アンネの事件帖〜魔女なのに魔法を使わないで事件解決!?〜

逢雲千生

プロローグ


 生きていると、毎日が退屈だという人がいるけれど、私はその逆だった。


 毎日が忙しすぎて、毎日が辛すぎて、いつも逃げ出したいと思ってい

た。


 だから、これはチャンスだと思ったの。


 握りしめた杖を手に、少女は駆け出した。背後には黒い影が複数あり、少女に向かって手を伸ばしてくる。しかし少女は手が届く範囲を抜け、空へと飛び上がった。




 眩しくて目を開けると、細めたまぶたの間から、太陽の光が入ってくる。


 何度か瞬きをして寝返りを打つと、狭いながらも自分が買ってきた品物で埋め尽くされた棚が目に入る。まだ寝ぼけているが、ついさきほど夢で見たものと違って、穏やかな日常の光景に自然と笑みがこぼれた。


 二階建ての家は、いつ建てられたのかもわからないほど古いけれど、若い女性が独りで住むには充分な広さだ。あちこちが一人用に作られているため、移動が不便になる場所もあるが、今のところは問題ない。


 朝ご飯の準備をしながら窓の外を見ると、今日は雨が降らないと一目で分かる綺麗な青空が見えた。


 いつもと変わらない日常。


 いつもと変わらない一日。


 そう思うと、幸せだなあと感じてしまう。


 残り少ないバターとミルクを使い、女性はお手製のオムレツを作ると、なかなかの出来映えに満足しつつ、今日の予定を確認する。


「今日は買い物の日だから、戸締まりはしっかりしないと。あと、ついでだから野菜とかも補充しとこうかな」


 在庫が残りわずかの野菜と肉。思い出したようにつぶやくと、ついつい笑ってしまう。


 何気ない日の、何気ない笑顔。


 もう一度幸せを噛みしめつつ、彼女はお茶を飲み干した。

 

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