて、このメニュー表に足りないものがあるわ。

 いや、もうわかっていると思うのだけれど」


 自ら及第点を出したタマゴサンドをかじりながら、ミエルさんが問いかけてきた。

 その通り。

 このメニュー表には、絶対的に足りないものがあるのだ。


「価格です」


「そうね」


 そう、ここから、『値決め』を行う必要があるのだ。


「実は、値段は、もう決めてあります。

 こっちが、値段を決めたバージョンのメニュー表です」


・コーヒー 300G

・唐揚げ定食 600G

・[★オススメ]チキン南蛮定食 750G

・バターサンド 300G

・タマゴサンド 500G

・[★オススメ]テリヤキチキンサンド 750G

※お料理をご注文の方は、コーヒー100Gで提供します


 俺が気にしていたのは、メニュー内容よりも、価格設定の点であった。

 ミエルさんは、何と、コメントするのだろうか・・・。

 俺は、彼女がタマゴサンドを食べ終わるのを待った。

 そして彼女は、ズバっと切り捨てたのだった。


「私、値決めには、絶対に口出しはしないわ」


「えーー」


「男らしく、あなたが決めなさい。

 それで、一度痛い目を見て。

 その上で、試行錯誤するのよ」


「いや、少しくらいコメント欲しかったなー、なんて。

 家賃と冷蔵コストゼロな反面、物流コストが街中よりも高くなっちゃうとか。

 そういう議論を・・・」


「じゃあ、看板、出してくるわね。

 頑張ってねー、店長」


 そう言うと、ミエルさんは、喫茶店の外に出た。

 外は晴天。

 人通りは、十分あるだろう。


「まあ、やってみましょうか」






*****






 俺はまず、家具用木材の端材はざいを使って、あらかじめ作っておいた『立て看板』を持ち出した。

 喫茶店のドア、その上部には、まるでアイコンのような『カップ』と『ナイフフォーク』の看板を引っ掛けられるようになっており、これを持って営業中のむねや、その業務内容を外部発信できる、のではあるが。

 さらにドドンと大きな看板を掲げることで、『やる気』をアピールするのである。


 この看板は『チキン南蛮』開発前に作成したので、『喫茶店』『営業中』という2ワードのみを、紙に黒のインクにてデカデカと、ゴシック体的フォントで記述したのみである。

 本当はブラックボードが良かったです。

 それでも、この看板の有無は大きな差を生んでくれると予測している。

 看板を街道に沿って設置。

 深呼吸と神頼みを行なって。

 さて、店内に戻ろう。

 としたところで、天使さんが店内からひょこっと出てきた。


「ところで、店の名前は決めてるの?」


「決めてます」


「あれ、決めてるのね。

 でも、看板には店名は書かないの?」


「それは、また次回にします。

 まだ、店名を気にしてくれるお客さんも少ないでしょうし。

 『あの、ハミルトンとパレルの間にある、変な料理屋』、で通じるでしょうしね」


「で、店名は?」


ROOTルート、にします」


「そのココロは?」


「さまざまな経路を『辿たどって』行き着いて、ここが誰かの『根幹』になれば。

 とか言ってみます」


「いい心意気じゃない?

 好きよ、そういうの」


 皇帝の言葉。

 でなく、肯定の言葉をかけてくれるミエルさんは笑顔を見せてくれる。

 頑張ろう。

 この人の力も借りて。


「さあ!

 喫茶店『ROOTルート』、開店です!」

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