シェルターが正常に設置できなかった場合、すぐに収納されます

 緑色の飛竜と言えば、ワイバーンというモンスターが、よくRPGのゲームに登場するが、今目の前に居る存在は、全てがその上位的存在。

 足腰の筋肉も、胴の太さも、翼の大きさも、口と牙、角の大きさも。

 大迫力の映像が、シェルターの小さな窓越しに展開されている。


「お、おわた」


 死を悟る、俺。

 シェルターは俺の身長の高さのおおよそ2倍、3m程の高さがあるのだが。

 ドラゴンの体長は、このシェルターよりも大きい。

 この世界、舐めてた。


 あじを釣ろうとして鯛が釣れた、みたいな。

 何言ってんだ、俺。


 ドラゴンは上体を下ろし、窓から俺をのぞき見る。

 そして。

 口がパカっと。

 パカっと。

 開いて、無数に存在する鋭い牙に目を取られる間もなく。

 すぐに。

 すぐに!

 口の中、光り出したーーー!


「ドラゴンブレスだーーーーーー!!」


 そして、放たれる灼熱。

 熱い!死ぬ!

 その感想が、視覚情報から導き出された。

 家の外が火事です!


 家の中は無事です!

 なんでだよ!

 なんで、逆に、無事なんだよ!!


 このシェルターは耐衝撃性だけでなく、耐火性も抜群に高いらしい。

 どういう素材なんだよ、このシェルターの壁。


 そして一旦、炎がむ。

 一瞬の静寂。

 そして、すぐに再来する灼熱。

 それでも、シェルター内の温度は一定を保っていた。


 2回のブレスで、ブレス攻撃が効かないことを悟ったドラゴン。

 この判断から、このドラゴンが知能で他の魔物よりも優っていることを理解した。

 これは、本当に、ヤバい!






*****






 ドラゴンは、取り得るすべての攻撃を、シェルターに対して試してきた。

 噛みつき攻撃、角で突く攻撃、翼撃、尾撃、爪で切り裂く攻撃、体当たり。

 そして、俺が最も恐怖したのが、『グライダースパイク』。

 空中、空高くからの空襲エアレイド

 存分に勢いをつけての滑空攻撃。

 本来は、何十メートル先にまで、シェルターごと吹き飛ばされるはず。

 それでも、『100人乗っても大丈夫』なシェルターは、弁慶、仁王立ち。

 ドラゴンは反発力で多少吹き飛ぶも、ダメージを受けているようには見えない。


 そして、ドラゴンは、諦めて去っていた。

 と、見せかけて、再度『グライダースパイク』!

 しかし、結果は変わらず。


 日が沈もうとしている。

 シェルター vs ドラゴン。

 両者にらみ合いの様相のまま。

 俺に出る幕なし。


 もう、ご飯食べて寝よう。






*****






 一夜明け、早朝。

 ドラゴンは、まだ窓の前にいた。

 ただし、攻撃を仕掛けてくる様子は見せない。

 まるで、俺がシェルターから出てくるのを待っているように。


「コイツ、盗賊よりもシツコイよ」


 ドラゴンは静かに、窓を見つめている。

 『ドラゴンが諦めるのを待つか』とか、『誰かが助けに来てくれるのを待つか』とか。

 当然、それらの思考は浮かぶのだが。

 でも、俺は、どうしても。

 試してみたい『策』を思いついていたのだった。


 ドラゴンが窓から一旦視線を外したタイミングを見計らって。

 俺は、即、シェルターのドアを開けて、外界に出る。

 ドラゴンの反応は優れていて、その異変にすぐに感づかれてしまう。

 勝負は一瞬。


「シェルター・クローズ!!」


 俺は頼みの綱のシェルターをあえて、収納。

 俺とドラゴンの間には、隔てるものは存在しない。


 ドラゴンの体、右腕が動く。

 爪で殺しに来ている。

 頼む。

 間に合ってくれ。

 そして。

 『降って』くれ!


「シェルター!

 ドラゴンの『頭上』にオープン!」


 その瞬間、ドラゴンの上空にシェルターが召喚された。

 シェルターは、そのまま垂直落下。

 そして、その巨体で、ドラゴンを押しつぶした。


<<ギャウゥゥゥゥゥン!>>


 が、ドラゴンの防御力も相当のものがあったようで、シェルターは回転して、地面に落下した。

 その瞬間、シェルターは消滅してしまう。

 ドラゴンは相当なダメージを受けている。

 それは間違いない。

 しかし、致命傷にはならなかった。


 ならば。

 今こそ。

 勇気を出して。

 この包丁で、トドメを!!


「やーーーーーーーー!」


 今にも暴れ出しそうなドラゴンの顔面に、一閃を食らわせる。

 それで。

 それで運良く。

 勝負がついたのだった。

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