第3話
ゲームが始まり最初に口を開いたのは革ジャンの男だった。
「で、どうするよ。力尽くで奪うのはダメ、かと言って騙し取る方法もないだろう。しかしこのまま終了すれば全員借金だぜ」
「くっくっく」長髪の男が笑う。
「あ?何が可笑しい」革ジャンの男が眉を吊り上げる。
「いや失礼、君の言う通りだよ」不敵な笑みを浮かべたまま返した。
険悪なムードを払うように成瀬が慌てて話す。
「あ、あのっ。自己紹介しませんか?なんてお呼びしたらいいか分かりませんし…。私は成瀬葵っていいます。よろしくお願いします」
少しの沈黙の後、革ジャンの男が口を開いた。
「俺は加藤渉。こんなところにいるが一応役者をやってる」
「ウチは野崎。アンタは?」厚化粧の女が長髪の男に尋ねる。
「ふっ、名前なんてどうだっていいだろ。それよりポーカーでもしないか?彼の言う通りこのままでは全員借金なんだ。だからそれぞれ自分の皿を賭けるのさ。勝負するかどうかは一番最後、手札を見てから決めていい。どうかな?」
「ぼ、僕は…さ、賛成です」隣にいた背の低い男が賛同する。
「おいおい、正気かよ。金の懸かった大事な皿をトランプなんかで決めちまおうってのか?」奇抜な提案に加藤が反対する。
「別にいいんじゃないかしら。仮にどんな手札が来たとしても勝負しなければお皿が奪われることはないんでしょ?」ずっと黙っていた巻き髪の女が言う。
「その通りさ。ウォーミングアップと思ってもらえればいい。参加する者はそこのテーブルに着いてくれ」
その言葉で皆が席に着くと加藤も渋々参加した。長髪の男がカードを配る。
「交換は一度だけ。勝負する者は手を挙げてくれ」
皆が一度ずつ交換し終えると長髪の男が手を挙げた。
「…マジかよ。ロイヤルストレートフラッシュか何かか?本当に勝負するなんてな。初めから決めてたが俺は降りるぜ」
加藤が降りたのを見て他の3人も降りる。全員の視線が成瀬に集まった。
「じゃあ私勝負し…」成瀬が手を挙げようとした時巻き髪の女がそれを制した。
そして驚いた成瀬の顔を見つめながら小さく首を横に振った。
「そうか…残念だ」成瀬が降りると長髪の男はカードを開示した。Kの4カードだった。
「皆は?」そう聞かれて他の5人もカードを開く。
「では度胸のない連中だということが分かったところで私は失礼するよ」
そう言うとトランプを片付けロビーの方へ歩き出す。少し遅れて加藤、野崎、そして小柄な男も続いた。
「ちょっと待って」巻き髪の女が立ち上がる。4人は足を止めた。
「百目鬼さん…でよかったかしら。文字の書かれたトランプ落とされましたよ」
加藤たちはハッとしたようにトランプを探したが長髪の百目鬼という男は振り返ることもなく「なら君にプレゼントしよう」と言って二階へ上がってしまった。加藤たちも慌ててそれを追いかけ、食堂には巻き髪の女とまだトランプを探している成瀬だけが残された。
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