喫茶店のドアの鍵はオートロックではありません

 草原が赤く染まり。

 俺は店のドアにかけた札をひっくり返す。

 OPEN→CLOSED。

 閉店、お疲れ様でした。


 本日の売り上げ。

 唐揚げ定食3つで1,500G。

 テリヤキサンド、コーヒーセット3つで1,500G

 合計3,000G。

 初日の売り上げとしては上々と考える。

 そもそも、まだ試験営業中であり、この段階で売り上げがあがるとは考えていなかったのだ。


 窓から夕日が差し込み、店内の木製家具たちを染め。

 そんな情景が癒しを与えてくれる。


 再度抽出してみたコーヒーを飲みながら。

 切り株スツールに座り、観葉植物を眺めながら。

 まったりと。

 うーん、コーヒーの味、だいぶん濃くなったかなー、なんて。

 これなら、ギリギリ及第点なのではないか。

 まだまだ、研究の余地は多分にあるのだが。


 さて。

 ここから、どのように経営をしていくのか。

 改めて、ここで考えてみよう。


 まず、本日気づいたこと。

 それは、『俺の喫茶店に気づいて、かつ気になっているけれど、入店まではいたらない』、そんな冒険者、旅人が多数いた、ということだ。

 確かに、知らないお店に初めて入店するのは勇気がいるものだし、『なんでこんなところに喫茶店があるんだ』とか、『こんな場所に喫茶店、あったっけ』という不信感も、多少存在していると考える。

 この点への対応として、まず取りたい対策は、『目立つ営業中看板を作る』、ということである。

 ここに、営業中であるむねと、おすすめメニューとその値段を、デカデカと記載する。


 前世では、店のまわりに『ノボリ』を立てることがよく行われていた。

 しかし、この世界では、どうも『布』が比較的高級素材であるようで、思った以上のコストになりそうなのである。

 それよりは、現状既に保持している木材を使った看板を作る方が、テットリ早いのである。


 そして、それと同様に必要になるのが、『メニュー表』の作成。

 紙、ペン、インクは購入済みなので、あとは、『記載内容』をどうするか。

 現在記載可能なメニューは、『唐揚げ定食』『テキヤキチキンサンド』『コーヒー』の3項目。

 やはり、たった3つでは寂しさを感じてしまう。


 結論をまとめる。

 やはり、『メニューを増やす』ことが最優先。

 そして、それに続いて、看板とメニュー表の作成となる。






*****






 さて、ここからは新メニューの検討に入る。

 まず、残念な報告がある。

 それは『甘味の提供が難しい』ということだ。

 理由は単純で、『砂糖』が高いのである。

 物価はおおよそ前世と同じ、と、最初は思っていた。

 が、『砂糖』や『布』など、一定の種別のものは、比較的高い値で売買されていた。

 故に、甘味の提供は、喫茶店の営業が軌道に乗ってから、そういう作戦で進めることにする。


 そして同様に高価だったのが『茶葉』だった。

 『紅茶茶葉』、『緑茶茶葉』、両方とも売ってはいたが、高級品だったのだ。

 『コーヒー豆』の方がコスパが高いという状況だった。

 さらには、俺の大好きな『烏龍茶』の茶葉。

 一生懸命探したが、存在すらしていなかった。

 『嗜好品』は、やはりどうしても値が高く、その中で『コーヒー』と『酒』は、比較的リーズナブルであるという調査結果です。

 ドリンクに関しては、『お冷』と『コーヒー』のみでしばらくは我慢する必要がありそうだ。


 ここで、逆に、全ての『制約』が存在しないと仮定して、何をメニューに載せたいか、それを考えてみる。

 それは、ズバリ、『デミグラスソースのオムライス』である。

 これは俺の勝手なイメージだが。

 『喫茶店といえば、オムライス』、だと思っている。

 『デミグラスソース』の接頭辞が付くのは、ただ単純に俺が好きだから、それだけです。

 

 これを提供するためには、その前段階として、以下2ルートのステップを踏んでいく必要があると考える:


・バタートースト→ケチャップ→ピザトーストとナポリタン→ケチャップオムライス→デミグラスオムライス

・和風ポークハンバーグ→和風牛豚合挽きハンバーグ→デミグラスハンバーグ→デミグラスオムライス


 長い道のりになりそうだ。

 しかし、この困難、時間で解決してやる!


<<カランカラン>>


 俺が上述の2ルートを紙に図示し終えたタイミングで、喫茶店のドアのベルが鳴る。

 『CLOSED』の表示が見えなかったのだろうか?

 まだ、夕日まぶしい時間帯。

 文字が暗くて見えない、そんなわけはない。

 まさか・・・。

 また、盗賊!?


 しかし、その予測は幸運にも外れ。

 夕日を背中に、いっぱい浴びて。

 そこに立っていたのは。


 天使さんだった。

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